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No.1 アルミ[原料]その1

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

世の中に広まってから100年余の間に、
すっかり金属の主役級となったアルミニウム。
大地の恵みであるボーキサイトがアルミナとなり、
アルミニウムへと生まれ変わる工程の発見は、
人間社会に大きな飛躍をもたらしました。
今回は原料としてのアルミニウムに注目してみましょう。

ボーキサイトがアルミナとなり、 アルミニウムが誕生する。

アンサー氏
やさしい技術の第一歩は「原料」から始めましょう。 さて、モンちゃんはアルミの原料が何か知ってますか?
モンちゃん
ボーキサイト!それ位知ってますよ。 主な原産国はオーストラリアやベネズエラなど。ボーキサイトは世界中に250億トン以上埋蔵しているといわれ、現在すでに使用したのは1億トン程度。 まだまだ豊富な埋蔵量があるんでしょ。

ボーキサイトがアルミナとなり、 アルミニウムが誕生する。

アンサー氏
はい、その通り。 ではボーキサイトはどのようにしてアルミニウムになるのかわかりますか。
モンちゃん
膨大な電力を使って、電気分解されるのは知ってますが…。
アンサー氏
ボーキサイトは、まずアルミナ、水酸化アルミニウムなどとなり、最終的にアルミニウムが誕生します。 ではアルミナの精製から説明しましょう。
モンちゃん
ボーキサイトの中にアルミナが含まれていて、それを取り出すってことかな。
アンサー氏
ボーキサイトの成分は、アルミナ50% 、ケイ素5%、酸化チタン3~10% とその他から成り立っています。 このボーキサイトをアルカリ溶液で溶かし、まず水酸化アルミニウムを作ります。 これが加水分解され、アルミナとなります。 この方法をバイヤー法といいますが、これは1888年、オーストリア人の化学者カール・ジョセフ・バイヤーによって発明された方法です。
モンちゃん
加水分解って何?
アンサー氏
水酸化アルミを焼成して、アルミナと水に分解する方法。 1000℃以上で焙焼することによって、アルミナを抽出することができます。
モンちゃん
さっきアルミナはボーキサイトに50%含まれているといったでしょ。 じゃあちょうど最初にあったボーキサイトの半分の量のアルミナができるわけ?
アンサー氏
約4トンのボーキサイトからは、約2トンのアルミナができます。 また残りの2トンは赤泥となります。
モンちゃん
アルミナと一口に言うけれど、ボーキサイトの種類によって、アルミナの種類も違うと聞きましたが。
アンサー氏
純粋なアルミナにはギブサイト[α-Al(OH)3]、ベーマイト[α-AlOOH]、ダイアスポア[β-AlOOH]と呼ばれるものがあり、このうちギブサイトとベーマイトが主に使用されます。 またアルミナは焼成の仕方によってメッシュの大きさに差がでますが、メッシュの粗いタイプをサンデー、小さいタイプの細かいものをフラワリーと呼びます。 最近は、アルミニウムを造る工程において反応が早いサンデーがよく使われます。
モンちゃん
反応が早ければ、効率がよくてコストダウンにもつながるからですね。 ところで、アルミナは、もちろんアルミニウムに生まれ変わるわけだけど、その他にも多様な用途があるんですよね。
アンサー氏
アルミナは、白い粉末でたいへん硬く、融点が2050℃と高い。 また電気絶縁抵抗が大きい、科学的に安定しているなどの特長があるので、研磨材や耐火物、セラミックスの原料となります。

約100年前、2人の化学者が発明した製錬法

モンちゃん
アルミナからアルミニウムを取り出す方法として、世界中で使用されているのは、ホール・エルー法なんですよね。
アンサー氏
ホール・エルー法は電気分解による製錬法です。 アメリカのチャールズ・マーティン・ホールとフランスのポール・ルイ・ツーサン・エルーが1886年、ほぼ時を同じくして、電解製錬法を発見したため、この2人の名前をとってホール・エルー法と名付けられました。
モンちゃん
同じ年にほぼ同時に発見するなんて、ドラマティックですね。
アンサー氏
この2人には共通点が多く、ともに1863年に生まれ、1886年に電解製錬法を発見、1914年に50歳でこの世から去っています。
モンちゃん
運命的な2人によって、20世紀を代表する金属が世に出る方法が生み出されたんですね。
アンサー氏
さて、ホール・エルー法では、まずアルミニウムの酸化物であるアルミナを、氷晶石などのふっ化物を高温で溶かした電解浴を使用し、陰極板(カソード)と陽極板(アノード)を設置した電解炉に入れて電気分解によって還元します。 電解炉は陽極の形態によってゼーターベルグ式とプリベーク式があります。 近年は電流容量の増加や環境問題にも対応するプリベーク式が主流です。

図-1 電解炉の構造

モンちゃん
ふっ化物って?
アンサー氏
ふっ化マグネシウム(MgF2)やふっ化カルシウム(CaF2)などもありますが、一般的にはやはりふっ化アルミニウム(AlF3)が使用されます。 ちなみにふっ化物は、酸化を防止する役割と同時に、電気分解の効率を上げる効果も発揮します。
モンちゃん
氷晶石はどの位の温度で溶かすんでしょう。
アンサー氏
1010℃程度ですね。 アルミニウムは約1000℃で電気分解が可能となります。
モンちゃん
電気分解を効率よく成功させるためには、電解浴の管理が大切ですね。
アンサー氏
電解浴に要求される特性は、アルミナの溶解度が大きく溶解性が高いこと、融点が低いこと、電気抵抗が小さいこと、比重が小さいことなど。 氷晶石とふっ化物の重量比は浴比と呼ばれ、非常に重要。 NaF(ふっ化ナトリウム)/AlF3が1.2 程度の比率で操業しています。
モンちゃん
還元されたアルミニウムはどうなるの。
アンサー氏
アルミナはアルミニウムと酸素とに分解され、溶けたアルミニウムは電解炉の底に溜まるというしくみ。 アルミナ約2トンから1トンのアルミニウムができます。
モンちゃん
ところで、アルミニウムは「電気の缶詰」と言われるほど、大量の電力を必要としますよね。
アンサー氏
1トンのアルミニウムを造るのに、14,000~15,000kwhが必要となります。 そのため電気代が高い国ではアルミニウムの製錬は非常にコストが高くなります。
モンちゃん
またそれほどの電力を必要とするのですから、集約した設備が必要になりますよね。 多くのアルミニウムを生産するためには、大きな設備投資をしなくてはなりませんね。
アンサー氏
最近は、ひとつの炉が高容量になってきており、12万~15万キロアンペアから30万キロアンペアの設備が建造されています。 それでも1日に2 トン余りのアルミニウムしか造れません。 また、電解炉であるため、磁場が生じ、それぞれの炉を離れた位置に建造することも必要。 そのために広い敷地がいることになります。
モンちゃん
先程アルミニウムの製錬には大量の電力を使うために、電気代の高い国では製錬は難しいってことだったけど、日本はどうなの?
アンサー氏
日本でも以前は積極的に行われていたこともあるんですよ。 しかし、1973年の第1次オイルショック、その後の第2次オイルショックを経てそのほとんどが撤退せざるをえなくなりました。 なにしろアメリカやカナダに比べると、日本の電気代は5~10倍ほど。 国内で地金を造ろうとすれば、たいへんコストがかかってしまうからです。
モンちゃん
ボーキサイトから生まれ変わったアルミニウムは、目的に応じて溶解して使えるよう、インゴットやスラブ、ビレットといった形状に固められますよね。 この鋳塊は、アルミニウム100%なんでしょ。
アンサー氏
いやいや、精製工程で、シリコンや銅、鉄といった不純物が混入することは避けられず、100%というわけにはいかないんですよ。 もちろん、地金の品質は向上していますから、現在では一般的に純度99.7% 以上の地金がほとんどですけれど。
モンちゃん
最近ではより純度の高い地金が必要とされるようになりましたよね。
アンサー氏
純度の高い製品を造るためには、不純物を混入させないための工夫が必要となりますね。
モンちゃん
でもどうして、不純物が混入しちゃうのかな。
アンサー氏
それはいろいろな要因があるんですよ。 例えば、電気分解時の電極そのものも影響します。 オイルや油脂系の電極であるサルファやバナジウムでは不純物が溶け出し、地金の中へ入り込んでしまうことも。 そうした影響を避けるためには、ピッチなどの石炭系の電極が使用されます。
モンちゃん
純度が高いものを求めるれば求めるほど、ほんの少しの要因でも見逃せないですよね。
アンサー氏
アルミナの質や電解浴の状態に気を配ることも大切です。 純度の高い地金では、混入する微量成分が悪さをすることが多いので要注意。 例えばディスク材では、ナトリウムが混入した場合、圧延すると割れやすい製品となってしまうとか。 これは地金に含まれるシリコンと増加したマグネシウムが結び付き、ナトリウムが自由に動き回るため、ぜい性を発揮しやすい、つまりもろくなってしまうのですよ。
モンちゃん
電解浴の質も重要だ、ということですが、ここで使われるふっ化物は電解浴の上部にたまりやすいし、揮発しやすいんじゃないのかな。 そのためにうまく還元できないと困っちゃう。
アンサー氏
そこでふっ化物がしっかり働くよう密閉したクローズドシステムが使われます。 またアルミナのメッシュも粗い方が効果も大きくなるので、サンデーを使用するのです。
モンちゃん
純度の高い地金を造るためにいろいろ工夫されているようだけど、やはり高純度地金の製造には、特殊な方法が用いられるんでしょうね。
アンサー氏
純度99.95%以上の地金を高純度地金と呼びますが、これを造るためにはいったん電気分解したアルミニウムを三層電解法、偏析法などによってもう一度精製することになります。 またこの場合に使われるアルミニウムは純度99.85%といった、すでに純度の高いものを使うことになりますね。

図-2 三層電解精製炉の構造

モンちゃん
もうひと手間かけるというわけですね。
アンサー氏
三層電解法はその分1トンにつき、14,000~15,000kwhの電力が余分に必要となりますよ。
モンちゃん
三層電解法というくらいだから、電解浴の中が三つの層に分かれてるの?
アンサー氏
そうです。 アルミニウムと電位差がある金属を用いて、電解浴を挟んでサンドイッチ状の下方に陽極となる金属、上方にアルミニウムが流れる陰極を設置します。
モンちゃん
つまりアルミニウムより貴な金属(電位が高い)である、鉄(Fe)、シリコン(Si)などは陽極の金属へ、アルミニウムより卑な金属(電位が低い)は電解浴の中に残るしくみ。 製錬された純度の高いアルミニウムだけが、陰極部の上方へと抽出されるんですね。
アンサー氏
モンちゃんたら、なかなか鋭い理解力ですねえ。
モンちゃん
では偏析法とは。
アンサー氏
こちらは電力が余計にかからない方法。 合金が凝固する時に偏析する現象を利用して、純度の高いアルミニウムを取り出す方法です。
モンちゃん
初期に固まりはじめた純度の高いアルミニウムだけをピックアップするんだ。 いいとこどりって感じ。
アンサー氏
この方法では、チタン(Ti)などを先に除去する必要があるのでボロンを投入して、それらの不純物を取り除いておきます。 アルミ溶湯の入ったるつぼの中に黒鉛管を挿入した装置を使い、溶湯を加圧、加熱しながら黒鉛管の内部にアルゴンガスを吹き込むと、その周辺に凝固した純度の高い結晶がくっつきます。 これをこそげ取ったものが高純度アルミとなるしくみ。 これを「分別結晶法」と呼びます。
モンちゃん
下の方にも固まったアルミニウムがたまっていくでしょ。 それは取り出さないのかな。
アンサー氏
堆積した結晶は再び加熱して溶解させ、これを繰り返して純度の高い結晶だけを使うんです。
モンちゃん
手間のかかる作業ですね。
アンサー氏
しかし偏析法は膨大な電力を使わない分、コストが安いというメリットがありますから。
モンちゃん
こうして造られた高純度アルミニウムが、コンデンサー用はくや真空蒸着に使用されことになるわけですね。
アンサー氏
ホール・エルー法が発明されて100年余り。 高純度地金を造るための方法など、技術革新によってアルミニウムの可能性は大きく広がってきました。
モンちゃん
今回は、アルミニウムの原点である原料に関わる技術の大切さをじっくり勉強することができてとっても有意義だったと思います。

図-3 分別結晶法