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No.3 [溶解と鋳造] その1

(やさしい技術読本1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

溶かして固める技術である、溶解と鋳造。
素材の基本となる工程だけに、
細心の注意を払い、丹念に行われます。
優秀な素材が産声をあげる瞬間。
その秘密を探ってみましょう。

一貫して行われる、溶解から鋳造まで

モンちゃん
今回勉強する溶解と鋳造は、素材の製造工程の中でも、とっても大切な技術のひとつですね。
アンサー氏
優秀な製品を作る第一歩。品質の良い製品をいかに早く、大量に造るかにおいて多彩な角度から工夫がこらされているんですよ。
モンちゃん
溶解と鋳造は、原料を溶かしてから、型に入れて固めることでしょう。
アンサー氏
そうですよ。まず最初に行われる溶解は、地金を溶かす作業。溶かした素材を溶湯と呼び、それを鋳型に注ぎ水冷して固めるのが鋳造です。以前は溶解も鋳造も同一の炉で行われていましたが、それだと溶かして、固める一連の工程が終わるまで次に進めず効率的でないため、今では溶解炉と溶湯をストックしておく保持炉をワンセットとして使用することが多いですね。
モンちゃん
ではまず溶解について説明してください。
アンサー氏
溶解炉には炉の横から原料を投入するサイドチャージ式と屋根部分から原料を投入するトップチャージ式があります。サイドチャージ式は設備管理が容易ですが、材料投入には時間がかかります。一方トップチャージ式は材料投入は早いのですが、メンテナンスはサイドチャージ式より手間がかかります。また炉が動かない定置式と傾けることのできる傾動式があり、定置式は溶湯を保持炉へ送る場合、高低差を利用するのに対し、傾動式は炉を傾け、溶湯を送り出します。傾動式は、操作が簡単で安全に溶湯を送り込ませるというメリットがあります。
トップチャージ式溶解炉 サイドチャージ式溶解炉
モンちゃん
アルミや銅はリサイクルに適した金属です。溶解・鋳造される地金にもリサイクルされたスクラップが使われているんですか。
アンサー氏
もちろんです。溶解の際の原料には、新地金とリサイクルによって再び活用されるスクラップがあります。スクラップには、素材を製造する工場内で発生するスクラップを集めたものと、工場外から購入するスクラップがあります。
モンちゃん
スクラップを使う場合は、成分が正確にわかっていないと、素材の品質に影響してしまうのではないですか。
アンサー氏
工場内で発生するスクラップは、製造している製品の残存部分ですから細かな成分まではっきりとわかっています。そこで全てのスクラップに成分を明記してあります。また工場外からのスクラップは、厳重な成分分析を行ってから使用します。さらに溶解中にも分析し、そのチェックに合格しない場合は、使用を中止します。
モンちゃん
厳密なチェック機能が働いているんですね。

成分の的中が溶解のポイント

アンサー氏
アルミの場合でいうと、アルミ合金に含まれる成分は、主にシリコン、鉄、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、チタンの8種類。ただし合金記号の1000番系では合金中の99.0%以上がアルミで1.0%がその他の成分。わずか1.0%の中にどのようにアルミ以外の成分を凝縮させるかが、大きなポイントになるのです。
モンちゃん
それらの成分を溶かし入れる時は一気に混ぜてしまうの?
アンサー氏
合金の場合、亜鉛やマグネシウム以外はあらかじめ成分量の明確な高成分の中間合金を投入します。
モンちゃん
亜鉛やマグネシウムはアルミより融点が低いけど、それと関係があるのかな?
アンサー氏
その通り。アルミが溶ける温度は660℃。銅、鉄、マンガンなどはこれよりも融点が高いのです。そこでそれらが高濃度に溶け込んだ中間合金を使うことで、アルミを溶かす温度で他の成分も溶けるような状況を作りだしてやります。
モンちゃん
実際に溶解時の炉内温度はどれくらいになるのでしょうか。
アンサー氏
炉の中は1100℃以上、溶湯は750~800℃にもなるんですよ。以前は固形燃料で炉の天井などの壁面を加熱し、その輻射熱で材料を溶かす方式が使われていました。反射炉と呼ばれるものです。現在はより効率的に、しかも炉内の温度を必要以上に高めないために高速バーナーを使い、原料に直接高速度の炎をあてます。
モンちゃん
炉内の温度はただ高くなればいいってものでもないんですね。高温になりすぎると何か困ることでもあるんですか。
アンサー氏
アルミはとても酸化しやすい金属。溶湯が750℃以上になると酸化物ができる比率が高くなります。この酸化物をドロスといいます。ドロスを滅らし、ロスを少なくするには低温で溶かせばよいのですが、あまり低いと時間がかかってしまう。ドロスを最小に抑えつつ、効率のよい溶解が行える最適な温度を調節することが大切です。またドロスと溶湯を分離させるための方法としては、フラクシングもあります。フラクシングは、塩素ガス、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、フラックス(塩化カリウムなどを主成とするパウダー状のもの)の混合物を溶湯に投入し、撹拌すること。フラクシングは、ドロスを溶湯から分離するとともに脱ガスや成分を均一にする働きもするんですよ。
モンちゃん
そういえば、溶解では100トンもの原料を溶かすこともあるんでしょう。それだけの溶湯をどこもかしこも均一にするのは、相当難しいことですよね。
アンサー氏
モンちゃんのいう通り非常に大きな塊である溶湯の全体を均一にすることは、大きなポイントのひとつなんですよ。そのために電磁撹拌装置(スターラー)も取り付けられています。
モンちゃん
電磁撹拌装置とは、なんだか名前を聞いただけで複雑そうなしくみですね。
アンサー氏
原理はモーターを回すのと同じ。電流を流すことによって電磁攪拌力をおこして弱い磁性(常磁性)を持つアルミの溶湯をぐるぐる回すことです。これによって深さ方向や周方向での成分の偏析をなくすことができます。
モンちゃん
こうしてできあがった溶湯は、厳しいチェックを受けた後、ようやく保持炉に送られるんですね。
アンサー氏
溶湯のサンプルは、エアシューターによって分析室に送られ、綿密に分析されます。例えば溶湯中にナトリウムが一定値以上に混入していないかを調べるのも、溶解炉内で行われる分析のひとつ。アルミの原材料であるボーキサイトなどを精練する際、氷晶石を使うため地金にはナトリウムがたくさん入り込むことがあります。キャンエンド、自動車などに使用される5182合金(アルミ4.5%マグネ)ではナトリウムが4PPm以上入っていると、圧延した時に板のエッジが割れるなどのトラブルがおこりやすいので、ナトリウムの量をシビアに検出する必要があるのです。こうした分析をクリアーしたものが、保持炉へと送られます。

保持炉での成分調整が、高品質を支える

モンちゃん
保持炉って、できあがった溶湯をただ保存しておくための場所なの。
アンサー氏
いやいや。保持炉には重要な役割があるんですよ。成分の最終チェック、脱ガス、介在物の除去、さらに鋳造に最適な温度に調整するなど、さまざまな調整が行われます。
モンちゃん
なかなかいろいろな役割を担っているんですね。
アンサー氏
燃料中の水素、地金など溶解原料に付着している水分、その他有機物によって発生する水素は、水素ガスとなって、できあがった鋳塊に気孔を形成し、製品に悪影響を与えます。水素ガスをいかに少なくするかは、溶解の善し悪しを左右するといってもよい程。
モンちゃん
水素ガスの多い鋳塊は、圧延した後ピンホールの原因になったり、製品の強度を弱めたりしてしまいますよね。
アンサー氏
水素ガスはブリスターの原因にもなります。これは圧延中に表面が膨れてしまうことです。こうした水素ガスによる弊害を防ぐため、溶湯中の水素ガスはアルミ100g中0.15CC以下に、また特にシビアな品質が求められるものについては0.1CC以下になるよう制御されます。(図‐1)

モンちゃん
悪玉である水素ガスをやっつける法があるんですね。
アンサー氏
先程説明した脱ガスに効果があるフラクシングや塩素精錬が用いられます。塩素精練は塩素を溶湯に吸き込み揮発性物質であるAlCl3を作り、これに水素ガスを吸着して除去する方法です。また、除去の効率をさらに高めるために使用されるのが、SNIF(=スピニング・ノズル・イナート・フローティングシステム)と呼ばれる連続脱ガス装置です。(図‐2)水素ガスを吸着する気泡は小さいほど効果が高いので、SNIFを使いアルゴンの気泡を小さく切断してやるのです。

モンちゃん
水素ガス以外に溶湯に入り込んでいる悪玉はいないの?
アンサー氏
非金属介在物も品質に大きな影響を与えるので取り除かなくてはいけません。介在物はフィルターで濾過することにより除去されます。(図-3)この時使われるフィルターは1mmくらいの粒子のアルミナが使われたセラミックチューブ。アルミナによって作られたチューブの隙間を溶湯が通過することで、介在物が取れるのです。

モンちゃん
相当小さいゴミも取れるんですか。
アンサー氏
コンピュータのディスクなど精度の要求されるものの素材は、たいへん小さな介在物も除去しなければなりません。このセラミックチューブによって10ミクロン程度までの介在物も取ることができます。

高度な要求に応える、良好な表面

モンちゃん
保持炉で品質の整えられた溶湯は、いよいよ鋳造工程に進むんですね。
アンサー氏
アルミの鋳造に使われる鋳型もアルミ製です。この中に溶湯が注湯され油圧シリンダーによって固まった部分が下がっていき、その後にまた溶湯が注がれます。これが間断なく行われる鋳造法を連続鋳造といい、鉄などで用いられます。アルミの場合、所定の長さになると一端注湯を停止し、スラブを取り出した後、また新たに注湯する半連続鋳造法が使用されています。(図4)

モンちゃん
アルミが鋳造される時、逆偏析という困った問題がおこると聞きましたが。
アンサー氏
そうなんです。液体と固体では比重が違いますよね。アルミの場合溶湯の比重は2.3で、固まると2.7です。それで溶湯が固まる時体積が凝縮してしまい、鋳型とアルミの間にエアギャップができます。アルミは非常に熱伝導のよい金属ですから、固まった部分が溶湯の熱を受けて再ぴ溶解します。これが繰り返され、溶けては固まり、溶けては固まったアルミの表面に逆偏析ができてしまうのです。
モンちゃん
それではアルミの表面があまり美しくありませんね。
アンサー氏
そこで面削が必要になるのです。再溶解がおこらないようにするために、鋳型に磁場を作り、アルミが鋳型と接触しないようにする電磁界鋳造(EMC)という方法も開発されています。この方法を使うと、面削の量は少なくてすみます。
モンちゃん
鋳造されたアルミの表面はなかなかデリケートなんですね。
アンサー氏
最終製品の用途にもよりますが、表面にキズがついていなければよい、という場合と加工後の表面に影響が出ないように組織までコントロールしなければならない場合があります。
モンちゃん
スラブの表面にはどんな組織がつくられるんですか。
アンサー氏
鋳型に向かって柱状に凝固組織による柱状晶がつくられます。その外側に逆偏析による発汗層があります。柱状晶の内側の断面を見ると、鳥の羽のような縞模様となるフェザー組織や、もみの木のように波状の模様となっている場合があります。これらはアルマイト加工をする場合、悪さをするんです。
モンちゃん
凝固組織の模様がアルマイト加工をした後、表面に浮き出てしまうの。
アンサー氏
そうです。美しい表面を作るためには、これらの部分を除去し、しかも組織を完全な等軸晶にしなくてはいけません。
モンちゃん
でも柱状晶の組織はなかなか目で見ただけじやわからないんでしょ。どうやって見分けるのですか。
アンサー氏
フェザー組織などは塩酸、硝酸、フッ酸などのエッチング液をかけるとわかるんですが、もみの木組織はそれでも見つけられません。アルマイトするか、ソーダ液をかけ、表面のコントラストを浮き上がらせます。
モンちゃん
等軸晶を作るためには?
アンサー氏
均一な結晶粒を作りやすいように、添加物をいれます。結晶の核となる部分を作るチタン、ボロンあるいはチタン・ボロンの母合金を添加し、結晶を微細化するのです。もみの木組織を防ぐには、成分や鋳造条件などさまざまな角度から工夫がこらされているんですよ。
モンちゃん
優秀なインゴットやスラブを造るためには、溶解から鋳造までのいろいろな工程で、きめ細かい配慮がなされているんですね。
アンサー氏
鋳造は最後まで気をぬけません。鋳造の最終工程にも細かな心配りがされています。液体と固体の比重が違うことは説明しましたが、そのためにスラブのボトムが反り上がってしまい、湯漏れの原因などになります。そこでボトムの形を工夫し、湯漏れを防いでいるんです。
モンちゃん
より品質のよい製品、効率のよい製造をめざし溶解・鋳造の技術にも工夫が凝らされている感じ。
アンサー氏
そうですね。より薄いスクラップも効率よく溶解する方法や、鋳造スピードをあげても鋳塊が割れないよう微細化剤を添加するなど新しい技術も取り入れられています。素材メーカーではより高度な要求にも応えられるよう、技術の革新をめざしているのですよ。