新直接還元溶解製鉄法の開発について


                              1996年7月24日
                               株神戸製鋼所
                               Midrex社

          新直接還元溶解製鉄法の開発について

 株神戸製鋼所(以下 神鋼)及びMidrex社は、既に、粉鉱石を原料として用い、石
炭を還元剤としてスポンジ・アイアン(直接還元鉄)を製造するFASTMETプロ
セスを完成しておりますが、今般、FASTMETと同様の原料と還元剤を使用して、
鉄鉱石中に含有される脈石成分を溶解分離し、鉄分を溶融した状態(モルテン・アイ
アン)で取り出す基礎原理を発見致しました。
 また既に、反応機構の解明と基礎技術の確立(フェーズ1:96年7月~97年3月、投資額
約2億円)のための開発に着手致しました。同時に、ベンチ・スケール設備でのテス
ト(フェーズ2:96年10月~98年6月、投資額約5億円)も実施致します。更に、フェーズ1、
フェーズ2の実施により事業化の目処がついた段階で、パイロットプラントの建設・操業
(フェーズ3)を実施する予定です。なおフェーズ3への移行については、将来的に本プロセ
スのユーザーとなる会社から、建設・操業資金を募ることにより実施することを検討
しています。

 新直接還元溶解製鉄法は、粉鉱石に石炭を混合したペレットを1300℃~1500℃で加
熱・保持し、短時間(6~10分)で鉄鉱石(酸化鉄)を還元させると同時に、鉄鉱石
が含有する脈石成分とモルテン・アイアンが溶解分離するという現象を応用した新製
鉄法です。
 この新直接還元溶解製鉄法は次ぎの特長を有しています。
 1還元・溶解に要する時間は、高炉法の6~8時間に対して、新直接還元溶解製鉄法
 は6~10分と極めて短時間である。
 2製品がモルテン・アイアンであるため、下工程(電炉等)での操業時間の短縮とエ
 ネルギー原単位を大幅に向上させることができる。
 3製品を溶解状態のままで使用すれば、いきなりレードル・ファーネスで成分調整を
 して、連鋳工程に移行することも可能になる。
 4一旦冷却する場合には、製品は粒鉄またはインゴットになり、再酸化の危険もなく
 輸送も容易である。

 5生産されるモルテン・アイアンはスラグが溶解分離された純鉄に近いもので、高炉
 銑鉄とほぼ同等の品質を有している。また、炭素含有量の調整は可能であるが、一
 般的には高炉銑鉄と比べれば炭素含有量が少ない。
 6資源として豊富な粉鉱石を使用し、還元剤としては天然ガスではなく石炭を使用す
 ることができるため、プラントの立地に制限を受けることがない。そのため、ユー
 ザーに近接したプラント建設が可能であり、電炉以下の下工程をも含めたトータル
 コストは大幅に削減可能となる。
 7個々のペレット内で還元が完了した後に、メタルとスラグの溶解が進むため、残存
 FeO 量が希少となり、FeO による炉内レンガの侵食に悩まされることがない。

 近年、特に北米・東南アジアを中心として電炉ミニミルによる鉄鋼生産が大きく伸
びており、この傾向は今後とも当分継続すると予想されます。一方、最近の技術革新
により従来電炉では生産できなかった製品分野にも電炉ミニミルの進出が著しくなっ
ており、高級スクラップ・清浄鉄源(バージンメタル)の需要は恒常的に不足してい
ます。この様な状況下で、神鋼は、ベネズエラ国において天然ガスを還元剤とする直
接還元製鉄法(ミドレックス法)により、年間約90万トンのホットブリケットアイアン
(HBI)の製造・販売を行う直接還元製鉄プラントの建設・操業(ミノルカ・プロ
ジェクト)を行い、新鉄源ビジネスに先鞭をつけました。更に同国において、2つ目
の年産 100万トンの直接還元製鉄プラントの建設・操業を行うコムシグア・プロジェク
トのプロジェクト契約に本年5月に調印し、現在建設着工に向けて推進中です。

 一方、現在の直接還元製鉄の大部分は、ミドレックス法を中心とした天然ガスを還
元剤としたプロセスにより製造されていますが、北米や東南アジアなど安価な天然ガ
スが確保できない地域においては、石炭を利用する直接還元製鉄法の商業化に対する
期待が高まっています。こうした中、神鋼とMidrex社は、共同で神鋼加古川製鉄所内
にデモプラントを建設して商業化に向けた実験を進め、操業データの蓄積を行い、F
ASTMETプロセス(粉鉱石+石炭)の開発を完成させました。FASTMETの
商業展開については、ルイジアナ州で年産90万トン規模のプラントを建設・操業すべく、
三井物産株と共同で詳細なF/Sを実施してきました。神鋼と三井物産株の両社は、
既に本案件の推進母体として出資比率50:50の合弁会社を設立しており、年内にプロ
ジェクトをスタートさせることを予定しております。
 神鋼及びMidrex社は、今回開発に着手する新直接還元溶解製鉄法の技術・プロセス
が確立すれば、次代を担う画期的な製鉄法となりうると位置づけております。勿論、
ミドレックス法、FASTMETも立地条件やユーザーニーズによって、その有用性
はいささかも失われるものではないと認識しております。


ご 参 考 

<Midrex社の概要>
  1社 名:Midrex Corporation
  2本 社:ノースカロライナ州 シャーロット市
  3設 立:1983年8月
  4社 長:Winston L.Tennies
  5資本金:1,614千ドル
  6出 資:神戸製鋼100%
  7事業内容:ミドレックス法直接還元製鉄プロセスの開発・販売



<高炉法による還元について>

 高炉の本体は細長いトックリ型で、炉頂から原料(鉄鉱石、コークス等)が挿入さ
れる。主原料の鉄鉱石には、鉄分が約60%含まれているが鉄分は酸素としっかり化合
しており、還元剤としてコークスを使用する。炉の真ん中に、炉心コークスと呼ばれ
るコークスの山がある。そしてその周囲には、炉頂から挿入された鉄鉱石とコークス
とが層をなして交互に積み重なっている。このコークスは、炉の下から吹き込まれる
熱風や酸素と反応して一酸化炭素や水素などのガスを発生する。この熱いガスは激し
い上昇気流となって炉内を吹き上り、鉄鉱石を溶かしながら酸素を奪い取っていく
(間接還元)。溶けた鉄は炉の中を流れ落ち、コークスの炭素と接触して更に還元
(直接還元)され、炉底の湯溜り部にたまる。



<ミドレックス法について>

 ミドレックス法はリフォーマでH2 +COガスに改質した天然ガス(CH4)を還元
剤として用いる還元鉄製造技術である。還元炉にはシャフト炉を使用し、天然ガスの
改質装置を付帯する。還元は原料(塊鉱石・ペレット)をシャフト炉上部より挿入し、
炉中間部から吹き込む還元ガスにより行う。製品はDRIもしくは再酸化の起こりに
くく輸送が容易なHBIとされる。工場立地は主として天然ガスの産出国となる。
 ミドレックス法の特長は以下の通りである。
  1原料として塊鉱石、ペレットの両方の使用が可能である。
  2還元炉排ガスを還元ガスの改質に循環使用できる。
  3還元時間は6~8時間であり、還元温度は 800℃~ 900℃である。
  4現在の世界の直接還元鉄生産の内約65%がミドレックス法で生産されている。



<FASTMETについて>

 FASTMETは石炭を還元剤として用いる直接還元鉄製造技術であり、還元炉に
はロータリーハース炉が使用される。還元は石炭粉と粉鉱石を混合したペレットを炉
床に敷きつめ、バーナーで加熱することによって行う。製品はDRIもしくは再酸化
が起こりにくく輸送が容易なHBIとされる。工場立地は、鉄鉱石と石炭の入手が可
能な場所であれば大きな制約は受けない。
 FASTMETの特長は以下の通りである。
  1非焼成の炭材内装ペレットを使用する。
  2ロータリーハース炉内での高温輻射伝熱によって加熱・還元を行う。
  3還元温度は約1350℃で、8~10分の急速な還元が行われる。
  4還元鉄中の炭素量が高く、かつ調整は容易である。



                                   以 上
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