神戸製鋼HOME > 素形材事業 > やさしい技術 > やさしい技術/アルミ編 > No.19 アルミニウムの化学的性質(耐食性)

No.19 アルミニウムの化学的性質(耐食性)

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

前回に引き続き、基本的な性質について勉強しましょう。
今回はアルミの化学的側面からの耐食性についてです。
なぜアルミは腐食しにくいのか、そのメカニズムにせまります。

酸化皮膜は強カなバリヤー

アンサー氏
アルミは耐食性に優れた金属だということは知っていますよね。
モンちゃん
ハイ。つまり錆びにくいってことでしょう。どうしてアルミは腐食しにくいんですか。
アンサー氏
いきなり核心をついた質問ですね。実はアルミ自体は化学的に見ると非常に活性な金属であり、腐食しやすい性質であるといえます。ただしこれを封じこめてしまうほど、強力な性質も併せ持っているため、耐食性に非常に優れているんですよ。
モンちゃん
そんなにもったいぶらないで、早くその理由を教えてください。
アンサー氏
それはアルミが酸素と非常に結び付きやすい性質を持っているということなんですよ。そのためにアルミの表面には自然に、非常に緻密な構造をした保護力の強い酸化皮膜が形成され、腐食を防いでくれるのです。
モンちゃん
へえー。アルミの周りにバリヤーができて、アルミ本体を守ってくれるんですね。
アンサー氏
まさにその通り。酸化皮膜は、外側の比較的緻密度が低い層と、メタルに隣接した緻密度の高い層からできています。内側の層は障壁層(バリヤー層)といい、電導性が低く、高い保護力を持っています。(図1)

図1

モンちゃん
でもキズが付くなどしてこのバリヤーが壊されてしまうと、いくらアルミでも腐食してしまうということですか。
アンサー氏
そうですね。ただしこの酸化皮膜は酸素が存在する場所であれば、たちどころに再生されるので、防食効果も維持されるのです。腐食が発生する、というよりも腐食が進行するのは酸化皮膜が機械的に損傷を受けたり、化学的に溶解してしまい、その回復機能が妨げられた場合です。また、アルミニウムの純度が高いほど、均一で緻密な自然酸化皮膜を作ります。強度をアップするために合金化すると、合金元素が酸化皮膜に影響を与え、耐食性が間題になることもあるんですよ。

腐食が進む原因

モンちゃん
アルミの腐食は酸化皮膜と密接に結びついているのですね。酸化皮膜が破れ、その再生が不可能な環境下におかれると、アルミの腐食は進行してしまうんだ。
アンサー氏
アルミの腐食は酸化皮膜に影響を与える不純物や合金元素と、素材が置かれる環境によって進行度合いが決まってしまうということなんです。
モンちゃん
でもアルミは合金化することによって強度が高まるでしょう。他の元素を添加すると耐食性が低下するというのは困りますね。
アンサー氏
合金のところで勉強したように、添加元素は固溶体、析出体、金属間化合物などで存在しますが、それぞれの状態によって腐食に対する影響も違います。つまり添加元素によって腐食の進行度合いも変わるのです。例えばアルミの強度を最も高める元素のひとつであるCu(銅)は、反面アルミの耐食性を劣化させる元素でもあるんですよ。
モンちゃん
Mg(マグネシウム)やSi(けい素)はどうですか。
アンサー氏
Mgは影響が複雑で、添加量や腐食環境によって異なりますが、中性または酸性の溶液中ではほとんど影響はありません。それに耐アルカリ性・耐海水性という点ではむしろ純アルミニウムの耐食性を向上させるのです。Siは若干耐海水性を低下させますが、熱処理型合金であるAl‐Mg‐Si合金ではほとんど影響しません。またZn(亜鉛)も1%程度ならばそれほど耐食性に影響することはありません。
モンちゃん
今、耐アルカリ性という言葉が出ましたが、アルミの耐食はpH(水素イオン濃度)とも関係があるのですか。
アンサー氏
もちろん、pHと深い関係がありますよ。アルミの酸化皮膜は、pH4~pH8の間では余り影響は受けませんが、それ以外のpHでは急激に破壊され、アルミの腐食が進みます。(グラフ1)

グラフ1 アルミニウムの腐食

モンちゃん
それから耐海水性というのがありましたよね。
アンサー氏
外界からのさまざまな要因が酸化皮膜の崩壊につながりますし、それを増長させる環境となります。またアルミの腐食に関係する要素は、ひとつの素因だけでなくそれぞれがさまざまに組合わさって影響するのです。多くの金属の腐食に影響を及ぼす水。アルミの場合も例外ではありません。
モンちゃん
温度なんかはどうですか。
アンサー氏
いいところに目を付けましたね。温度の上昇は著しく腐食を加速するんですよ。ただし大気中であれば温度が上がるにつれて乾燥度も増加するので、かえって腐食を抑える効果もあります。また水中では70℃以上になると表面にベーマイト皮膜が作られ、腐食が抑えられます。
モンちゃん
ふーん。単独では腐食に不利な条件でも、他の要素が組合わさると有利に転換される場合もあるんですね。その他にはどんな要素がありますか。
アンサー氏
その他の要素としては、アルミ周辺の流動、液比(金属の表面積と腐食媒体の容積比)、表面の熱容量、媒体中の不純物、表面状況、加工などがあげられます。特に表面状況というのは、表面の仕上がりが腐食に関係するというもの。アルミの表面が粗いと塵や水が窪みにたまりやすく、腐食速度を速めてしまうためです。これは後で説明する表面処理とも関係がありますが、腐食を抑制するためには適切な表面の処理をすることがたいへん大切だといえます。

アルミはどのように腐食するか

モンちゃん
ところで、アルミの腐食というのは、酸化皮膜の一点が破られると、そこからじわじわ広がっていってしまうのですか。
アンサー氏
それでは腐食形態について説明しましょうか。アルミ全体が均一に腐食していくことを全面腐食といいます。酸化皮膜が崩壊しやすい特定の溶液などに漬けた場合など、酸化皮膜からアルミの素地までじわじわと均一に腐食が進んでいきます。この場合、化学薬品の種類や温度などの要因によって腐食速度が変わってきます。
モンちゃん
じゃあ、均一に腐食が進むのでなく、一部分の腐食が進行していってしまう場合もあるのですか。
アンサー氏
一点が局部的に腐食することを孔食またはピッティングと呼びます。アルミには非常によく見られる腐食形態で、針でつついたような小さな穴が局部的に散在しています。孔食には塩素イオンが深く関係しています。(図2)アルミの表面に付着した細かいゴミなどに含まれる塩素イオンが酸化皮膜を溶かします。そしてその塩素イオンが表面から進入していき、孔食が進行します。その時アルミは水酸化アルミニウムとなり溶け出しますが、溶け出した水酸化アルミニウムが孔食の入口を塞ぐかっこうとなり、次第に内部が中性化していってやがては腐食がほとんど止まります。これを腐食の自己抑制作用といいます。

図2 自然腐食孔

モンちゃん
自分で自分の腐食を止めるなんて、なかなかスグレモノですね。私なんか失敗が多すぎて、自分ではとてもフォローしきれないけど。
アンサー氏
モンちゃんの失敗は私がフォローしてあげますょ。

いろいろな腐食形態

モンちゃん
なんだか今回のアンサー氏は優しいなあ。
アンサー氏
アルミと他の金属とを接触させた場合なども腐食が進行するんですよ。これを電食あるいはガルバニック腐食と呼んでいます。金属は電気が通るような液体(電解質の溶液)の中では、電気化学的にみてそれぞれが独自の序列を持っています。これを電位(ポテンシャル)と言います。そして電位の高い金属を貴な金属、電位の低い金属を卑な金属と言います。両者が接触した場合電位差があるので、卑な金属が陽極(アノード)、貴な金属が陰極(カソード)となって電流が流れて腐食するのです。(図-3・4)

図3・4

モンちゃん
電位というのは、一定なのですか。
アンサー氏
おかれる溶液によって差があります。つまり環境によって電位が変化するのです。それぞれの環境で実測した腐食電位表がありますから、実際に電食を考慮する場合はそれを利用すると良いでしょう。また電食の度合いも溶液の条件によって左右されます。不純物のない水では弱く、海水や化学薬品などの高電導性の媒体中では大きな作用をおこすのです。(グラフ2)

グラフ2

モンちゃん
溶液中でおこるということは、常に乾燥した場所では電食はおこらないということですか。
アンサー氏
理論的にはそうなりますね。ただ海岸の近くとか、雨が降るとか自然の中にあれば絶えず溶液の中に浸されるのと同じような状況に陥ることもあるので、注意しなくてはなりません。
モンちゃん
そうか。じゃあ、溶液の存在が少なくても、アルミが異種金属と接している場合はそれぞれの環境での電位差を参考にして腐食の度合いを考えなければいけないのですね。
アンサー氏
といっても電位の差がそのまま腐食速度につながるというものでもないんです。電食には電位差のほかに接点の抵抗、溶液の電導度、陽極、陰極の面積比、溶液のpHや溶液に溶けている酸素量などが大きく影響します。
モンちゃん
電位差によって腐食がおこるのであれば、合金でも添加元素とアルミの電位差により腐食が起こるのでは。
アンサー氏
Al‐Mg系合金ではMgの固溶体がAlよりわずかに陽極で、過剰なMgが固溶体同士の境界である粒界に析出し、その粒界に沿って腐食が進む場合があります。これを粒界腐食といいます。しかし、こうした粒界腐食は粒界析出物が不連続になるような熱処理をすればおこらなくなります。
モンちゃん
その他にも腐食の種類があるのですか。
アンサー氏
まず、すきま腐食というのがあります。これはアルミとアルミまたはアルミとその他の物質との接触部分に存在するすきまでおこる腐食のことです。すきまに入り込んだ水に溶けていた酸素が、腐食反応によって消費され、すきま以外の水中の酸素量と差が生じるため一種の酸素濃淡電池を作ることとなりすきま部における腐食がさらに進むのです。これを防止するためには、すきまを作らないこと。充填剤を詰めるなどして防ぐとよいでしょう。この他航空機などに見受けられる応力腐食があります。これは応力、腐食媒体、温度の因子が作用して粒界を走る亀裂となって現れます。また腐食媒体の中でくり返し応力が作用した場合、単純な疲労による耐久限界よりも小さい力で疲労亀裂が発生してしまう腐食疲労と呼ばれるものなどもあります。

防食法を用いて、アルミを守る

モンちゃん
これらの腐食を防ぐ方法ってあるのですか。
アンサー氏
どのような環境で使われるかを検討して、そこで発生しやすい腐食を想定し、材料を選定することが必要ですね。また発生しやすい腐食がはっきりすればそれに対応した防食法を施すこともできるのです。
モンちゃん
やさしい技術No.16No.17に表面処理のことが出ていますが、あれも防食法のひとつなんでしょう。
アンサー氏
腐食を防ぐ方法として一般的に使われているのが、表面処理です。塗装や陽極酸化処理などを行うことによって、アルミの耐食性は非常に向上します。(やさしい技術No.16No.17参照)またクラッド材といって、母材を守るために犠牲となるクラッド層を付けて本体の腐食を防く方法もあります。
モンちゃん
本体を守るために犠牲材を使うなんて、ワザアリという感じですね。
アンサー氏
孔食が進んで、腐食が母材に達しても、母材の電位がクラッド層よりも貴なために、母材は陰極となり腐食は母材方向には進行しないしくみとなっています。
モンちゃん
じゃあクラッド材がある間は、母材は腐食から守られるというわけですね。
アンサー氏
その通り。アルミの腐食を防ぐには、腐食のメカニズムをよく知って、腐食しないような材料と環境の組み合わせを取り入れることが大切だといえますね。