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No.22 絞り製品と材料

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

ちょっとムズカシイと思ってしまう技術のお話をやさしく説明するこのページ。
前回は私たちに身近な絞り加工とは?ということに関してお話しました。
では、絞り加工製品にはどんなものがあるのでしょうか、また神戸製鋼は素材メーカーとして絞り加工製品とどんなかかわりをもっているのでしょうか。
今回は、その辺をモンちゃんが、アンサー氏に聞きました。

ウイスキーもドリンク剤も

モンちゃん
前回は、私がパラボラアンテナを取り付けたことから"絞り加工"についてのお話が始まりましたね。私たちの生活に欠かせない絞り加工製品がたくさんあると思いますから、今度は具体的に絞り加工製品についてお願いします。
アンサー氏
わかりました。前号でもお話しましたように、絞り加工製品は身の回りに際限なくあると言っていいほどなんですが、いくつかのアルミ製品を取り上げて、その材料の選定、製造法などを、素材メーカーの立場からお話してみましょう。
まずそうですね、ウイスキーのキャップは、アルミの絞り加工でできているものが多いんですよ。
モンちゃん
キャップ材にアルミが用いられる理由はどんなことですか。
アンサー氏
1に衛生的であること。2に密封性が高い。3に開封が容易であること。4に加工性が良い、5に装飾性に優れるといったことなどですね。ウイスキー、ドリンク剤用には、材料は成形が容易な純アルミ系が多く用いられます。一方飲料用として、比較的強度の必要なものには、3000系、5000系合金が用いられます。
モンちゃん
なるほど、中身によって採用されるアルミ材の種類が違うのですね。
アンサー氏
これらに共通して要求されるのは、キャップという性質上密封性が良くなければならない反面、開封しやすくないといけないといったことから、強度のバラつきが小さな材料であること。もう1点は絞り加工時に耳の発生が大きいと歩留りが悪いので耳率の小さなものが要求されます。ノンイヤー材を要求される場合もあるんです。
この場合、耳率が小さく歩留りが良いことはもちろん、時には瑞面の切断そのものが省略できて大変メリットが大きくなります。
工場で製造するのに、耳率を小さくコントロールすることがなかなか困難で、各社独自にいろいろなノウハウをもっているようです。

家庭でもおなじみ

モンちゃん
それでは、鍋ややかんなどいわゆる器物といわれるものについてはどうですか。

鍋ややかん

アンサー氏
器物にアルミが使われだしたのはずいぶん古いことで、皆さんの身の回りにもなじみの深いものが多くあるでしょう。器物にアルミが多く採用される理由は、1に軽くて扱い易い、2に外観が美しい、3に熱伝導性が優れている、4に加工性が良いなどです。
器物用材料にも純アルミ系、3000系、5000系などが用いられますが、ここで要求される性質は、①耳の発生が小さい。
②絞り性が良い。③絞り加工時、肌荒れをおこさない。④絞り加工後、黒筋、フローマーク、S-Sマークといった欠陥が発生しない。⑤アルマイト処理の時、ストリーク、焼き付き、ピックアップなど、表面欠陥が生じないなどが挙げられます。
黒筋、フローマーク、S-Sマークなどは聞き慣れない名前だと思いますが、これらの詳細なお話は別の機会にすることとして、まあ加工時またはアルマイト時に発生する表面欠陥の一種と思ってください。
ところで、器物用材料でおもしろいものに、発色合金と呼ばれるものがあります。通常のアルミはアルマイトによって灰白色になりますが、発色合金は暗黒色や乳白色になるもので、いずれの製品からも高級感が得られます。Si(シリコン)、Fe、Cuなどを添加し、これら合金の望ましい析出物をつくることによって発色させます。製造工程での成分管理、熱管理が重要ですが、各社とも独自のネーミングをもった合金を所有しているようです。

アルミニウム合金展伸材の標準成分、使用形状一覧表

オフィスでも活躍中

モンちゃん
主に家庭内の器物のお話が出ましたが、会社で使う製品についても教えてください。

コピードラム

アンサー氏
皆さんよくコピーをとられると思いますが、コピー用部品として使われているコピードラムのお話をしましょう。
コピードラムは、文字通り円筒状のドラムが回転して被写体を写しとるもので、その性質上ドラムの真円度、真直度、表面欠陥が問題になります。欠陥があればコピーが歪む、あるいは写らないということもおこりかねないからです。
モンちゃん
コピー機の部品も絞り加工でつくられているんですか。
アンサー氏
押出し材から製造されるものも多いですが、板を絞り一しごき加工により製造するものもあります。この絞り加工の場合には、これまでの製品で要求されたと同じように、耳の小さいこと、表面欠陥のないことが重要です。特にコピードラム材の場合は純アルミが用いられますが、純アルミ材の耳率をコントロールすることは特に難しく、工場での失敗もたくさんあるということです。

耳に注意

モンちゃん
さっきから耳、耳と度々お話に出てますが、耳率ということについて詳しく教えてください。
アンサー氏
そうですね。前回も触れましたが、耳とは絞り加工時に円筒の側面に山・谷のできる現象を言います。これが小さければ切捨て量が少なくてすむし、極端な場合は切断工程そのものが省略できる。
ノンイヤー材とはこのことで、メリットが大きいものです。
耳は圧延材の結晶学的異方性に起因するもので、集合組織と密接な関係があります。したがって従来からさまざまな学問的研究が行なわれてきましたが、難しいお話は別の機会にすることとして工場での製造工程とのかかわりについて少し見てみましょう。
耳率は、板の製造工程によっていろいろ変化し、①鋳塊の履歴、②熱間圧延条件、③冷間圧延条件、④焼きなまし条件などでの条件把握が必要となります。学問的には、これまで①熱延温度が高いほど+耳になり易い、②冷間圧延率が高いほど+耳になり易い、③均熱温度が高いほど+耳になり易い、④Fe/Si比が大きいほど+耳ができ易くなると言われていますが、研究者によっては別の意見もあります。実際の製造時には各種の条件が複雑に交さつし、今もって十分な解明が困難な場合も多いのです。
モンちゃん
耳率はどのように計算するのですか。
アンサー氏
絞り試験の結果から、耳率(%)は

山の高さの平均 - 谷の高さの平均


山・谷の高さの平均

 
で求められます。この時、圧延方向と45゚方向に山ができる場合を+耳、0゚、90゚方向に山ができる場合を一耳と定義します。
さきほど+耳といったのは、この山が45゚方向にできる現象のものを言います。

フィン材について

モンちゃん
もっと他にもいろいろありますよね。例えばライターや化粧品ケース、それから自転車の反射板などもそうでしょう。
アンサー氏
そうです。それらは、いずれも光輝合金と呼ばれる特殊合金が用いられています。これはアルマイト処理によっても表面光沢があまり減少せずに簡単に美しい光沢が得られ、しかも化学薬品にも強く長期間変化しないので、装飾性や豪華さが要求される用途や高い反射率の要求される反射鏡などに欠かせないものです。光輝性はアルミの純度が高くなるほど良くなる傾向があるので、Si、Fe、Ti(チタン)ができるだけ少ないことが要求されます。一方Mgは光沢低下にあまり影響せず、材料の強度を高めるので、強度が必要なものにはMg入りの光輝合金も使われます。
モンちゃん
なるほど。優れた技術によって、各製品に応じた材料が使われるんですね。

アルミのフィン材

アンサー氏
エアコンの熱交換器用のアルミのフィン材のお話もしましょうか。フィン材は、成形性に優れている他、耐食性の良いことも要求されます。最近はしごきタイプで製造されるものが増えていますが、張出しタイプのものもあり、この場合絞り加工の工程が入ります。張出しタイプのものには、加工が容易なため純アルミの軟質材が使われており、材料そのものにはあまりおもしろいものはありませんが、親水性という観点から表面処理を行なうものがあり、この技術に各社とも力を入れています。
モンちゃん
自動車にも絞り加工製品が使われていますよね。
アンサー氏
アルミホィールは従来鋳造によるものが主流でしたが、最近は板からプレス、またはスピン加工により成形されるものが急激に伸びています。ホィールの場合は器物などと異なり、使用中の安全問題と関係して材料の傷などによる欠陥がないことが重要です。砂漠の真ん中でホィールが壊れ、動けなくなっている人が死に、素材メーカーの責任が問われるというととも考えられるからです。
アルミホィールは①軽いため走行性能が良い、また燃費が良くなる、②高い放熱性によるブレーキ制動力の向上などが挙げられ、アルミ材料では5000系が使われていますが、最近は強度の観点から6000系の使用も一部検討されています。6000系合金はこれまであまり登場してきませんでしたが、純アルミ系、3000系、5000系と異なり、熱処理が必要なタイプのものであり、このため高強度が得られるメリットはあるものの、熱処理による変形、また溶体化後の経時変化など難しい問題もあり、素材メーカーとしても研究を重ねているものです。この他自動車にはボンネットを始め、絞り加工製品が多く使われています。

アメのように伸びる?!

モンちゃん
まだ他にもありますか。
アンサー氏
超塑性合金というのもあります。航空機用部品の一部に実用化されていますが、超塑性というのは通常のアルミ合金はせいぜい20~30%程度の伸びをもつのに対し、ある条件下では500~1000%程度の伸びを示すという、まあアメを伸ばすようなという表現がピッタリくる合金です。
超塑性合金は変形能がきわめて高いので、従来の絞り加工では不可能な複雑な形状の加工ができること。またプラスチックを加工するように空圧による加圧のみで成形が可能なため、今後は特殊な用途に対しては実用化が進むと考えられます。超塑性合金にはいろいろなタイプのものがありますが、当社では微細結晶化した7475合金についてすでに製品化しています。これは、結晶を微細化する技術にノウハウがあるのですが……。まあ、将来が楽しみなものの一つです。

超塑性アルミニウム合金

モンちゃん
ウーン、今回もいろいろなお話を聞きましたね。なかでも絞り加工には耳率が大切なんだとわかりました。
アンサー氏
そうですね。耳率といえばこれまで小さい方が良いと言ってきましたが、一つだけ例外があります。角絞りといわれるもので、これはむしろ耳率の高い方が要求されます。角絞りは弁当箱絞りとも言われるもので、弁当箱のような四角いものに成形する場合をいいます。角絞りの場合、材料の流れ込みがやや複雑ですが、四角い板より絞る場合、四隅の部分はむしろ+耳が高く、ひけの少ないもののほうが歩留りが良く、通常と逆に耳率の高いものが優れているといえます。
しかし、この高いものをつくるというのも、また大変難しいのです。
モンちゃん
なるほど。ところで、神戸製鋼ではビール缶の材料を多く製造していると聞いたんですが……。
アンサー氏
ビールは、現在ガラスビンと缶の比率がだいたい65:35くらいで、缶のうちアルミ缶は97%くらいです。これが米国では、ビール全体の約60%が缶で、そのうちの99.9%がアルミ缶を使用しています。日本でも、今後ますますアルミ缶の成長が期待できるでしょう。