第3回 金賞作品紹介

「森のまほうの洋服」  﨑戸 美水

ぶなの木の森の中に、
小さな小川が
サラサラと流れていました。

その川のほとりに、小さなあらいぐまの
ふた子のきょうだいが
『あらいや』というお店を開いていました。
名前は、男の子がアーラ、
女の子はマーラといいます。

ある日、小川から一まいのボロボロの洋服が
流れてきました。
さっそく二人で洗いましたが、
よごれがぜんぜんとれません。
そこで二人が川で思いっきりこすると、
いきなり洋服が光りはじめて、
すぐにきえてしまいました。

二人はその洋服に見おぼえがありました。
「あれは、まほうつかいのクマのミラじいさんのだ。
急いで見つけなきゃ、
ミラじいさんがとりにくるかもしれないよ。」
とアーラが言うと、マーラも
「そうね、早く見つけなきゃね。」といって、
二人でさがしに行きました。

何時間も森の中を歩いても、
なかなか洋服が見つかりません。
と中でつかれた二人は、
木の根元で休むことにしました。
そうすると、
あの洋服が急に目の前にあらわれました。

アーラとマーラが
その洋服をおいかけると、
それはぶんしんのように
二つになって、
わかれ道にヒラヒラと
とんでいってしまいました。

「アーラ、わたしこっちに行くから
ついてきてよ、
ほら、早くして!」
「なに言ってんだよマーラ、
あっちだってば。
いいから、ついてきて!」

けんかをしてしまった二人は、
べつべつに洋服をおいかけました。

ふしぎなことにわかれた道はつながっていて、
二人はまたいっしょになりました。
顔を見合わせると、マーラの頭の上にはトンボが、
アーラのはなの上にはテントウ虫がとまっていました。
「フフフフフフ」
「ハハハハハハ」
わらっているうちに、けんかしたこともわすれて、
二人はたちまちなか直りをしました。

そのまま歩いていくと、
ほうきにのったミラじいさんに出会いました。
ミラじいさんは、
「まほうの洋服が
そちらの川に流れてきておらぬか?」
とたずねると、マーラは
「な、な、ながれてきていません。」
とこたえてしまいました。

ミラじいさんはがっかりしたようすで
またとんでいってしまいました。

「なんで、本当のこと言わないの?」
「わからないよ。かってに口が動いたの!」
「そんなバカな、動くわけないよ。」
「でも、本当だってば。」
「しょうがないな。
ミラじいさんに本当のことを言いに行こう。」
二人は大急ぎで森のはずれの池のほとりにある、
ミラじいさんの家にむかいました。

ミラじいさんの家は遠くて、
夕方までにたどりつけそうにありません。
そこで二人は、川の石をつみあげて家を作り、
そこで一ばんとまることにしました。

つぎの日、ミラじいさんの家についた二人は、
本当のことを話しました。
すると、
「よくここまできたのぉ、アーラ、マーラ。
本当のことを話してくれてありがとうな。」
「ミラじいさん、どうしてあのボロボロの洋服は
にげてしまったの?」
「あの洋服は、『フック』と言って、
森をきれいにする番人なんじゃ。
川をそうじしている時、川の水があまりにもきたないから、
いやになっておこってにげてしまったのじゃ。
本当はわしらがわるいのじゃ。川にゴミをすてるからのぉ。」

「いっしょにフックをさがそうよ。」
「さがしに行ってもむだじゃ。
フックはまほうの力をもっておるから、
にげるのもかんたんにできるのじゃ。」

「そしたら、しごとが楽しくなるように
したらどうかしら?」とマーラが言うと、
「そりゃ、いい考えじゃ。」
「ゴミを集めて、ツリーハウスを作ったら?」
「いいね、そしたらフックも楽しくなって
かえってくるんじゃないかな。」

アーラとマーラは、森の友だちを全員よんで、
川のゴミや、流れてきた木のえだや、葉っぱをひろいました。
「ツリーハウスは、どうやって作るの?」
「だいじょうぶ、ぼくがせっけい図を作ったから。」
アーラが大きな紙に書いたせっけい図を広げると、
みんなおどろきました。

それは、フックの形だったからです。
「うわ、楽しそう。すべり台もある。」
「これならフックもよろこびそう。」
「さあ、みんな作るぞ!エイエイオー。」

フックは、
みんなの楽しそうな声を聞いて、
そっと近づいてみましたが、
かげになって
なかなか見えません。
「できた!」
みんながさけびました。
「すばらしいのぉ。」
ミラじいさんが言うと、
フックもがまんができなくなり、
とうとう出てきてしまいました。

「フック!やっともどってきてくれたのか。」
ミラじいさんは大よろこび。
フックはみんなで作ったツリーハウスを見て、
「うわ、ぼくの形のツリーハウスだ。」
と、目を丸くしておどろきながら、
まっさきに中に入りました。

木のえだなどで
作った家の中には
ビンのランプ、
あきかんのテーブル、
はっぱのテーブルクロス、
ペットボトルのすべり台、
木のえだのジャングルジム、
木のかわのブランコ、
ドラムかんのおふろまであります。

「フック、ごみを川にすててほんとうにごめんなさい。」
みんながあやまると、
「いいよ、ぼく、きたなくなった川がいやで
にげだしたんだ。ぼくの方こそごめんなさい。」と言うと、
アーラとマーラがきれいにせんたくできなかったあの洋服が、
しんぴんのようにきれいにぴかぴかになりました。
フックは大よろこびです。

それからフックは、ツリーハウスでくらしながら、
番人のし事をがんばって、ぶなの森をしあわせにしました。
アーラとマーラはフックの大しん友になりました。
今日もみんなで、ツリーハウスで楽しく遊んでいます。

「森野銀行小山(おやま)支店」  藤原 瑛人

「大変だ!!森の中で迷ったぞ!!」
右に行っても、左に行ってもこの場所に出てきてしまう。
手の中の方位磁石の針も、ボクと同じでグルグルと迷っている。
ここは、大きな木がしげっていて、上を見上げても薄暗くて、
どこかヒヤッとしている。
暗い森の奥から、時々フワーッと冷たい風がボクの汗だくの体を
一瞬で冷やす。
「クーラーの効いた店にいるみたいだ。」
歩きながら、あまりにも気持ち良くて目を閉じた。

バサ!バサ!
森のもっと奥から突然、大きなヤマバトが飛びだしてきた。

ボクは、ビックリしてヤマバトを目で追うと、
少し離れた所に銀行みたいな建物が目に入った。
「助かった、これで山を下りられる。」

銀行までの道は、カシの木と深緑でフカフカの
コケのじゅうたんが広がっている。
ふと見ると、カシの木に「ドングリ貯金は当店で❤」
と書かれたポスターがペタペタ貼ってあった。
少し余裕が出たボクは、
ポスターの中のリスみたいに
カワイイ女の子を見たり、
まっさらな深緑のじゅうたんに
わざと足跡をつけたりしながら歩いて行った。

ホッとしたら急にトイレに行きたくなったので、
あわてて小走りで銀行の方へ急いだ。
ウィーン。
自動ドアが開くと、
「いらっしゃいませ、森野銀行小山支店へようこそ。
私、店長の森野熊太です。」
耳まで届きそうな口を開けて、笑いながらその人は
森中にひびきわたる様な声で言った。

熊みたいに大きな森野さんにビックリしたけど、
トイレに行きたかったボクは、
「あの・・・、トイレお借りできませんか?」
と、あわてて聞いた。
言い終わるのを待たずに、ドスン!大きく肩をゆらしながら
店内に案内するように入っていく。
ボクもつられて歩きだしたが、森野さんはドスンドスンと
一歩一歩、体重を片足にかけてゆっくり歩く。
そして、ネクタイをキュッとしめ直してから、
大きな毛むくじゃらの両手で、緑の名刺を銀行マンらしく深々と
おじぎをしながらボクに渡してきた。
スグにでもトイレを借りたかったから、
「ステキな名刺ですね。」
と言い、よく見ずにポケットに入れた。
「葉っぱで出来ているんです。」
と、森野さんはまたニタ~ッと耳まで届きそうな口を広げて笑った。

ジャーーーー。
トイレを済ませてほっとしたら、おかしな事に気づいた。
(こんな森の奥に銀行? 森野銀行なんて聞いたことないぞ!)
もらった名刺をポケットから出すと、パラパラと手のひらで
名刺がくだけてしまった。
「本当の葉っぱじゃないか!!」
ビックリして、こわくなって、青くなって足がふるえて立てない。
便座に座ったまま、足はバタバタ動くだけ。

「お客様、大丈夫ですか?」
ドアのすき間から、白いフカフカのスリッパが見えた。
「私、窓口の林田ウサ子と申します。
トイレの間にお得なドングリ貯金の案内をいたします。」

(普通じゃない!おかしいぞ、ぜったい!)

「あずかりました種を大切にお世話して育てると元気な芽が出て、
たくさんの緑と実りができます。
木は林になり、最後には豊かな森へ変わります。」
「当銀行は手数料で半分の実りを頂きます。」
テレビショッピングみたいに森野さんが話に入った。
「それをくり返しながら、お客様の気持ちで
森を大きく育てているのです。」

(緑の森はステキだけど、とにかくここから出なくちゃ。)
便座に座ったまま、ボクはさけんだ。
「タクシーか車を呼んで下さい!」
その声に森野さんが静かな声で答えた。
「車はいけません。車の煙でルリビタキが歌えなくなります。」

「じゃ!じゃあ!おまわりさんを!」
「あれもいけません。
赤いランプの光がクルクル回って、
イノシシじいさんの目を回してしまいます。
お客様、本当に人間みたいですね。」
森野さんは、ドアの向こうで静かに笑った。

「お帰りの際は、ぜひ貯金をどうぞ❤
いつまでも・・・、お待ちしております。」
と言って出て行った。
ボクはあわてて、ポケットをさぐった。
小銭とアメとカヤの実。
登山の途中でお土産に拾っておいた物だ。

カチャッ。
トイレから出来るだけ普通に出ると、窓口に行ってカヤの実を
3個出した。
(きっと、小銭やカードじゃないんだ!!)

「ドングリ貯金への加入、ありがとうございます。
5年後、たくさんの緑が出来ます。
お客様にはたくさんのカヤの実を、町までお届けにあがります。
グルルッ・・・。」
と、森野さんは嬉しそうに身ぶるいしながら頭を下げた。
「ご利用、ありがとうございました。」
森中に声が響いた。