神戸製鋼HOME > 素形材事業 > やさしい技術 > やさしい技術/アルミ編 > No.4 [合金] その1

No.4 [合金] その1

(やさしい技術読本1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

元気いっぱい、好奇心旺盛なモンちゃんには
アンサー氏もタジタジの様子。
皆さんもモンちゃんに負けずにアルミの合金技術に
Let's Try!

短所をカバーして、長所を生かす

アンサー氏
今回は、アルミの基礎知識のひとつとも言える合金について勉強することにしました。ところでモンちゃんは自分の長所と短所はどんなところだと思いますか。
モンちゃん
うん、そうですね。明るいことや、体が丈夫なことが長所。お調子者で、あわてんぼうなところが短所かな、ところで私の長所や短所が合金の技術とどんな関係があるのですか。
アンサー氏
まあまあ、そう先を急がないで。モンちゃんは自分の性格をよく把握しているようですね。そこで自分の短所をカバーしようと努力することはないんですか。
モンちゃん
もちろんなるべく物事を慎重に考えるように気をつけていますよ。自分のマイナス面がわかっている以上、それをカバーしようとしなくちゃ短所はいつまでたっても短所のまま。それじやあ進歩がないですから。そのおかげか最近ではずいぶんとじっくりと物事を考えられるようになったかなあ、と思っているんです。
アンサー氏
モンちゃんが言ったように、人間は自分の短所をなるべくカバーしようとして努力します。その結果、短所がそれほど目立たなくなる。それどころか逆にそれが長所となるくらい向上したりします。アルミもね、たくさんの長所を持っている反面、強度が低いという短所もあったんです。けれどもアルミに他の元素を添加するという合金の技術によって、見事にそれをカバーしました。それどころか、ジユラルミンのような鋼に近い強度を持つアルミまで作ることができるようになったんです。
モンちゃん
へえー。短所が転じて長所となってしまったんだ。
アンサー氏
合金化することによって高い強度を得たアルミは、軽い、耐食性がよい、加工性がよいといった長所を多いに生かことができるようになり、幅広い用途に使われるようになったんです。

強化の原因は、「転位」

モンちゃん
アルミを強化するといえば、調質ですね。調質は原子レベルで起こる「転位」の移動を調節することによって、アルミの強度を変化させるというもの。合金化による強化にも「転位」が関係しているんですか。
アンサー氏
モンちゃんが言ったように合金化のために添加された原子は「転位」の運動に影響を及ぼします。アルミの原子に比べ、大きい原子あるいは小さい原子が入り込んで、結晶の中のすべり面に配列されると、「転位」の動きを妨げる作用が働きます。(図-1)変形は「転位」の動きによっておこるものですから、「転位」の動きを封じ込めれば変形はしにくくなる、つまり強度が強くなるんです。

強化の原因は、「転位」

モンちゃん
なるほど。同じ大きさの原子が並ぶ滑らかなすべり面なら「転位」も動きやすいけど、そこに違う大きさの原子が配置されるとすべり面がでこぼこして「転位」も動きがとれなくなってしまうんですね。
アンサー氏
ただし合金の添加だけでは思うような強度を得るのは難しい。その後、冷間加工あるいは熱処理などをすることによってより強度の高い合金ができあがるんです。
モンちゃん
アルミの原子と大きさの違う原子を組み合わせると言っても、めったやたらに何でも混ぜてよいということはないんでしょう。
アンサー氏
ひとつの組織に別の原子を混ぜるのですから、さまざまな影響が出てくるのは当然のことですから、アルミの特性を損なわないような原子を選ばなくては。
モンちゃん
せっかくアルミの長所を増やしてあげようというのに、逆に短所が増えてしまうのでは意味がありませんよね。
アンサー氏
合金化はアルミの溶湯に合金元素を溶解し行われます。合金元素の多くは、アルミより融点が高く解け難いため、予めアルミニウムに合金元素を高濃度に溶かした母合金(中間合金)と呼ばれる原料が使われます。こうした原料は、重量はもちろん、成分の明確なものが使用されます。
モンちゃん
アルミと混ぜる元素との間に相性というのはないんですか。うまく混ざる元素とそうでないものがあるんじやないかなあと思うんですが。
アンサー氏
そうですね。元素同士にも相性というのはあるようで、添加した時にうまく混ざるものとそうでないものがありますね。合金でも調質でも、アルミと他の元素が互いに固体状態のままうまく溶け合っている固溶体状態が大きなポイントになりますが、相性が悪いとほんの少量の元素を添加しただけでも固溶体状態が崩れてしまいます。それではなかなか思うような効果が得られません。
モンちゃん
いろいろ聞いてみて、ちょうどよい状態の合金を作るためにはさまざまな条件をクリアーした元素だけが選ばれるということがわかりました。実際に合金を作るにはどのような物質が使われているんですか。
アンサー氏
現在主に使われているのは、マンガンやマグネシウム、シリコン、銅などが混ぜられた7つのグループの合金です。それぞれの特長についてはまた後でくわしく説明します。

目的をはつきりさせて、“組織制御”

モンちゃん
実際の合金処理というのは、どのように行われるんですか。
アンサー氏
溶解する地金の大きさや成分がバラバラでは、効率のよい合金はできませんよね。製錬した新地金、あるいはリサイクルによって再生した再生地金とも成分や質量が明確な形状に成型されます。一方アルミと高成分のその他の原子によって作られたものを母合金といいます。高性能な合金を作る場合、アルミの地金を溶解した炉の中に母合金を混ぜる方法がとられます。大量のアルミに大量の違う物質を混ぜようとしても、なかなかうまくは混ざらないんですよ。母合金を使うと、アルミとその他の物質の融点が大きく違っていても、比較的その差を気にせずに溶融できます。
モンちゃん
コーヒーに砂糖を混ぜる時、スプーンでかき回すと均一にしかもたくさん溶かすことができますよね。アルミを合金化する場合もやはり同じようなことをするんですか。

溶解炉とその内部

アンサー氏
まあコーヒーに砂糖を混ぜるのと同じというわけにはいきませが、成分を均一にする意味でも、全体の温度を調整する意味でも溶解時の攪拌は欠かせないものです。地金などのよく混ぜられた合金は、溶解原料に付着している水分や有機物が分解し、水素が溶湯に溶け込んでいるため、溶湯に溶け込んだ水素ガスを取り除く、脱ガス処理が行われます。これは溶湯をバブリングし、水素と供に酸化物等の介在物を気泡に取り込んだり付着させたりして取り去る方法が多く使われています。最近ではさらに微細な不純物を取るため、セラミックチューブを用いてろ過する方法も用いられているんですよ。
モンちゃん
ただ“混ぜる”といってもそう単純なことではないんですね。高性能な合金を作るためには、いろいろな技術が生かされているんだなあ。
アンサー氏
合金の処理では同じ成分を同じように入れても、同じ組織ができるとは限りません。合金後の鋳造や安定のための処理にも気をつかってこそ、高品質な製品ができあがるんです。さて、合金技術の要となるのは、なんといってもアルミに何をどれくらい添加するかということです。先程いったように現在合金のために使われている物質は、7種類。この組み合わせによってさまざまな特性を引き出すことができるのです。
モンちゃん
それぞれの物質がどの程度加えられるかによって、そんなに違った合金ができあがるのですか。
アンサー氏
それはアルミの用途をみれば一目瞭然でしょう。鍋に使われるアルミと、飛行機のボディー材に使われるアルミとでは必要とされる特性が全然違います。それほど多様な合金が作れるということです。
モンちゃん
コレを混ぜると強度は強くなるけど耐食性が劣ってしまうとか、アレを混ぜると耐食性は抜群だけど、加工性はよくないとか。
アンサー氏
例えばCu含有量が多い合金では、引張り強さは強くなりますが、耐食性が低くなります。CuではなくMgを添加しますと耐食は良くなりますが、Cuほど強度を上げることはできません。
モンちゃん
なかなかうまくはいかないんですね。ようするに何を優先させるかをはっきりさせ、それにあった合金を作るべきなんでしょうか。
アンサー氏
モンちゃんが言ったように優先順位をはっきりさせて適材適所の合金を作らなくてはいけません。合金化を行う時にまず考えるのは、強度、耐食性、疲労特性、加工性、成形性などです。しかしそれ以外に必要な性能ももちろん操作できますよ。どのような成分を混ぜて、どのような合金を作るかを“合金設計”。また合金と密接なつながりを持つ調質を組み合わせて総合的に考え、理想的な素材を作り出すことを“組織制御”と呼んでいます。
モンちゃん
合金設計なんて難しそうですね。
アンサー氏
確かに簡単なことではないけれど、今まで蓄積されたデータをもとにして、綿密な設計を行うことは十分可能なんですよ。もちろん設計された合金は試作や検査を繰り返し、微調整が行われますが。
モンちゃん
組織制御を行う場合、一番大切なことってなんですか。
アンサー氏
各プロセスとも、おろそかにはできませんが、やはり一番大切なのは「ユーザーさんは一体どんな合金が欲しいのか」を正確に知ることではないでしょうか。
モンちゃん
ユーザーさんが欲しい素材がわからないなんてことあるんですか。
アンサー氏
一見わかっているようでも、実はそうでない場合もあります。素材が使われる環境、加工なども含めてより詳しく情報を得ることが、組織制御の大きなポイントなんです。その情報によって、最適な合金を選定しプロセスをチョイスして目的を達成することができるのですから。
モンちゃん
最適な合金を選ぶためには、もっと詳しく合金について知ることが必要ですよね。次回はアルミ合金の種別やそれぞれの特性について教えてください。