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プレスリリース

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国内最高強度(780N/mm2級)の円形鋼管(KSAT630)を初受注

~東京スカイツリー®のゲイン塔向け~

2010年1月26日

株式会社神戸製鋼所

当社は、佐々木製鑵工業株式会社(以下、佐々木製鑵)と共同開発した国内最高強度(780N/mm2級)の建築用円形鋼管[KSAT630:引張強度(TS)≧780N/mm2, 降伏強度(YS)≧630N/mm2]を、東京スカイツリー最上部のゲイン塔(参考資料参照)向けに受注しました。今春から納入を開始する予定です。最大板厚80mmまでの780N/mm2級厚肉円形鋼管が建築構造物に採用されるのは、国内初となります。
なお、当社はこれに先立ち、建築分野の780N/mm2級の厚鋼板について、建築構造用厚鋼板(KBSA630)を2001年に、円形鋼管(KSAT630)を2007年に、いずれも業界初となる国土交通大臣認定を取得しています。

KSAT630は、高強度鋼において性能確保の難しい、(1)低降伏比(YR)化(注1)、(2)高靭性化、(3)溶接施工性向上、(4)溶接熱影響部(HAZ)の靭性向上(注2)という多くの課題を解決した、耐震安全性の高い高性能鋼管です。
鋼板の製造技術として、TMCP技術(注3)を駆使した金属組織制御により、微細組織化と硬質相&軟質相の複相組織化を図りました。さらに、鋼管加工での材質変化を予測して鋼板を製造するなど、当社での鋼板製造と佐々木製鑵での鋼管加工を一貫製造工程として造り込む体制を通じ、従来95%程度であったYRを90%以下にまで低減させることに成功しました。
また、従来の780N/mm2級鋼を溶接する際には一般的に100℃以上の予熱管理が必要で、溶接入熱量も50kJ/cm以下の小入熱に抑える必要があるなど溶接施工時の制約が多いため、その改善が求められていました。
KSAT630は、当社独自の溶接熱影響部(HAZ)靭性改善技術である「低カーボン多方位ベイナイト技術(ベイナイト組織微細化技術)」(注4)を適用し、炭素量を従来鋼の1/2以下の0.05%まで低減させるとともに、Mn、Cr、Niなどの元素を用いた成分設計によって、溶接部の硬化を抑え、高いHAZ靭性を確保することが可能となっています。これにより、予熱温度の低減が可能となり、溶接施工性が改善できると共に、従来鋼に比べ約2倍(100kJ/cm)の大入熱溶接(注5)にも対応可能になり、工期短縮によるコストダウンが期待できます。また、溶接部の性能改善により、巨大地震時の脆性破壊に対する安全性が向上しています。

本鋼材の低YR化、溶接割れ防止、高HAZ靭性化などのトータル技術により、長寿命で安全安心な建築構造物を実現できました。また、こうした優れた特性により、超高層建築物や大スパン化する建築物に対応するとともに、部材の小断面化,薄肉化が可能となり、意匠性・設計の自由度向上にも寄与できます。また輸送および加工コストの削減、現場工期の短縮などのコストダウンにも貢献できます。

今回受注したKSAT630の鋼管加工は、全量佐々木製鑵で行ないます。同社は従来から当社と鋼管を共同開発する関係にあり、国内最大級の15,000トンプレス機を有するプレスコラムメーカーです。また、今回受注したKSAT630の加工に際しては、この強度では国内最長となる製品寸法13mまで製造可能であり、鋼管の周継溶接量の削減を通じて工期短縮等のコストダウンを実現できます。

東京スカイツリー向けの当社円形鋼管は、490N/mm2級鋼管(KSAT400)及び 590N/mm2級鋼管 (KSAT500)が、塔本体部に採用実績があります。これらのメニューに加え、当社ではKSAT385からKSAT630まで様々な強度クラスの商品を取り揃えており、建築構造の幅広いニーズに対応しています。
神戸製鋼の円形鋼管メニュー
商品名 降伏強度(YS) 引張強度(TS)
KSAT325 325 N/mm2 490 N/mm2 50kg
KSAT355 355 N/mm2 520 N/mm2 53kg
KSAT385 385 N/mm2 550 N/mm2 55kg
KSAT400 400 N/mm2 490 N/mm2 50kg
KSAT440 440 N/mm2 590 N/mm2 60kg
KSAT500 500 N/mm2 590 N/mm2 60kg
KSAT630 630 N/mm2 780 N/mm2 80kg
注釈
(注1)降伏比(YR)
yield ratioの略。
降伏比とは引張強度(TS)に対する降伏強度(YS)の比率のことで、高いということは引張強度と降伏強度に差がないということから、伸び始めるとすぐに破断してしまうことを意味する。
低YRとは、引張強度に対する降伏強度の比率が低く、降伏強度以上の力を加えられても、破断に至る引張強度に達するまでの強度に差がある状態。降伏強度以上の力を受けたとしても、引張強度以上でなければ、建築構造物が傾きはするものの倒壊せずに済み、建築構造物に使用する鋼材では、差が大きいほど安全性に"余裕がある"と考えられ、同じ降伏強度の鋼材であれば、引張強度との差のある降伏比の低い鋼材が求められている。
(注2)HAZ靭性
溶接時の鋼材の熱影響部(HAZ =Heat Affected Zone)の靭性。溶接時の高温加熱により金属組織が粗大化し、母材より靱性が低下する。入熱が大きいほど、高温での滞留時間が長く冷却が遅いため、金属組織が粗大化しHAZ靭性が劣化する。
(注3)TMCP(Thermo-Mechanical-Control-Process)技術
鋼材の熱加工制御技術の一種。鋼材製造時の加熱温度、圧延温度、冷却温度のきめ細かな制御により、所定の特性を圧延ラインで造り込む。高強度・高靭性の鋼材が製造可能となる。
(注4)低カーボン多方位ベイナイト(ベイナイト組織微細化)技術
最適な成分設計と組織制御により、高強度鋼に大入熱溶接を行う際の溶接熱影響部(HAZ)靭性劣化を改善する当社の独自技術。カーボン(炭素)量を従来鋼の1/2〜1/4と大幅に低減することにより、硬くてもろい組織(島状マルテンサイト)の生成量を大幅に低減するとともに、Mn, Cr, Ni等の合金元素添加により、大入熱溶接熱影響部で粗大化したオーステナイト粒内を微細なブロックに分割する画期的な金属組織制御技術。
(注5)大入熱溶接
入熱は溶接を行う際、電源から溶接部に投入される熱量。単位はkJ/cmまたはkJ/mm。
大入熱溶接はおよそ100kJ/cm以上を言う。
参考資料

佐々木製鑵工業(株)の概要

社名: 佐々木製鑵工業株式会社
本社・工場: 兵庫県伊丹市東有岡5丁目47番地
創業: 1935年5月10日
社長: 佐々木克義
資本金: 120百万円
工場敷地: 30,000m2
工場建坪: 17,800m2

佐々木製鑵工業(株) 15,000トン プレス機
佐々木製鑵工業(株) 15,000トン プレス機

ゲイン塔とは

スカイツリーの頂上部で主に放送用のアンテナが設置される部分。
長さは約130m。外径は約6m。この周りに各社のアンテナが取り付けられます。

ゲイン塔