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No.7 [圧延(板)] その2
(やさしい技術読本 1997年3月発行)
圧延の工程は、 熱間圧延と冷間圧延とに大別されます。
熱間圧延について学んだモンちゃんは、冷間圧延にチャレンジします。
再結晶温度以下で行う「冷間圧延」
- モンちゃん
- 前回は、圧延技術のうち熱間圧延から焼なましまでについて勉強しましたね。
- アンサー氏
- 熱間圧延とは、温度の高い場所で圧延するという意味ではないことを覚えていますか。
- モンちゃん
- 熱間圧延は金属が硬くならない温度で圧延することでした。じゃあ冷間圧延も、特に温度の低い状態で圧延するというわけではないのですね。
- アンサー氏
- 冷間圧延とは金属の再結晶温度以下で行う圧延のこと。一般には常温の作業です。もっとも圧延を行っているうちに摩擦熱によって材料の温度は上昇し、100℃程度になってしまいますが。そういう場合の温度を下降させる方法については後で説明しましょう。
- モンちゃん
- 冷間圧延は、いってみれば圧延の仕上げ工程。できあがった製品には熱間圧延を行ったものとは違う利点があるんでしょう。
- アンサー氏
- 冷間圧延を行うことによって、加工強化による強さの上昇、良好な表面などのメリットが得られます。冷間圧延の方法は、熱間圧延と同様ロールによって材料を薄く延ばすというものです。
- モンちゃん
- 最良の品質を作りだすために、精密な制御が行われているんですよね。
- アンサー氏
- そのとおりです。
- モンちゃん
- 熱間圧延では、幅方向の板厚(クラウン)などを制御しました。冷間圧延ではどのような制御が行われるんでしょうか。
- アンサー氏
- 冷間圧延では長さ方向での板厚および形状(歪)を制御します。熱間圧延も含め、圧延の制御技術は非常に高度で精度の高い技術です。制御技術が発達したからこそ、今日のような高速圧延ができるようになったといえるほどです。
6段2タンデムの冷間圧延機
精度が要求される板厚の制御
- モンちゃん
- 長さ方向の板厚の制御というのは?
- アンサー氏
- 材料が圧延される時、材料にかかる荷重に比例して、ロールに押し返す力がかかります。この力によって圧延機の枠組みであるハウジングがのび、またロールが偏平し長さ方向の板厚に影響がでます。1mm厚の板を作ろうとして圧延機のギャップ(すき間)を1mmに設定するとロールの偏平およびハウジングののびのために1mmよりはるかに厚い板になってしまうといった具合。同じギャップに固定して圧延すると、入り側の厚みや硬さの変動で製品の厚みが変化してしまうのです。また荷重は圧延の速度によって変化します。速度が速くなると荷重は下がり、遅くなると荷重は上がる。圧延工程では材料を入れ始める時はゆっくりと、やがて高速化し、材料を抜く時は再び低速になります。これでは板の先端と真ん中では荷重が変化し、板厚にも差異が生じます。こうしたさまざまな条件によって影響を受ける板厚を一定に保つよう制御するのがAGC(オートマチックゲージコントロール)です。
- モンちゃん
- じゃあAGCによってギャップを変化させ、思い通りの厚さの板を作ろうってこと?
- アンサー氏
- 圧延中の荷重の変化をキャッチしそれに合わせてギャップを変化させ、圧延機に入れる材料の厚さや硬さが変わってもある程度安定した板厚を得るためのAGCをビスラー方式と呼んでいます。また圧延機の出側に設置したX線で板厚を測定し、ギャップにフィードバックすることで板厚の絶対値を安定させるモニターAGCも、なくてはならない制御です。
- モンちゃん
- フーン。でも同じ素材でも長さ方向で厚いところもあれば、薄いところもあるでしょう。材料が圧延機の中に入ってからギャップを変えても、遅いってこともあるんじゃないのかな。
- アンサー氏
- そうした遅れが出ないようにコントロールするのが、FF(フィードフォワード)AGC。材料が圧延機に入る側の厚さの変動をあらかじめ測り、それに従って圧延機を予測制御します。入り側のX線で測定した板厚の変動を考慮に入れたギャップのコントロールを行うことで、より精度の高い板厚が得られます。また速度の加滅による荷重の変化に対してもあらかじめ予測し、制御します。
- モンちゃん
- 材料の厚さや圧延の速度による変動まで予測して制御するとは、頼もしいですね。
- アンサー氏
- これら種々のAGCによって制御された板は、1万mにもおよぶコイル長さでの厚さの誤差が±5ミクロン以内に保証されているんですよ。
- モンちゃん
- 冷間圧延では本当に高いレベルの制御が行われているんですね。
- アンサー氏
- 熱間圧延ではフィニッシャーによる1スタンドあたりの圧化率は30%~50%。しかも、もともと厚い材料を圧延するのですから、1回にかなりの加工量をとることができます。ただし変動要因が多く精度の高い板厚のコントロールが非常に難しいんです。それに比べ冷間圧延は圧化率が20%~50%と若干低く、熱間圧延された材料をさらに圧延するので加工量は少なくなりますが、その分キメ細かい制御が行われ、精度の高い製品を供給することができるのです。
- モンちゃん
- そうすると、板厚だけでなくクラウンの制御もできるの。
- アンサー氏
- ところが冷間圧延では基本的にはクラウンの制御は行わないんですよ。熱間圧延では材料が厚く、硬化しない温度で加工するために非常に柔らかい状態になっています。そのため材料が2次元的(厚さ、長さ)に伸びるだけでなく、幅方向での金属の流れがおこります。しかし冷間圧延ではクラウンを制御しようとすると、幅方向の金属の流れが無いために、2次元的な変形となり長さ方向に歪がでてしまうんです。そのため、冷間圧延での制御は困難です。
微妙なひずみをコントロール
- モンちゃん
- 冷間圧延では歪の制御も行うんでしたよね。
- アンサー氏
- それでは歪の制御について説明しましょう。クラウンの制御を行わなくても、冷間圧延では微妙な板の歪が生じます。前に言ったように冷問圧延とはいっても圧延時の摩擦熱で材料は100℃程度にまで上昇します。この温度の上昇によるロールの膨張が、材料の形状に複雑な影響を与えます。
- モンちゃん
- いわゆる「中のび」の板になりやすい状態が起こるんですね。
- アンサー氏
- 高い精度が求められる冷間圧延ではこれを見逃すわけにはいきません。AFC(オートマチックフラットネスコントロール)によって歪を制御します。
- モンちゃん
- でも冷間圧延中の板には、アンサー氏がいうような歪なんて見当たらないけど。
- アンサー氏
- 圧延されたコイルは巻き取られますが、その張力によって歪が見えなくなっているんですよ。これをそのままにしておくとたいへん!精整工程でトラブルを引き起こしたり、平坦度外れで商品価値のないコイルになってしまいます。歪を制御するためには、まず内在している歪を発見することが先決。その役割を果しているのが、デフレクターロールの内部に荷重センサーを埋め込んだシェープメーターロール(図‐1)です。 デフレクターロールは、本来圧延された板を巻き取る前に、角度を変化させコイルアップしやすくするために設置されていますが、圧延機の出側の歪をキャシチするのに一番適切な場所であるため、シェープメーターの目的も兼ねたロールを使用しています。約50ミリ毎にセンサーが備えられ、隠れた歪を発見します。
- モンちゃん
- やり手の特別監視官といった感じ。
- アンサー氏
- まさしくそうですね。
- モンちゃん
- 歪は温度の上昇によるロールの膨張が複雑に影響するわけですから、それを抑制すればよいのですね。
- アンサー氏
- ここで活躍するのはクーラント(潤滑油)。アルミの冷間圧延では一般に潤滑と冷却のために鉱物油が使用されていますが、最新鋭の圧延機では高圧下でより高レベルの歪制御を可能とするために、水をベースとした水溶性の潤清油を用いる技術が開発されています。デフレクターロールでの検出結果からクーラントの適量がはじき出され、幅方向50ミリピッチでワークロールにスプレーするようきめ細かくコントロールされています。
- モンちゃん
- 歪の制御にはワークロールの複雑な変形をコントロールすればよいんでしょう。ワークロールを支えている中間ロールやバックアップロールも役に立ちそうだけど。
- アンサー氏
- もちろんそれらも活躍しますよ。中間ロールは幅方向に移動できるので、上下の中間ロールが最適になるように位置をずらし、ワークロールのたわみを制御します。(図‐2)ところで熱間圧延のところで登場したベンディングを覚えていますか。
- モンちゃん
- 油圧の力によってロールの形状をコントロールしようというものですよね。
- アンサー氏
- ベンディングは当然冷間圧延にも採り入れられていて、歪の制御に役立てられます。
高品質の製品を作りだすために
- アンサー氏
- 前回、焼きなましについてお話したことを覚えていますか。
- モンちゃん
- 再結晶温度以上で加熱することでしょう。結晶の方向性に影響し、最終的な製品品質とも深い関係があるんでしたよね。
- アンサー氏
- 冷間圧延された素材は加工とともに硬化し、次第に加工効率が悪くなり最終的には破断し、加工できなくなります。そこでさらに圧延するために中間焼きなましを行い、加工効率を回復させるんですよ。もちろん中間焼きなましには、結晶粒の大きさをコントロールし強度を制御する働きや、異方性、耳率を制御する働きもありますが。
- モンちゃん
- 焼きなましによって調整された結晶の組織は、冷間加工によって金属特有の優先方位にどんどんのばされていくんですね。再結晶の方向性に圧延の方向性を加味した最適なところで、絞り加工などがやりやすくなる様に設定されているというわけですね。
- アンサー氏
- 圧延の終了した最終製品についていえば、表面特性は見逃すことのできないファクターだといえます。板表面をピカピカに仕上げる圧延機があるのを知っていますか。
- モンちゃん
- 熱間圧延でも冷間圧延でも潤滑油などを使って焼き付きを防ぎ、表面特性には気を配っていたけど、それとは違うんですか。
- アンサー氏
- 表面にできるだけ光沢を持たせるよう圧延する機械があるんですよ。圧延機は、圧延という加工に的を絞ると、直接加工を行うワークロールの他に中間ロールやバックアップロールが必要になります。しかしロールが多いほど、ロール接触によるロール目の摩耗などで表面特性は悪化してしまうんですよ。そこで表面光沢を得るためスキンパス圧延機には、バックアップロールなしの2段圧延機が用いられています。
- モンちゃん
- 表面をピカピカにするためには、ロール自体もピカピカに磨いておくの?
- アンサー氏
- ロールの表面はピカピカに研磨し、粗度を下げておきます。また圧延速度を上げると荷重が下がり圧延性はよくなりますが、潤滑油が材料にたくさん引き込まれて表面が割れたように白っぽくなります。これをオイルピットといいます。光沢を出すためには、オイルピットを防ぐ必要があり、このために低粘度の圧延油を使用し、比較的低い速度で圧延されます。
- モンちゃん
- それにしても圧延では最終製品のいろいろな要求に実にキメ細かく対応しているんですね。もっと単純なものかと思っていたけど、認識を改めました。
- アンサー氏
- 目に見える板厚や形状の精度はもちろんのこと、強度、加工に必要な組織の制御、結晶粒の大小、表面特性など多彩な要求に応えるためには、さまざまな工夫がなされているということです。要求特性によって、複雑なプロセスがひとつずつ決定されていく。一口に圧延製品といっても、最終的な製品は、それぞれが使用される場面に一番ふさわしい、個性的な製品なんですよ。