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No.21 絞り加工

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

円筒絞りの製品の耳
円筒絞りの製品の耳

好奇心旺盛のモンちゃん。衛星放送のパラポラアンテナを装置したことから"絞り加工"に関して知りたくなりました。
そこで早速、アンサー氏に質間を開始。研究熱心なアンサー氏はいろいろ調べて、モンちゃんの疑問に答えてくれたのです。

プレス絞りとは?

モンちゃん
衛星放送が見たいので、丸いアンテナと何とかという器具を取り付けてもらったんです。そしたら友達が「あのアンテナはアルミ製で、絞り加工で作られているんだ」と教えてくれました。では、絞り加工とはどういうものなんでしょう。
アンサー氏
まず最初に、絞り加工の種類からお話しましょう。絞り加工には板金プレスを使って行なう「プレス絞り」とスピニングマシンを使って行なう「へら絞り」があります。プレス絞りは、鉄鋼材料、銅、アルミなどの底付きの中空成形品の製造に古くから用いられてきました。いわゆる鍋、釜の類がそうですね。
一方へら絞りは、花瓶や壷、やかんなど口の部分がせばまったものに応用されます。モンちゃんが取付けたパラボラアンテナなどもへら絞りで作られることが多いのです。
モンちゃん
プレス絞りというのは、どんな加工のことなんですか。
アンサー氏
簡単にいうと、ダイとパンチを使って素材の板(ブランクという)をカップ状に成形する作業をプレス絞りといいます。図1を見てください。つまりホルダーに押えられたブランクがパンチによって押し下げられ、ダイを通ることによってカップ状に絞られる仕組みです。
モンちゃん
なるほど。図1で見ると単純な加工のようですが、難しい点、重要なところがたくさんあるのでしょうね。

[図1]深絞り作業
[図1]深絞り作業

アンサー氏
まずブランクと呼ばれる円板状の素材を打ち抜く作業があるわけですが、このブランクの寸法がポイントになります。小さすぎては製品に"欠け"ができてしまうし、逆に大きすぎるとコストアップはもちろん、成形時の加圧力が大きくなり、破断がおきることもあるからです。適正な寸法が必要です。それから"しわ押え力"をどの程度にとるかも大切な点。図2に示したように、ブランクがパンチによって絞り加工を受けると、ブランクは円周方向に圧縮、半径方向に引っ張り、またダイの肩の部分では曲げ応力を受けます。この時、円周方向の圧縮によってしわが発生するが、このしわの発生をいかに抑制するかがポイントです。つまり、しわ押え力が大きすぎると素材が変形できずに破断してしまうことがあり、弱すぎるとしわが発生してよい製品形状が得られないのです。

[図2]絞りカップの各部の名称など
[図2]絞りカップの各部の名称など

モンちゃん
その他のポイントは?
アンサー氏
ダイとパンチの間隔(クリアランス)が重要ですね。一般にはアルミの場合、ブランクの厚みの1.1倍くらいが適当とされていますが、材料の強度、潤滑材の種類によっても変えているようです。また材料を破断させないためには、ダイの肩の半径、パンチの先端角の半径も重要で、ブランクの厚みの4~6倍程度が採用されていると聞いています。さらに潤滑剤の選定も極めて大事です。一般には高粘度のものを用いる場合が多いが、各社とも企業秘密として公表されることは少ないようです。
モンちゃん
加工条件についてはよくわかりました。それでは、素材に関して、例えば絞り加工がし易い物かどうか、判定する方法などはあるのでしょうか。
アンサー氏
素材の試験としては、いわゆる引張り試験が一般的です。これは、素材から平板状等の試験片を切り出し、この試験片の両端をつかみ引張り力を加えて破断させ、この時の所要力、伸びを測定するもので、伸びの値が大きいものほど絞り易いといえるのです。しかし、最近ではこの引張り試験の伸びと絞り易さとはあまり相関性がないともいわれ、絞り易さの判定には、L.D.R試験を行なう必要があります。
L.D.R試験とは実際にブランクを円筒状カップに絞る試験。ブランクの寸法をいろいろ変えた絞りを繰り返して破断が生じた時のブランクの直径Dをパンチの直径dで割った値D/dを求めるものです。この値を限界絞り値といい、値が大きいものほど絞り易いわけです。アルミの場合、L.D.RはO材(なまし材)で1.6~1.8、その他加工材、熱処理材で1.1~1.3程度を目安にパンチとブランクの形状を設定するのが通常のやり方です。

各種成形性試験方法

[図2]絞りカップの各部の名称など
[図2]絞りカップの各部の名称など

へら絞りとは?

モンちゃん
プレス絞りについてはわかりました。今度は"へら絞り"はどういうものか教えてください。
アンサー氏
へら絞りは、ブランクを回転軸に取り付けて回転させます。へら状の工具をブランクの一端から徐々に押し付けることにより、ブランクを型(木型または金型)に密着させて所定の形状に仕上げるものです。写真1を見ると、大きな容器が成形させる過程がよくわかるでしょう。ところで、へら絞りというのは、この工具の形状が裁縫に使うへら、またはご飯を盛るへらに似ているところからつけられました。米国では、その加工の様子からスピニング(回転)加工と呼ばれています。
モンちゃん
へら絞りとプレス絞りはどのように使いわけられているのですか。
アンサー氏
プレス絞りは量産品の製作に向いていて形状としては円筒状(茶筒型)のものに適しています。それに対して口のすぼまった形状の場合はへら絞りを用いる必要があります。製品によっては、初めプレス絞りで茶筒状に絞り、次にへら絞りで口の部分を成形する場合もあるのです。なお、へら絞りは、プレス絞りの場合に必要なダイがいらないので、数個程度の少量品、あるいは試作品でいろいろに形状を変えてやってみたい時などに向いています。場合によっては数百万円もするダイ製作の費用が省けるので有利だからです。
モンちゃん
ところで、へら絞りの場合も重要なポイントはあるのでしょうか。
アンサー氏
へら絞りは、先ほどもお話に出たようにへらを一端から徐々に押し付けて成形するもので、ブランクの回転速度、へらの押し付け力、へらの移動速度がポイントで、素材の強度、最終形状等によって適当な値を選ぶ必要があります。また、素材のスプリングバック(はね返り)といった現象も考慮しなければいけません。スプリングバックとは、素材に弾性があるため、所定の形に押し付けても加工終了時にはね返りにより形状が変化する現象をいいます。このため、あらかじめ木型、もしくは金型の設定形状をこのスプリングバックを考慮した型にしておくようです。これらの条件については、一般に経験による場合が多く、現状では公表された数字はあまりありません。
モンちゃん
へら絞りは、手加工でやるものなんですか。
アンサー氏
へら絞りの加工業者には中小の企業が多く、少量多品種の加工ができる点を強調し、手加工で行なわれているものも多いのです。しかし、最近では、自動スピニングマシンもしくはNCマシンを導入しているところも増えています。
これらは、人間のへらを動かす動きを機械に記憶させておいて自動化して行なうもので、量産品に対して力を発揮します。
特に熟練職人が減少している現在、その導入が急速に進んでいます。

取材・撮影協力:(株)北嶋絞製作所

アルミが大活躍

モンちゃん
絞り加工で作られるアルミや銅製品にはどんなものがありますか。
アンサー氏
先ほど出たように、鍋、釜、弁当箱、花瓶、やかんといった日常使われる器物から、パラボラアンテナ、航空機部品などのハイテク分野などまでいろいろ。その範囲は極めて広いです。また、絞り加工に使われる材料は、鉄鋼、銅、アルミなどいろいろですが、最近は用途にもよりますが、アルミ、ステンレスの伸びが大きいと聞いています。
モンちゃん
プロパンガスのボンベにもアルミのものがあるそうですね。
アンサー氏
ボンベは絞り加工で成形されるものも多いが、近年鋼製に替えてアルミ製も作られています。これはアルミが鋼の重量の1/3と軽量のために歓迎されているんですね。つまり、鋼製の重いボンベを扱うのでは労働力が集めにくいといった世相も繁栄しているようです。軽いといえば、最近は自動車のホイールもアルミ製が増えていますが、板から作られる物はへら絞りで作られます。缶ビールもほとんどがアルミで、このアルミ缶の胴部分の成形はブランクからカップ状に絞る、いわゆるプレス絞りがその第一工程で用いられています。
モンちゃん
絞り加工を行なうのに、銅やアルミは鉄鋼材料と比べてどんなところが違いますか。
アンサー氏
昔は絞り加工材には比較的銅が多かったのですが、最近はアルミの伸びが目立っているようです。アルミの場合、鉄鋼と比較してやわらかく、加工し易いという利点がありますが、反面特にアルミでは表面の美しさが要求されるので、その扱いはとても慎重でなくてはなりません。
モンちゃん
素材メーカーである神戸製鋼が、絞り加工用の素材を出荷する時、何か特別な検査をするのですか。
アンサー氏
引張り試験、もしくはL.D.R試験から出た値を検討して、素材として異常がないかどうかチェックしています。絞り加工をする場合、板の方向性という因子も重要です。板は通常は圧延によって一定方向に伸ばされるため、圧延方向とその直角方向では性質に差が生じます。このため、絞り加工をすると製品に耳(側面の端が平らにならず、山・谷を生じる現象)ができてしまいます。この耳ができる限り小さなものが、絞り加工材として望ましいわけですね。そこで、素材の出荷時に耳率試験と呼ばれる、耳のでき具合を測定する試験が行なわれることが多いのです。
以上の試験に加えてアルミの場合には、表面の美麗さが要求されるので表面の目視検査あるいはアルマイト検査と呼ばれる、板に表面処理を施した後で表面の欠陥をチェックする検査を行なっています。
モンちゃん
いま神戸製鋼では、今後の絞り加工材のためにどんな技術開発に取り組んでいるのでしょうか。
アンサー氏
それは企業秘密でしょう(笑)。でもその一端をお話すると、1.耳率の低い材料の開発、2.成形性を損なわず、高強度をもつ材料の開発、3.表面の美麗な板の製造方法などですね。今後も神戸製鋼の技術に期待してください。