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No.5 [合金] その2

(やさしい技術読本1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

明るく、元気だけど、ちょっぴりあわてんぼうで
お調子者のモンちゃん
前回は、合金技術に挑戦しました。
今回は引き続き合金の種類について勉強します。
さて、そのハリキリぶりは…。

展伸材用合全と鋳物材用合金

モンちゃん
今回は合金の種類についてでしたよね。
アンサー氏
まず最初にアルミ合金は大別して、展伸材用合金と鋳物材用合金があることを覚えておいてください。(表1,2)

表1

(表2-1)展伸材用合金

純アルミニウム/
1000シリーズ
Al-Mg系合金/
5000シリーズ
代表的なものは1050(純度99.5%以上)。微量のFeとSiを特性に応じて調整したアルミニウムで、加工性、耐食性、溶接性、電気や熱の伝導性などにすぐれている。ただし、強度が低いため反射性、耐食性、導電性などの特性を活用した反射板、装飾品、各種容器、送配電材、放熱材などに使用されている。 マグネシウム含有量の少ないもの(Mg0.5~1.1%)は装飾材や器物材用に、また多いもの(Mg2.2~5%)は缶蓋材や各種の構造材として多用されている。これらの合金は海水や工業地帯の環境に強いため、装飾性を除いた実用面からは、ふつう表面処理を施す必要はない。
Al-Cu系合金/
2000シリーズ
Al-Mg-Si系合金/
6000シリーズ
代表的なものはジュラルミンや超ジュラルミンの名称で知られる2017や2024合金でCu3.5~4.9%を含み、機械的性質や切削性にすぐれている。なお、激しい腐食環境下で使用する場合は耐食性のよい純アルミニウム、またはアルミ合金板で被覆して用いることがある。航空機材、輸送機材、機械部品その他構造用などに多用されている。 代表的なものは6061、6063合金(Mg0.45~0.9%、Si0.2~0.6%)。6061合金は銅を微量添加して強度を高くしたもので、各種の構造材に用いられている。6063合金はMg、Siの量が6061合金より強度は小さいが押出加工性にすぐれており、押出形材として建築用サッシなどに多量に使用されている。
Al-Mn系合金/
3000シリーズ
Al-Zn-Mg系合金/
7000シリーズ
代表的なものは3003、3004合金(Mn1~1.5%後者はMgも0.8~1.3%含む)。このシリーズの合金は、純アルミニウムの持つ耐食性を低下させずに強度を高くしたもの。アルミ缶などの容器を始め、日用品、住宅外装など幅広い用途で利用されている。 Al-Zn-Cu系の高力合金とAl-Zn-Mg系の溶接構造用合金の2系統がある。Al-Zn-Mg-Cu系の7075合金(Zn5.1~6.1%、Mg2.1~2.9%、Cu1.2~2%)は超々ジュラルミンとして日本で開発されたもので、アルミ合金の中でも最高の強度を持ち、航空機関係のほか、スポーツ用具類や金型用などに利用されている。また、Al-Zn-Cu系合金は、強度が比較的高く、熱処理可能な溶接構造用材として開発された合金で7003、7N01合金(Zn4~5%、Mg1~2%)が代表的なもの。新幹線をはじめとする車両用構造材などの各種構造材として広く使用されている。  
Al-Si系合金/
4000シリーズ
建築用パネルなどに用いられる4043(Si4.5~6%)があるが、この合金系は融点が低いという特徴を生かして溶加材やろう材として多用される。なお鍛造ピストンなどに使用される4032合金(Si11~13.5%)は熱処理型の合金で、耐摩耗性の高い合金として活用される。

(表2-2)鋳物材用合金

Al-Si系合金
(代表的な合金:鋳物用AC3A、ダイカスト用ADCI)鋳造時の流動性にすぐれたシルミンと呼ばれる合金。
Al-Mg系合金 
(代表的な合金:鋳物用AC7A、AC7B、ダイカスト用ADC5、ADC6)耐食性にすぐれ、ヒドロナリウムとも呼ばれる。
Al-Cu系合金 
(代表的な合金:鋳物用AC1A、AC1B)Al-Cu、Al-Cu-Mg系で熱処理により強さを得る高力合金だが、耐食性、鋳造性はあまりすぐれていない。Mgを多くし、Niを加えた耐熱性合金AC5Aもある。
Al-Si-Mg系合金 
(代表的な合金:鋳物用AC4A、AC4C、AC4CH、ダイカスト用ADC3)Al-Si系に少量のマグネシウムを添加して熱処理により強さを得るようにしたもの。γシルミンと呼ばれる。
Al-Si-Cu系合金
(代表的な合金:鋳物用AC4B、AC2A、AC2B、ダイカスト用ADC10、ADC12)Cuと微量のMgにより熱処理硬化する合金。Siが多く、鋳造性にすぐれている。
Al-Si-Mg-Ni系合金 
(代表的な合金:AC8A、AC8B)Niを添加したローエックス合金とも呼ばれる低熱膨張耐摩耗性のAC8A、AC8B(Si共晶組成)があり、自動車のピストン用合金などに使用される。またSi量(4.5%~5.5%)の少ないAD4Aは耐熱性が高く、強度と靭性を持つ合金。一方Si量が18%~24%の過共晶合金は、耐摩耗性、耐熱性が高く、ピストン用合金として使われる。
モンちゃん
延ばしたり、引っ張ったり、叩いたりして製造するのと、アルミを溶解し型に流しこんで製品を作るのでは、素材に求められる性質が全く違ってきますものね。
アンサー氏
展伸材用合金は、板、条、形材、箔、管、棒、線およびリベットに使われる展伸加工性に優れた合金で、鍛造品もこれに含まれます。一方の鋳物材用合金は、その名のとおり砂型、シェル型、金型、ダイカストなどの鋳造に使われる鋳造性にすぐれた合金です。それぞれに、熱処理により強度を高める熱処理合金と、熱処理を必要としない非熱処理合金とがあります。熱処理合金と非熱処理合金の違いは、調質[その1]、[その2]で勉強したことを参考にしてください。

基本はアルミニウム合金記号から

モンちゃん
展伸材用アルミニウム合金を区別するのに、1000シリーズとか3000シリーズといった合金記号を使いますよね。あれはどのように決められているんでしょう。
アンサー氏
アルミニウム合金記号は、それぞれの合金に付けられた名前のようなものなのですよ。

表−3
(表−3)

モンちゃん
記号を見れば、合金のすべてがわかるということですか。たとえば、添加元素、特性、形状、用途といった合金の性能が一目瞭然なんでしょうか。
アンサー氏
その通りですよ。先程もんちゃんが言った1000シリーズ、3000シリーズといった記号は、JlSの展伸材用アルミニウム合金の種類を表すものです。これは1970年にJlSを大幅改定した時、AAシステム(アメリカ・アルミニウム協会)の合金記号を基本的に採用して定められました。
モンちゃん
国際的に通用するAAを参考にしているから、JlSの記号も多くの人に認められやすいということですね。
アンサー氏
それでは、表3のアルミニウム合金の記号を見てください。まず一番最初の“A”は何を示していると思いますか。(表3−①)
モンちゃん
アルミニウムを表しているんでしょう。
アンサー氏
そうです。この”A”は、材質記号で、アルミニウムまたはアルミニウム合金である事を示しています。次に4ケタの数字がありますが、これが合金の系統を表すものです。
モンちゃん
この場合は5000シリーズの合金ということですね。
アンサー氏
そうそう。この千のケタを見ることによって、合金化する時に添加元素として何を主に加えたかが分かります。(表3−②) ちなみに5000シリーズはMgすなわちマグネシウムを主に添加したアルミニウム合金です。5000シリーズの中で5182とか5052という記号が出てきたとしますね。これらすべてマグネシウムが添加されている同じグループに違いないけれども、それぞれの添加量が違っているため、強度などの性能にも差があり、一つずつが独立したアルミニウム合金であることを示しています。
モンちゃん
そうか。たとえ同じマグネシウムを添加した合金であっても、添加量によって特性が違えば、用途も変わってきますよね。
アンサー氏
百のケタは、その合金が基本合金か、あるいは改良合金かを示しています。(表3−③) 0が基本合金で1~9が改良合金です。
モンちゃん
時々百のケタに”N”記載されているものがありますが。
アンサー氏
それは日本独自で開発された合金で、AAに該当しないものです。
モンちゃん
5000のうち千のケタ、百のケタと説明してきたのだから、次は十のケタですか。
アンサー氏
ところが、最後は下二ケタを一緒にして見て欲しいんですよ。この下二ケタは現在のアルミニウム合金記号が使用される前に使ってきた呼称を引き継いでいます。(表3−④) 例えば現在5052と表されている記号は、52Sと記されていました。これはアメリカのアルコア社が使用していた社内記号が、一般にも広められ使われていたものです。その後アメリカにおいて新しく合金名が制定されることになった時も、この呼称を下二桁に生かすことになりました。例えば52Sは5052、24Sは2024というように決められたのですよ。
モンちゃん
以前に使われていた記号を残すことで混乱を防ぎ、スムーズに合金記号の変更が行われたのですね。
アンサー氏
そして次のアルファベットは材料形状を示しています。(表3−⑤) ここを見れば、板か条か管かといったことがわかるわけです。
モンちゃん
鋳物材用合金も展伸材用合金と同じような見方をすればいいのですか。
アンサー氏
鋳物材用合金には展伸材用合金のような世界共通の記号はないのですが、日本ではJIS記号が使われていて、読み方はだいたい同じです。最初のAは、アルミニウム合金であることを示し、AにつづくC、DC、Jの記号はそれぞれ鋳物、ダイカスト、軸受鋳物を表す製品記号です。その後の数字は添加元素の種類を、英字は同一合金形の中で、添加量が異なることを示しています。
モンちゃん
なるほど。それにしても添加元素の違いで、アルミニウムはいろいろな特性を持つ金属に変身するんですね。
アンサー氏
それらのアルミニウム合金の中から、ユーザーさんの要求される特性に応じて材料を選定するのです。そしてさらに強度、成形性、耐久性、耐食性などの向上を求める場合には、その度合いに応じて元素を添加していきます。たとえば強度を高めたい時にはCuを、成形性を上げたい時にはMgを添加したりします。製品の要求に合わせてバランスよく添加元素を調整するわけです。合金その1で勉強したように添加元素として選ばれるのは、安全性、コスト面などのいろいろな条件をクリアした元素だけなのですよ。

質別まで検討して、最適な材料選定を

モンちゃん
あれ、よく見るとアルミニウム合金記号は、このアルファベット記号までで一度区切られていますよね。今までの記号を見れば、アルミニウム合金の特性はだいたいわかるし、ハイフンのあとの記号はオマケかなあ。(表3−⑥)
アンサー氏
オマケなんかじゃありませんよ。確かにこれまでの記号でアルミニウム合金そのものの特性は分かるものかもしれないけど、何か大切なことを忘れていませんか。
モンちゃん
大切なものというと…。
アンサー氏
調質ですよ(「調質」参照)。アルミニウム合金は、調質によってその特性を自由に変化させることができるのですから、アルミニウム合金記号に調整の表示、つまり質別を入れなくては片手落ちになってしまいます。
モンちゃん
そうか、合金と調質の技術は深いつながりがあるんでしたね。
アンサー氏
さて、アルミニウム合金記号が素材の類別において重要な役割を果たしていることが分かったでしょう。この記号をよく知っていれば、いざ製品を作る場合にどのアルミニウム合金を選べばよいかが、比較的容易に調べられるんです。
モンちゃん
そういえば、合金その1では、ユーザーさんがどんな材料を必要としているのかをよく知る必要があるという話をしましたよね。この記号があれば、多種多様なアルミニウム合金の中からユーザーさんのニーズにぴったりの材料を見つけることができるんですね。
アンサー氏
素材を選定する時のポイントは、製品がどのような過程を経て作られ、どのような場で使われるかをよく考え、強度、耐食性、加工性などの特性を総合的に検討することです。そのためにはユーザーさんと材料を設計する技術者とのコミュニケーションがとても重要です。
モンちゃん
実際には、ユーザーさんと技術者との間にコミュニケーションの仲介をする人がたくさんいますよね。より適正な合金を選別するには、その方々の力も欠かせないものですね。

次々と生み出される新しいアルミ合金

アンサー氏
先程のユーザーさんのニーズについて話しましたが、新しいニーズにも常に応えられるように、新しいアルミニウム合金の開発が進められています。
モンちゃん
それじゃあ、もっと軽いアルミとか、もっと強度の高いアルミができるということですか。
アンサー氏
たとえば、金属元素の中でも最も比重の軽いリチウムを添加した、アルミニウム−リチウム合金。軽量化を実現しただけではなくて、高剛性、高強度などの利点を併せ持っているために注目を集めています。用途として一番有望視されているのは、航空機の構造部材としてですが、その他にも従来のアルミニウム合金にはなかった高電圧抵抗の特性を持つために核融合装置材料としても脚光を浴びているんです。
モンちゃん
新しい元素を組み合わせることで、アルミの新しい魅力を引き出しているんですね。
アンサー氏
アルミを粉状にして利用することで、より安定的で高品質な合金を作り出したのが、急冷凝固アルミ粉末合金。これは溶融状態のアルミニウム合金を噴霧して超急冷し、高濃度で均一な合金成分を含んだ粉末を利用して作られた合金です。この合金は耐熱性、耐摩耗性、強度に優れているほか、他の材料との複合が簡単になる、加工コストが低減されるといったメリットもあるんです。それから忘れてならないのが、アルミアモルファス合金。アモルファスというのは、「結晶構造を持たない」という意味で、素材そのものを表す言葉ではありません。アルミアモルファス合金というのも、非結晶型アルミニウム合金ということ。高温で溶融したアルミ合金を秒速10,000~100,000℃で超急冷し、結晶化する隙を与えずに固体化させて作ります。このように合金は添加元素の変化によるものだけでなく、その作り方によってアルミニウムの新しい特性を引き出す工夫がなされ始めています。
モンちゃん
アルミニウムは開発されてまだ100年ほどで、鉄や銅に比べて新しい金属ですよね。これからさらに研究開発が進められ、新しい特性をもつアルミ合金が出てくるんでしょうね。そしてアルミ合金の用途がもっともっと広がるといいですね。