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No.6 [圧延(板)] その1

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

私たちの身近には、
圧延技術が生かされた製品がたくさんあります。
アルミや銅にはなくてはならない
圧延加工とはどんな工程で行われるのか、
モンちゃんといっしょに勉強していきましょう。

連続的なカで長く、薄く延ばす技術

モンちゃん
今回は圧延についてですね。これはなんだか簡単にわかっちゃいそうだなあ。だって、字のごとく「圧力をかけて、延ばす」ってことでしょう。つまり手打そばやパンの生地と同じなんですよね。
アンサー氏
モンちゃんはすぐに食べ物のことにつなげて考えるんですね。なんだか、わかったような顔をしていますが、そうはいきませんよ。圧延はそう単純なものじゃないんですからね。
モンちゃん
そうかあ。簡単にわかると思ったのは、早合点だったんですね。確かにアルミや銅は金属だし、それぞれ特有の性質を持っているのだから、圧延にも複雑な技術が必要とされるんですよね。
アンサー氏
でもモンちゃんの目のつけどころは悪くなかったのですよ。圧延とは、連続的な力を加えて金属を長く延ばすための技術。原理は手打そばと変わりません。ただしモンちゃんが気づいたように、アルミや銅の持っている性質に合わせ、効率的な加工をしなくてはなりません。圧延によって加工された製品は、例えばアルミの場合飲料缶、家庭用箔、空調機器のフィン、自動車パネル、住宅やビルの外装などさまざまな用途に使われます。最終的な二ーズによって、板の厚さは0.004mmから6mm以上まで。必要とされる強度も多様です。
モンちゃん
圧延はどのような工程で行われるのですか。
アンサー氏
圧延には大型の直方体の形状に作られた圧延用鋳塊、スラブ(※)が使用されます。まずスラブの両面を削る面削が行われます。これは鋳造した時にできる、表面の皮膜やその下にある偏析(添加した合金金属の分布が組織内で不均一なこと)を取るためです。次に熱間圧延をしやすいように柔らかくするため、そしてスラブの内部組織を均一化するために焼きなまし処理をします。
スラブ(圧延用鋳塊)

※スラブ(圧延用鋳塊)
大型の直方体の形状につくられた圧延用鋳塊の名称で、加熱して高温度で板状に圧延します。スラブはビレットと同じく、あらかじめ成分を調整して半連続鋳造法でつくられ、その重量は目的及び圧延設備の仕様などに応じて決められます。一般には厚さ200~600mm程度て、およそ2~28トンの重量のものとなっています。

モンちゃん
圧延の直前に行われる均質化処理ですか?
アンサー氏
さきほどスラブを鋳造する時に偏析部ができるといいました。スラブは鋳造時に急速に冷やされるため、金属組織が不均一な状態です。この偏析部や過飽和状態にある成分を拡散させ、全体に均一なスラブを作ります。アルミの場合は、一般的には400℃からそれ以上の温度、銅の場合700℃~900℃で加熱されます。
モンちゃん
スラブの内部細織が均一化されることによって、最終的な製品の品質が向上するのですね。面削と加熱処理は、圧延という本番を行うためのウォーミングアップといえますね。
アンサー氏
そしていよいよ圧延。圧延は平行におかれた一対のロールを回転させ、ロールとロールの間にスラブを通過させて薄く延ばす加工方法。一般には実際にアルミなどに接して圧延するワークロールとそれをフォローするバックアップロールによって成る4段圧延機が多く使われていますが、4段以上の多段圧延機もあります。また最近では2機以上の圧延機を連続して設置し、効率よく圧延するタンデム方式も用いられるようになりました。

硬くしないで圧延する“熱間圧延”

モンちゃん
よく熱間圧延と冷間圧延という言葉を聞くんだけど、圧延には2種類あるんですか。
アンサー氏
そうそう。圧延はその2つに大別されています。まずは熱間圧延によって大幅に圧延し、さらに冷間圧延で延ばすといった工程。ではまず熱間圧延について説明しましょう。熱間圧延には、熱間粗圧延と熱間仕上圧延があります。アルミは厚さ200mm~600mmのスラブが粗圧延機(ラッファー)で20mm~60mmとなり、仕上圧延機(フィニッシャー)でさらに圧延され、2mm~12mmになります。
モンちゃん
“熱間”というほどだから、熱い場所で加工するんでしょう。
アンサー氏
それが違うんですねえ。熱間圧延というのは、金属の強度が高くならない状態で、加工することをいいます。強度には限界があり、それを超えると破断してしまいます。金属は一定の温度以上の熱エネルギーがあると硬化しないため、スラブをその温度まで上昇させ圧延するのです。この温度は金属によって差があります。例えば鉛は常温でも硬化せずに加工することができるので、常温における加工でも熱間加工といえます。通常アルミは、300℃~600℃。銅は700℃~900℃前後で行われます。そして熱間圧延のもうひとつの大きな目的は、板の内部細織を変化させることです。
モンちゃん
圧延によって力が加わると、板の結晶の形まで変わってしまうということですか。(図-1)

図-1

アンサー氏
圧延を行うと、結晶の塊である結晶粒も長く伸びます。そして鋳造組織の中にあった晶出物は、細かく破壊されて均一な組織に生まれ変わるのです。均一化された組織には全体的な方向性が生まれ、圧延組織となることで加工度はさらによくなるんですよ。
モンちゃん
組織が統一されて、次の冷間加工も可能になるということですね。

美しい表面がアルミの魅力

アンサー氏
大きな加工ができる熱間圧延は、板圧延になくてはならない工程ですが、他面では弊害を生じます。高温での圧延は、板の表面を悪化させてしまいやすいからです。
モンちゃん
いわゆる焼付がおこるんですね。最終製品にアルマイト処理などをすると、黒い筋となって現れたりしますね。
アンサー氏
ロールの金属面とスラブの金属面の接触が焼付の原因。また板表面にアルミやマグネの酸化物が付着するピックアップという現象も、表面の品質を低下させます。
モンちゃん
スラブの成分が酸化しロールに付いて、ロールの表面が次第にコーティングされていきます。その蓄積物が逆に板の方に付着してしまうのがピックアップなんですね。焼付やピックアップを防ぐ方法はあるんですか。
アンサー氏
潤滑性を高め、焼付を防ぐためには圧延中にオイルを使います。このオイルは水の中に数%の油を粒子状にして混ぜたもの。ソリブルオイルと呼ばれています。
ラッファーとフィニッシャーでは必要とされる潤滑性も違うので、ソリブルオイルの濃度も異なっています。またこのソリブルオイルは、熱いスラブが通過することによって上昇してしまうロールの温度を冷却する働きも兼ねています。またロールの表面にアルミなどの酸化物が蓄積するのを防ぎ、さらに良質な表面を得るためコーティング調整用に、ブラシが取り付けられています。このブラシはピアノ線やシリコンカーバイト入りのナイロンなどで作られているんですよ。

美しい表面がアルミの魅力

熱間粗圧延機

モンちゃん
ロールの表面は何も付着していないまっさらな状態がベストなんですね。
アンサー氏
いえいえ。そこが難しいところなんですが、ロールには適度なコーティングがあったほうが、摩擦が少なくかえって焼付をおこさないのです。コーティングを安定に保つためソリブルオイルの調整やブラシの使用などがノウハウとなるのです。必要以上にコーティングが蓄積してしまったロールや磨耗したロールは研磨して再び使用されますが、研磨直後は高品質な表面特性が求められる板を圧延することはできません。前通し材を圧延し、ロールの表面を調整してから使用されます。

ポイントは板厚制御と温度コントロール

モンちゃん
圧延加工では板厚の精度がとても大切ですよね。でも全体に均一な厚さの板を加工するって結構難しいことだと思うんですが。
アンサー氏
厚みの精度は圧延加工のもっとも重要なファクターのひとつでしょう。凸凹の板なんてとんでもないことですからね。板厚は長さ方向と幅方向、それぞれに調整されます。熱間圧延では、特に幅方向の板厚(クラウン)を制御することを得意としています。熱間圧延機の幅は大きなものでラッファーで3,900mm以上、フィニッシヤーで2,900mm程度。それだけの幅の板を一瞬にして均一な厚さに仕上げるには高度な技術が必要とされます。
モンちゃん
どんなことが原因になって幅方向で板厚に差がついてしまうのですか。
アンサー氏
高温のアルミスラブはたいへん柔らかく、加工しやすくなっていますがそれでもロールを通過する際に反発する力は相当なもの。それでワークロールがたわんでしまうんですよ。それをフォローするのが、バックアップロール。バックアップロールによってワークロールのたわみを矯正します。
モンちゃん
それではワークロールをフォローする役割を持つロールがさらに多い多段圧延機ならば、もっとたわみ防止に効果があるということになりますね。
アンサー氏
油圧の力でロールのたわみを矯正するベンディング、バックアップロールの芯に加工を加えてたわみ矯正に有効な形状を実現したテーパーピストンロールもクラウンの制御に効果的な方法ですね。さて、アルミの場合、表面品質、幅・長手方向板厚と並び熱間圧延において非常に重要なファクターがあるんですが、それはなんだと思います?
モンちゃん
うーん。なんだろう?
アンサー氏
それは温度コントロールです。熱間圧延では、適切な温度が重要なカギ。しかしアルミは温度コントロールがたいへん難しい金属なんです。
モンちゃん
わかった!アルミは熱の輻射が少ない金属だからでしょう。鉄などは内部の温度が上昇すると表面も真っ赤になり、外に熱を放射するけと、アルミは温度が上がっても表面はあまり変わらず外にエネルギーを出さない。だからアルミ本体に接触せずに温度を測定するのが灘しいんですね。
アンサー氏
温度の微妙な測定ができなければ、温度コントロールもなかなかうまくいきませんからね。温度を正確に測り適切なコントロールを行うことが高品質な板を作るための重要なカギなのです。

機械的性質を左右する、焼きなまし

モンちゃん
フィニッシャーによって熱間仕上圧延されたアルミプレート(ホットコイル)が次に冷間圧延の工程へと運ばれるんですか。
アンサー氏
ホットコイルとして製品化されるもの、そのまま冷間圧延されるものもありますが、熱間圧延後の処埋として焼きなましを行う材料があります。
モンちゃん
焼きなましとは、金属を再結晶温度以上で加熱することでしょう。結晶を変化させることに意味があるのかな。
アンサー氏
圧延によって伸びた組織を微細な結晶にし、結晶の方向性を調整します。結晶粒は製品の強度や表面の精度、加工性と深い関係があります。
モンちゃん
焼きなましは最終的な製品の品質に影響を与えるんですね。
アンサー氏
焼きなましは、焼きなまし炉で行われます。焼きなまし炉は、コイルをほどきながら連続して焼きなました後コイルを巻き取る連続焼きなまし炉と、コイル全体を同時に炉の中に入れるバッチ炉があります。
モンちゃん
連続焼きなまし炉とバッチ炉はどう違うの?
アンサー氏
連続焼きなまし炉のほうが急速な加熱が可能なのです。連続焼きなまし炉には、熱風で加熱する連続焼鈍炉(CAL)と電磁誘導加熱するタイプがありますが、後者のほうが高温でより速く加熱することができます。モンちゃんが言ったように結晶粒のサイズは、加熱の温度と速度によって決まります。加熱温度が低く、加熱速度が速いほど微細な結晶粒が生成されるのですよ。
モンちゃん
つまり強度の高い均質な板が作れるのですね。
アンサー氏
最終製品が必要とする強度のレベルによって、焼きなまし方法も使い分けられています。焼きなましが終了すると、いよいよ冷間圧延なんですが、それは次回に詳しく説明することにしましょう。