2001年7月6日

濃縮ホウ素製品の生産・販売の開始について
〜国内初で原子炉の臨界制御材や中性子吸収材の原料を生産〜

 当社はこのほど、ステラケミファ株式会社(以下ステラケミファ、本社:大阪市、社長:深田純子氏)との共同開発により、(*1)濃縮ホウ素を原料とするホウ酸の生産を開始しました。
 その他の濃縮ホウ素製品(炭化ホウ素、ホウ素入りアルミ合金)については、すでに試作段階を終了し、今後の需要動向に応じて生産体制を整えます。また、これに併せて、生産された濃縮ホウ素製品の本格的な販売活動も開始しました。販売は当社が全世界向けに行います。
 このうち、ホウ素入りアルミ合金は使用済み核燃料の輸送・貯蔵容器(キャスク)用として国内メーカー向けに初受注を果たしております。

 濃縮ホウ素は(*2)化学交換蒸留法により、BF3(三フッ化ホウ素)ガスの形態で濃縮させた後、水に溶かします。このBF3水溶液を原料として、用途に応じて異なる濃縮ホウ素製品を生成します。濃縮ホウ素の製造プラントはステラケミファ泉工場に設置され、本年2月より年間2〜3トンの予定で生産を開始しています。濃縮ホウ素の量産は本プラントが国内で初めてのものです。

 ホウ酸、炭化ホウ素の生産は濃縮ホウ素同様、ステラケミファ泉工場で行われます。また、ホウ素アルミニウム合金は、アルミ分にステラケミファ泉工場で製造されたKBF4(ホウフッ化カリウム)を少量添加して生産します。鋳造は日本高周波鋼業株式会社富山製造所(以下日本高周波)で行い、この鋳塊を用いた圧延材を当社真岡製造所、押出材を当社長府製造所で生産します。

 近年、原子力発電所の原子炉内では、効率よく核分裂反応を起こすために、燃料として核分裂がしやすいウラン分(U-235)の濃縮度を従来より高める、などの方法が検討されています。このため、加圧水型原子炉(PWR)では炉内での反応を十分な余裕を持って制御できるように、従来の天然ホウ素から、中性子の吸収能力の高い濃縮ホウ素を用いたホウ酸水を、原子炉水に注入する動きが出ています。
 炭化ホウ素は原子炉の制御棒の材料としてPWR及び沸騰水型原子炉(BWR)に使用されていますが、これらの原子炉でも上記に述べたようにU-235の濃縮度を従来より高めた燃料の採用などがなされています。このため、より安全性を確保するために濃縮ホウ素が検討されています。
 また、ホウ素アルミ合金はキャスクの中性子吸収材として使用されています。このように濃縮ホウ素の国内需要は現在、年間2〜3トンあり、今後も安定した需要が見込まれています。

 ホウ素アルミ合金はこれまで、ホウ素のばらつきによる強度不足や中性子の吸収能力の低下などが課題とされてきました。当社では、日本高周波と共同で特殊な溶解技術を開発し、ホウ素の均質化を実現しました。これは、真空溶解炉を用いて通常のアルミ合金の溶解温度より高い温度(約1000℃)で溶解鋳造する方法で、高品質の鋳塊が製造できます。当社では、キャスクの材料として自社にて使用するだけでなく、外販も積極的に行っていく考えです。
 この他、ホウ素ステンレス鋼に含まれるフェロボロンの販売も今年度中に開始する予定です。ホウ素ステンレス鋼は主に使用済み核燃料プールのラック材などに使用されます。

 濃縮ホウ素製品は特殊な用途に使用されるため、これまで国内では商業生産が行われていませんでした。加えて、全世界でこれらの製品を生産しているのは実質的に米国のメーカー1社に限られており、独占供給が続けられてきました。このため、濃縮ホウ素を材料としているユーザーにとって、安定品質や納期管理の面での不安などから新たな供給メーカーが国内外から望まれていました。

 当社は、キャスクの国内トップメーカーとして中性子吸収材用に濃縮ホウ素をキャスク1基あたり約30kg使用しています。また、キャスクのニーズは今後、増加する傾向にあります。
 こうした状況を踏まえ、当社では濃縮ホウ素の自社生産の可能性について本格的な検討を行ってきました。その後、濃縮ホウ素の生産に不可欠なフッ素化合物の大手メーカーであるステラケミファとともに年産100kg規模のパイロットプラントによる共同開発を行ってきました。その結果、量産化にめどをつけ、本格生産を開始したものです。


【ご参考】
(*1)濃縮ホウ素とは?
天然のホウ素には、ホウ素−10(10B)とホウ素−11(11B)の2種類の同位体(陽子数が同じで中性子数が異なる)がある。このうち、中性子の吸収能力が優れている10Bの自然界での存在比は約20%であり、残りはほとんど吸収能力がない11Bである。この10Bの存在比を高めた材料を濃縮ホウ素という。このたび、この10Bの濃度を95%程度まで高めることにより、天然のホウ素に比べ5倍程度、中性子の吸収能力を高めた濃縮ホウ素の商業生産を開始するに至った。

(*2)化学交換蒸留法とは?
ホウ素−10が錯化材(錯体=一つの原子やイオンを中心として、その周囲に別種のイオン、分子、多原子イオンが結合した集合体、を含む化合物)に溶けやすい性質を利用して、濃縮塔にて天然ホウ素(三フッ化ホウ素)を反応させ、ホウ素−10のみを含んだ錯化材を取り出す。その後、この化合物からホウ素−10をヒーターで加熱分離することにより製造する方法。既存の蒸留技術が使え、連続生産が可能。今回の製法は常温常圧で行うため、装置の腐食防止効果が高く、かつ設備の簡素化も図れるためコストダウン効果が大きい。

ステラ ケミファ株式会社の概要
本 社:大阪市中央区淡路町3丁目6番3号
代表者:取締役社長 深田 純子
設 立:1944年2月
資本金:31億8 千万円(2001年3月末)
従業員:187名

以 上



 


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