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No.11 [鋳造]

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

複雑な形状を成形し、 高いクオリティも提供することのできる鋳造。
航空機や自動車、鉄道車両などの部品をはじめ
数々の製品を生み出す鋳造とは どのような技術なのか。
モンちゃんとともにLet's study!

一品ごとに技術が生きる砂型鋳造

モンちゃん
最近アルミ製ホイールを付けた自動車が多くなりましたね。 あのホイールも鋳造品なんですね。
アンサー氏
溶融解状態の合金を型に流しこんで、そのまま凝固させ、ほとんど最終製品とするものを鋳物と呼び、その工程を鋳造といいます。 アルミは鉄や銅に比べ溶融点が低く(アルミ:660 ℃、鉄:1540℃、銅:1083 ℃) 湯流れが良いため鋳造に適しています。 鋳造では、複雑な形状を一体で形作ることが可能であり、航空機エンジンのギアボックス等、各種航空機部品や自動車部品など、私たちの生活を支える多くの製品が鋳造によって作られているんですよ。
モンちゃん
そういえば、鋳造ってゼリーの作り方と、とっても似ていますね。 ゼリーはゼラチンを溶かして果汁やシロップを混ぜ、型に流し冷し固めて作るでしょう。 鋳造についても、簡単にわかっちゃいそうだな。
アンサー氏
そうは問屋がおろさないと思うけどなあ。 高い品質を実現するためには、きめ細かい配慮が必要だし、一言で鋳造と言ってもいろいろな種類があるんですよ。
モンちゃん
トホホ、またしても私の早合点でした。 じっくり、鋳造について勉強するとしましょう。
アンサー氏
鋳造には、使用する鋳型によって大別すると①砂型鋳造 ②金型鋳造(ダイカストを含む)③その他の鋳造法(精密鋳造)があります。 また適用する圧力によって、(A) 重力鋳造法(B) 低圧鋳造法(C) 高圧鋳造法に分類することができます。
モンちゃん
砂型鋳造っていうのは文字通り砂を使って型を作るんでしょう?あのさらさらの砂が金属製品を作る型になるなんて、信じられないな。
アンサー氏
砂を粘結材によって硬化させて鋳型を作ると、頑丈なものができます。 実際に砂型を触ってみるとすごく硬いし、人間の手で砂型に力を加えてもびくともしないよ。
モンちゃん
粘結材って砂と砂とをくっつけて固める接着剤の役割を果しているんですね。 でも海辺で砂を固めて砂の城を作ってもすぐ壊れちゃうでしょ。 鋳造に耐えられる砂型を作るためには、ものすごく強力な接着剤が必要になりますね。
アンサー氏
砂型鋳造ならではの、強力な威力を持つ粘結材が使われているんですよ。 砂型鋳造は粘結材の違いによって(1)生砂型法(2)炭酸ガス法(3)シェルモールド法(4)有機自硬性砂法などに分類されています。 粘結材としてベントナイトと水を使う生砂型法は、古くから使われている最も原始的な方法。 型の抗圧力は数kg/cm2しかありません。 ケイ酸ソーダを添加したけい砂(粘土分の少ない鋳物用の砂)に炭酸ガスを吹き込み硬化させるのが、炭酸ガス型法。 取り扱いが簡単で、強度も強いのですが、型ばらしや砂の再生が難しいという欠点があります。 シェルモールド法は、熱によって硬化する性質を持つフェノール樹脂を利用し型を作る方法。 製品を形どった金型を用意し、そこに砂をかぶせたり吹きつけて砂型を固め、薄くて通気性の良いシェル状の型を作ります。 この方法は造型作業が機械的に行われるので、熟練した作業者でなくとも行うことができます。 また造型時間が短く、量産できる、寸法精度が高い、鋳肌(鋳物の表面状態)も滑らかといったメリットもあるんですよ。
モンちゃん
有機自硬性砂法はどんな方法? なんだか難しそうな名前だけど。
アンサー氏
有機樹脂と硬化材をけい砂に混合した砂で造型する方法です。 この場合の型は非常に強度が強く抗圧力は20~25kg/cm2にもなります。 また流動性の良い砂なので、造形が簡単で砂の再利用もできるんですよ。
モンちゃん
へえ。 砂も再利用するんですね。
アンサー氏
神戸製鋼の大安工場では砂の再生機を設置し、くりかえし使用しています。 砂型で使う砂は、バランスのとれた大きさが必要。 大きすぎても小さすぎてもダメ。 そこで再生工程で微粉となった砂は捨て、常に新しい砂を加えて最良の状態を保っています。 ところでモンちゃんは、鋳造とは溶湯を上部についている湯口から注ぎ込むものと思ってない?
モンちゃん
そうじゃないの?
アンサー氏
鋳造には鋳型で分類する方法の他に、適用する圧力によって分ける方法もあることは、さっきいいましたよね。 重力鋳造法は地球の重力をそのまま利用して上部から溶湯を注ぎ込むものですが、アルミニウムやマグネシウムの合金は酸化しやすいので、より高い品質をめざして下注ぎや押し上げ方式を用いられることが多くなっています。
モンちゃん
「適用する圧力」とは、注入する溶湯にかける圧力のことを指しているんだ。
アンサー氏
その圧力の大きさによって、低圧鋳造と高圧鋳造の違いが生まれます。 神戸製鋼の砂型鋳造では従来重力鋳造法を用いていましたが、大安工場への移転にともなって、より品質の高い製品を作るために低圧鋳造を導入。 この低圧鋳造機には、鋳型の下部に溶湯の入ったるつぼがあり、下から溶湯が供給されます。 湯面にコンピュータで制御した圧力をかけることによって適正なスピードで溶湯を鋳型に注入する仕組みになっています。 このため溶湯の乱れも少なく、酸化物の発生を抑えることができます。

量産に対応する金型鋳造

モンちゃん
砂型鋳造が砂を使った鋳型を使うのだから、金型鋳造は金属製の鋳型を使うってことでしょう?
アンサー氏
はい、その通り。 鋳鉄や耐熱性合金の鋳型を用います。
モンちゃん
砂型は、一回鋳造したら鋳型を壊してまた作りなおさなくてはいけないけれど、金型はくりかえして使うことができますね。
アンサー氏
一つの金型で約2万個程の製品を作ることができ、量産品に適しています。 金型鋳物は砂型に比べて溶湯の冷却速度が早いため鋳造組織が細かくなるんですよ。
モンちゃん
機械的性質とか耐圧性が優れた製品ができるのですね。
アンサー氏
その上、寸法精度や鋳肌も良好なものを作ることができます。
モンちゃん
いいことずくめって感じ。
アンサー氏
ただし肉厚の薄いものは苦手ですが。
モンちゃん
金型鋳造でも低圧鋳造が主流なんですか。
アンサー氏
上部から流し込む重力鋳造が基本ですが、ホイールやシリンダーヘッドの製造では低圧鋳造が使われます。 低圧鋳造には歩留りが非常によく、後工程も簡便化できるというメリットがありますから。
モンちゃん
高圧鋳造は「高圧」っていうくらいだから、かなりの圧力をかけるんでしょうね。
アンサー氏
低圧鋳造では1kg/cm2に対して、高圧鋳造では鋳造後溶湯面に約800~1000kg/cm2の圧力をかけます。 神戸製鋼では独自の高圧鋳造法KPH(KOBE PREMIUM QUALITY HIGH PRESSURE DIE CASTING)を開発し、ハイクオリティを実現しました。(図-1)高圧鋳造はプランジャーによる加圧力が、溶湯が凝固する間も持続しています。 そのため凝固する時にできる収縮巣などの欠陥を防ぐことができます。この設備も自社開発です。

【高圧鋳造法】

モンちゃん
凝固の時にも圧力がかかっているのなら、鋳造組織も緊密になりますね。
アンサー氏
そうなんです。 高圧鋳造によって作られる製品は、結晶粒が大変細かくなり、強度も、信頼性も高くなります。 そこで自動車の足回り部品やエンジンマウントなどの製法として用いられています。
モンちゃん
金型に高圧で溶湯を押し込む鋳造法といえば、ダイカストを思いだすんですが。
アンサー氏
ダイカストとは、「精密な金型(ダイス) に溶融金属を高圧で圧入して高精度で鋳肌の優れた鋳物を短時間に大量生産する鋳造方式」(日本ダイカスト協会) と定義され、量産性、経済性に優れた鋳物の製造法として幅広く使われています。
モンちゃん
大量生産に適しているから、軽合金の製造法として広く普及したんですね。 逆に大がかりな設備が必要だから、それに見合う生産量がなければ、不適合ともいえるけど。
アンサー氏
ダイカストは薄肉のものや、複雑な形状もお手の物。 寸法精度や鋳肌が良いなど多くの特性も持っています。
モンちゃん
じゃあ高圧鋳造の出る幕はないんじゃないの。
アンサー氏
ところが、ダイカストは溶湯を瞬間的に圧入するので、空気やガスの排出がたいへん難しい。そのためポロシティー(気孔)が発生してしまい、熱処理や溶接が行えないのが普通です。
モンちゃん
高圧鋳造では、低速充填するためポロシティーがなくなり、熱処理などもできるんだ。
アンサー氏
高圧鋳造による製品は熱処理を施すことができるため、特に強度の要求される製品作りが可能になるのです。

精密鋳造で、複雑で細かい形状を作り上げる

モンちゃん
さて、お次は精密鋳造法ですね。
アンサー氏
精密鋳造法は、砂型を使って作れないような薄肉、鋳肌、寸法精度の優れた製品を作る方法で(1)ロストワックス法(2)セラミックモールド法(3)石こう鋳造法があります。ロストワックス法は、製品の模型を“ろう”で作りその周辺を鋳型の材料となるスラリーと耐火材で覆い、それを乾燥して固める工程をくり返して鋳型を作る方法です。スラリーは微粒子の耐火材と粘結材を混合して作られるもの。これを何層も重ねて所定の厚みの鋳型を作成する方法をセラミックシェルモールド法といい、2~3層重ねた後荒い耐火材でバックアップする方法をソリッドモールド法といいます。
モンちゃん
模型の周りに鋳型材料をくっつけて、乾燥して固めるんですね。 なんだか天ぷらを作るみたい。エビに衣を付けて、油であげて衣を固めるとおいしい天プラができあがるでしょう。 でも鋳型ができあがった後、模型となった“ろう”はどうするんだろう。 そのまま残っていたら鋳造できないよね。
アンサー氏
脱ろう工程でオートクレーザ内で加熱蒸発により溶融排出され、更に残渣も続く焼成工程で" ろう" を溶融燃焼させてしまうんですよ。 そこで鋳型ができるというわけ。 ロストワックス法は、細かい溝なども精巧にできるので、複雑な形状で機械加工ができなかったり、加工費が高価なものに有効です。
モンちゃん
セラミックモールド法は?
アンサー氏
これは流動性のよい鋳型材料を模型に流し込んで、ゲル状になったら抜き型し、焼成して鋳型を作って鋳造を行う方法です。 石こう鋳造やロストワックス法ではできない、大きく、肉厚の製品に適しています。
モンちゃん
石こう鋳造法も、模型に石こうを流し込んで鋳型を作るのかな。
アンサー氏
そう。 石こうに水を加えて攪拌して流し込み、脱水して乾燥させ鋳型を作ります。 この乾燥工程はとっても大切。 石こう鋳造は鋳型の冷却が砂型よりも遅いので、表面に模様があったり肉厚の薄いものでも作ることができます。

鋳物のクオリティをアップする、きめ細かい技術

アンサー氏
鋳造は液体状に溶かした合金を型に流して固める技術ですから、液体状の合金つまり溶湯の品質が製品の品質に大きな影響を与えます。 最初の工程である溶解は、製品の品質を左右するたいへん大切な工程なんです。
モンちゃん
「溶解と鋳造 その1」では、高品質の製品を作るためには、良い状態の溶湯を作ることが重要だということを勉強しました。
アンサー氏
鋳造製品の善し悪しを決定する上で、溶湯中の介在物や合金組成や結晶組織などは重要なポイントとなります。 溶湯の段階でそれらのバランスがとれるよう、しっかりと調整するんです。
モンちゃん
酸化物であるドロスや水素ガスを取り除くために、フラックス精錬や脱ガスが行われるんでしたね。
アンサー氏
良質な溶湯ができあがったら、次はいよいよ鋳造工程。 アルミ合金やマグネ合金の鋳造では浴湯ができるだけ静かに流れ鋳型内を充填していくような位置に湯口を設けること、鋳物中に最良の指向性凝固が得られる方案にすることも非常に重要なんです。
モンちゃん
指向性凝固って?
アンサー氏
溶湯は凝固する時に5%の体積収縮を起こすため、製品内でバラバラに凝固すると収縮巣(引付巣)という空洞が生じてしまうんだよ。そこで、指向性凝固といって製品の部分から凝固させ、最終凝固部が押湯になるように、堰(製品に溶湯を入れる入り口)や押湯(収縮を補うための溶湯の補給部分)、冷し金を設ける必要があるんだ。冷し金とは、指向性凝固を促進するために早く冷やしたい部分を優先的に冷やすために鋳型にセットされる道具で鋳鉄でできています。
モンちゃん
金型鋳造ではどんな工夫がされているの?
アンサー氏
溶湯を早く固めるために金型鋳造では積極的に冷やしたい部分を集中的に水冷するようにします。
モンちゃん
一口に鋳造といっても、色々な方法がありそれぞれに特徴があることがわかりました。 アンサー氏の言ったとおり、良質な製品を作るために各工程ごとにきめ細かい配慮がなされているんですね。
アンサー氏
どのような製品にしたいのか、製品形状、寸法精度、所要数量、品質水準、機械的性質などを総合的に考えて、最適な鋳造法を選ぶ必要があります。 そして鋳造法が決定したら、鋳型構造、鋳造作業、鋳造後の後工程など鋳物全体の製品設計を十分に検討することですね。
モンちゃん
すべてが複合されて、満足のいく製品ができあがるんだ。
アンサー氏
鋳造に欠かせない要素としては合金の選定もあります。 鋳造用合金は、流動性が良く鋳物に適したものでなければいけません。 合金組成によって溶湯の性質も違ってきますから、合金に合った鋳造法を見極めることも大切なんですよ。