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No.23 接合法(その1)

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

好評をいただいている"やさしい技術"ですが、
今回は「接合法」を取り上げました。
他の金属と同様、アルミ合金にはさまざまな接合法かあり、目的・用途に応じて使い分けられます。その中から、私たちに身近な自動車のラジエーター、カーエアコンの溶接法を中心にお話を進めたいと思います。

アルミをつなぎ合わせる?

モンちゃん
溶接……。難しそうですね。でも、簡単に言えば、つなぎ合わせるということではないんですか。
アンサー氏
はっはっは、平たく言うとそういうことになるでしょうか。アルミ合金の接合法にはいろいろあるんですが、大きく分けると溶接法、機械的接合法、接着剤による接合法の3つです。目的や用途によって使い分ける必要があるわけです。溶接法の中にもまた3種類あり、融接、圧接、ろう接に分かれます。
モンちゃん
目的や用途によって使い分けるということですが、例えば……。
アンサー氏
一般に溶接といえば融接・圧接のことをさすんですが、アルミ合金の場合は不活性ガスを用いたティグ・ミグ溶接、抵抗スポット溶接がもっとも広く用いられています。ティグ溶接では、例えばアルミのボンベの口金などがそうです。ミグ溶接ではホイール、私たちに身近なものでLNG用圧力容器など。また、今の自動車産業界で溶接といえば抵抗スポット溶接のこと。自動車のアルミ化が進んできている現在、さらに研究開発が進められています。
モンちゃん
素朴な疑問がわいてきました。アルミ合金を接合する時には、どんなことに注意しなければならないのでしょうか。
アンサー氏
いくつかあるんですが、まず鉄や銅と比べてアルミは溶融温度が低いでしょう。アルミが660℃、鉄が1540℃、銅が1083℃ですからね。アルミは赤熱温度以下で溶けるので、温度の判定が難しいんです。熱伝導がよく比熱・溶融潜熱が大きいので多量の熱を急速に与えなければなりません。また、鉄に比べて電気抵抗が1/4と低く、抵抗溶接では大容量の電源が必要なんです。
三番目として、材料の表面に存在する酸化膜は溶接の場合は害となるので除去しなければならないということ。また、アルミは熱膨張・収縮が鉄の約2倍もあり、溶接によるひずみが発生しやすいので注意しなければなリません。などなどアルミ合金の性質をよく知った上で溶接していきます。

アルミにピッタリの接合法

モンちゃん
そうすると、アルミという材料に合った接合法があるわけですか。
アンサー氏
アルミ合金に合った接合という意味から考えると、ろう付けがそうです。一般的なイメージとして、ろう付けというと鉄や銅のはんだ付けを思い出す人が多いでしょうね。異種のものどうしを引っ付けるというか、わかりやすく言えば、のりで接着するみたいなやり方だと考えられがちだと思います。でも、それは誤解なんですよ。アルミのろう付けは、混じり合うのではないですが、アルミの融点の近くでろう付けし、そのろう付けした部分も皆同じ品質になるわけなんです。だから、接着などよりも優れた品質になります。
ろう付けを大きく分けると、表-1のように3つになります。

(表−1)
(表−1)

モンちゃん
アルミのろう付けはどういった用途に用いられることが多いんですか。
アンサー氏
自動車の熱交品ですね。フラックスろう付けの1つであるN.B法では自動車のラジエーターがあります。フラックスレスろう付けの中のV.B法は、カーエアコン、インタークーラー、そしてオイルクーラーなど自動車の熱交品全般に適用されます。
現在、カーエアコンの96%はアルミでできていますから、その需要は大変大きいのです。ろう付けの中のはんだ付けというのは、例えばアルミと銅とをかしめる代わりに接合しようという場合に適用されます。

(図−1)ブレージングシートで制作されたろう付例
(図−1)ブレージングシートで制作されたろう付例

モンちゃん
フラックスろう付けは、どういうものなんですか。
アンサー氏
フラックスは、ろう材の表面に存在する酸化膜を破って取り除く役目なのです。不活性ガス雰囲気でも、大気圧中で作られた酸化膜(酸化アルミ)はなかなか破れません。そこでN.B法の場合なら、フッ素系化合物(還元金属)のフラックスを塗って、ろう付け中、特に溶解時には皮膜を破ってろう材の広がりをスムーズにして接合の手助けをするのです。ですから、フラックスがろう付けを向上させる上で、特に重要な働きをします。(図-2)

(図−2)フラックスろう付け(N.B法)
(図−2)フラックスろう付け(N.B法)

モンちゃん
では、フラックスレスろう付けはどういうものなんですか。
アンサー氏
ろう材表面の酸化膜をろう材の自力で破ってしまい、ろう材の広がりをスムーズにするフラックスを塗らないろう付け方法のことをいいます(図-3)。
でも、この方法の場合、ろう付けする雰囲気から酸素を取り除いてやる必要があります。ですから、真空中または窒素ガス中で行ないます。なかでもろう材にマグネシウムを加えて、真空中でろう付けすると、溶解時にろう材の中からマグネシウムが真空中へ蒸発し、皮膜の破れ具合が促進され、ろう付け性が向上します。

(図−3)フラックスレスろう付け(V.B法)
(図−3)フラックスレスろう付け(V.B法)

フラックスろう付けとフラックスレスろう付け

モンちゃん
フラックスろう付けとフラックスレスろう付けとの違いは、どういうことですか。
アンサー氏
材料の作り方は同じですが、ろう付けの条件(方法)が違うんです。先の2つの質問でお話したように、ろう付けはアルミ板の表面にクラッド圧延されたろう材によって接合するのであって(図-1)、フラックスはろう材表面の酸化膜を破ることが役割です。したがって、ろう付けを通常大気圧中または不活性ガスで行なう場合、図-2のフラックスろう付け方法となり、真空中で行なう場合、図-3のフラックスレスろう付け方法となります。
モンちゃん
ラジエーターやカーエアコンの熱交換器には、なぜろう付けが用いられているのでしょうか。
アンサー氏
それらの熱交換器は、熱を伝えて放散する必要から、表面積をできるだけ大きくとることが求められるわけです。そのためには、その構成部材の厚みは強度を持たせる最少限の薄さにする必要が生じてきます(ハニカムの薄板ろう付け例・図-4、写真-1)。この複雑な多種多数の部材を一体化するには、溶接などの他の接合方法では部材そのものが破れ、接合できません。
例えば風船や気球のように、気密をもたせることができないわけです。ですから、アルミ材の表面のごく薄いクラッド圧延されたろう材を同一タイミングで、同時に溶解させ、一体気密接合させるにはろう付け方法が最適なのです。

代表的な多穴形材
代表的な多穴形材

(図−4)
(図−4)
(写真-1)
(写真-1)
 
モンちゃん
熱交換器(機能)の種類について教えてください。
アンサー氏
言葉の通り、熱を交換する機器ユニットを熱交換器といいます。例えばラジエーターの場合では、エンジンで熱せられた管内を流れるクーラント(管内80~100℃)の熱を管からフィンに伝え、フィンの間を通過する空気中に放散します(空気中20~30℃)(図-5)。
カーエアコンの場合では、コンデンサーと呼ばれる熱交換器部で、高温高圧状態である冷媒ガスの代替フロンを冷却して、凝縮液化し、空気中に熱を放散します。また一方、エバポレーターと呼ばれる熱交換器部では、冷媒ガスの蒸発により、空気中の熱を吸収します。
まとめると、要するに発生する熱を放散させたり、吸収させたりする機器はすべて熱交換器です。熱交換器は温度の高いものを冷却する場合がほとんどですが、管内を流れる液体(冷媒)に代替フロンを使用し、空気を冷却するカーエアコンも大きな分野です。

(図−5)空冷熱交換器の電熱(ラジエーター)
(図−5)空冷熱交換器の電熱(ラジエーター)

社会のいろいろな場で大活躍

モンちゃん
ハニカムパネルのろう付けについてもお願いします。
アンサー氏
ハニカムは板を曲げ加工組立一体化した構造をしています。この場合、ハニカムは超軽量高剛性のパネル構造体としての機能があります。現在、このハニカムは接着剤による接合が主流です。
しかし、この場合、溶接・高温環境では、接着剤の樹脂が溶けてしまいます。そこで、この組立一体化したものをろう付け接合することで一段と優れた品質・機能をもったハニカムパネルができるわけです(図-6)。この場合、ろう付けした面の平坦度は良く、また曲面を持ったパネルもできます。そして、端部に形材を一体ろう付けしておけば、溶接で大面積、構造体として組立てることも可能なのです。

(図−6)ハニカム製造工程
(図−6)ハニカム製造工程

モンちゃん
なるほど。では、最後にまとめとして、ろう付けの今後の需要分野とか技術開発などについて、教えてください。
アンサー氏
板厚の薄い複雑な構造のアルミ部品を、信頼性をもたせて(例えば気密性)一体化する技術は、ろう付け方法がもっとも優れた技術といえるかもしれません。
現状自動車分野のアルミ熱交換器はほとんどがろう付けを用いて組立てられているといっても過言ではありません。さらに熱交換器ばかりでなく、軽量化の二ーズが高まる中で鋳物と展伸材をろう付けした多様な製品が広がってきています。
また、ハニカムのような付加価値をつけたろう付け構造材が、車両用、自動車用、船用、建材用などへ広がっていくものと思われます。
モンちゃん
ウーン、ちょっと難しいお話でした。でも、目につきにくいところで素晴らしい技術が働いていて、僕たちの生活を豊かにしてくれているんだなあと思いました。