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No.1 銅の歴史と特長

(アイル2003年7月掲載)

銅は人類が最初に使った金属です。

そして、日本は一時期世界一の生産国になったことがあるほど、銅と深く関わりを持ってきました。身近な生活用品から宇宙開発に至るまで、幅広く活躍する銅は、もはや私たち人類にとって無くてはならない存在。

今回は特別に銅の歴史と特長について勉強してみましょう。

紀元前8000年の新石器人たちによって発見された銅

モンちゃん
この間まで寒かったのに、もう夏が来ちゃいましたね。
アンサー氏
本当にあっというまだったね。そして、今年も半分が過ぎて、いよいよ下半期に突入だよ。
モンちゃん
あ~ん、年初めには今年夏までに“少し痩せる”とか“英会話の勉強する”とか、いろいろ目標を掲げたのに、ひとつも達成していないわぁ。こうなったら、新たな気持ちで後半戦がんばろう…。
アンサー氏
ははは、いい心がけだね。それじゃ、今回のやさしい技術もひとつ新たな気持ちで銅の基本的なことについて勉強してみようか。
モンちゃん
銅の基本的なことですかぁ…そういえば、知っていそうで、あんまり知らなかったかも。おもしろそうですね!
アンサー氏
じゃあ、まず質問。銅とはいったい何でしょう?
モンちゃん
突然“何でしょう”って言われてもなぁ。金属としか言いようがないですよぉ。
アンサー氏
そう、その通り。簡単でしょ。地球上の全ての物質は元素からできていて、銅は金や銀、アルミ、鉄、錫、亜鉛、鉛といったものと同じく金属元素なんだ。つまり、これら元素がミックスされたものが鉱物。そして鉱物が集まって岩石が、岩石が集まって地殻ができているというわけなんだね。
モンちゃん
地球を形成してる大事な要素のひとつなんですね。
アンサー氏
地球上の一番古い岩石は約35億年前にできたと言われているから、銅の歴史はとても長いんだよ。
モンちゃん
わぁ、35億年前なんてスケール大きい。
アンサー氏
ただし、地球の表面より地殻中16kmまでの岩石中元素量を調べたら、銅は約0.01%とかなり微量だということがわかったんだけどね。
モンちゃん
そんなに少ないんじゃ、銅を採取するのも大変ですね。
アンサー氏
それは大丈夫。実は地殻中には地表近くで銅がたくさん集まっている「銅鉱床」と呼ばれる場所があるんだ。ここから掘り出される銅鉱物が、いわゆる銅鉱石なのさ。初めて銅を使った人類は紀元前8000年頃の新石器人たちなんだけど、彼らは非常に稀な形で地表に顔を出していた銅鉱石を偶然に見つけたようなんだ。
モンちゃん
まさしく“自然界からの贈り物”って感じ。それまで石しか知らなかったんだから、みんなビックリしたんでしょうね。
アンサー氏
なんたって石と違って加工性に優れているからね。ナイフにしても石製より長持ちするし、耐食性もある。
モンちゃん
銅は人類が初めて使った金属なんですね。
アンサー氏
紀元前6000年以降になると、人類は火で銅を溶かして形を造る、いわゆる「鋳造技術」を発見したんだよ。それから岩石に銅が含まれていることも知って、そこから火と炭を使って銅を取りだす方法も発見した。
モンちゃん
その方法はどうやって発見したのかしら。
アンサー氏
これは拾ってきた石を積んでかまどみたいなものを造り、中で繰り返し火を焚いているうち自然と石から銅が解け出してきたんだろうということだよ。人類はその赤い塊が銅だってことに気がついたんだね。
モンちゃん
偶然が重なっての大発見だったんですね。
アンサー氏
そうだね。それから人類は銅を使っていろんなモノを作るようになった。紀元前5000年頃のエジプトのお墓からは、銅製の武器や多彩な用具が出土されているよ。また、紀元前3800年頃にはスネフル王という人物によってシナイ半島(現エジプト北東部)で銅鉱石が採掘されたとの記録も残っている。それに当時の金属を溶かす壷“るつぼ”も見つかった。すでに鉱石から銅精練する技術を持っていたんだね。
モンちゃん
そういえば、確か古代エジプトでは銅製の給水管も使われていたのでは…。
アンサー氏
紀元前2750年頃のエジプトのアプシル神殿で使われていた給水管のことだね。これは銅を薄い板にたたき出してから管の形に丸めていたんだよ。
モンちゃん
ふ~ん、そんな時代から銅は人類にとって身近な金属だったんだ…それにしても技術の発展ってスゴイ!

江戸時代には、世界一の銅産出国に

モンちゃん
銅は、日本ではいつ頃から使われるようになったんですか。
アンサー氏
初めて使われたのは、紀元前300年頃の弥生時代だといわれている。それは日本製ではなくて、朝鮮半島経由で中国から輸入された青銅器だったんだ。こうした青銅器は鋳造方法で模造や改造がされていた。
モンちゃん
純国産品はなかったのかしら。
アンサー氏
その当時日本にはほとんど銅資源が無かったから、材料は輸入に頼るしかなかったんだよ。しかし「日本書紀」には、698年(文武2年)に因幡国(現鳥取県)から銅鉱を朝廷に献じたという記述が残されている。その後708年(慶雲5年)には、日本でも武蔵国秩父郡でやっと大規模な鉱脈が発見されたのさ。
古代の青銅器
古代の青銅器
様々な模様が施された銅鐸
様々な模様が施された銅鐸
 
 
モンちゃん
いよいよ日本でも国産材料で、さかんに銅製品が作られるようになったんですね!
アンサー氏
我が国初の銅鉱山は和銅山と呼ばれ、ここから自然銅を採掘する大事業が行われることになった。掘り出された鉱石は山の下にある渓流で洗って精選し、溶解・製錬してから宮廷に運ばれたそうだよ。それで、それを見た当時の天皇、元明天皇がたいそう喜んで「これは我が国から産出した天然に生成の熟銅であるから和銅(にぎあかね)と呼ぼう」と言って、さらに慶雲5年を和銅元年と改めたんだ。
モンちゃん
年号にまでなっちゃったんですか。よっぽど喜ばしいことだったんですねー。
アンサー氏
この時には銅の貨幣も誕生した。日本初の貨幣は「和銅開珎」というんだよ。それ以降、奈良朝、平安朝時代にかけては青銅の仏像や工芸品などがたくさん作られたんだ。有名なところでは東大寺の大仏像。モンちゃんも見たことあるんじゃないかな。
モンちゃん
あの奈良の大仏様ですね。学生時代修学旅行で行ったときに見ましたよ。あれほど大きな像だから、当時はかなりの大事業だったんでしょうね。
日本で最初の貨幣・和同開珎
日本で最初の貨幣・和同開珎
東大寺大仏
東大寺大仏
 
 
アンサー氏
あの大仏像は745年(天平17年)、近江から平城に都が移された時に本格的な工事が始まったんだけど、結局完成までに26年もかかったんだ。
モンちゃん
えー、そんなに!着工した年に生まれた子供は、完成時にはもう立派な大人ですよ…。
アンサー氏
工事に関わる寄進をした者はのべ42万人、作業者はのべ218万人。準備された銅はなんと500トンにもおよんだらしい。
モンちゃん
どんな方法で作られたんですか。
アンサー氏
「ろう型法」という鋳造方法さ。“こしき”と呼ばれる溶解炉と、“たたら”と呼ばれる炉に風を送る足踏み式のふいごを100基ほど使って鋳造されたんだ。500トンもの銅を一度に鋳込むのは無理なので、鋳込みは8回に分けて行われ、それぞれの部分を接合して完成させたんだよ。
モンちゃん
現代みたいに便利な機械も無い時代だから大変だったんですね。
アンサー氏
だけど、建立後地震で首が落ちたり、火事にあったりして、その度に修理され、現在の姿になったのが17世紀後。もともとは約16mあった背丈も少し減って14m98cmになってしまったし、創建時の面影は脚体下部から台座部分にしか残っていないんだ。
モンちゃん
長い歴史の間に、大仏様にもいろんなことがあったんですねぇ。
アンサー氏
それと同時に、日本の銅事情も変わっていったんだよ。15世紀から増え始めた日本の銅の産出は17世紀にはピークを迎えて日本は世界に誇る産銅国になったんだ。1697年(元禄10年)には銅生産高は世界一の約6,000トンにも昇り、銅は長崎貿易の主力にもなったんだよ。
モンちゃん
江戸時代には、少しは技術向上したのかしら。
アンサー氏
そうだね。先に述べた“こしき”と“たたら”を使った冶金方法は基本的に変わらなかったけれど、粗銅の中に含まれる微量の銀を抜き取る「南蛮吹き」という銅の精錬法などが行われるようになった。それ以降、動力に水車を使ったり、手で叩いて伸ばす手打ち伸銅法などが行われてきて、明治初期にやっと近代設備による機械化された伸銅工業がスタートしたんだ。明治3年大阪造幣局で蒸気機関を使ったロール圧延が初の機械化による伸銅工業だったんだね。
皮を溶解して銅を取る作業風景
江戸時代の銅製錬風景-1

皮を溶解して銅を取る作業風景
銀を含んだ粗銅に鉛を加え、合わせ銅を作る
江戸時代の銅製錬風景-2

銀を含んだ粗銅に鉛を加え、合わせ銅を作る。
南蛮床に合わせ銅を持ち込み融点差を利用して、銅だけを取り出す
江戸時代の銅製錬風景-3

南蛮床に合わせ銅を持ち込み融点差を利用して、銅だけを取り出す。
 

さまざまな特徴で幅広く活用

アンサー氏
それじゃあ、最後にざっと銅の特徴について復習しようか。モンちゃんはどんなことを知ってるかな。
モンちゃん
まず、銅は電気を良く通しますよね。
アンサー氏
その通り。つまり電気抵抗が小さいんだ。このメリットから電線をはじめ、発電機の巻線やIC関係のリードフレーム材、コネクターのばね材など電気を通す機器用素材として使われている。他にはどんな特徴があるかな。
モンちゃん
熱伝導率も高いですよね。
アンサー氏
そう、熱伝導率は金属中で銀の次に高い。それで冷蔵庫やエアコンの伝熱管に使われているんだよ。
モンちゃん
ナベやお菓子の焼型などの調理道具にも使われています。熱効率がいいから料理が美味しくできるっていう話を聞いたことがあるわ。それに殺菌性もあるから排水溝の受け皿や三角コーナーのザルなどのキッチン用品にも利用されてますよ。私も愛用しているけど、ヌメリがでなくてオススメです。
アンサー氏
銅は他の金属に真似できない黄金色合金ができるというも特徴のひとつだね。合金色に着色すると、美しい多彩な色ができるから、美術工芸品や装飾品、建築内外装などに広く利用されているんだ。
モンちゃん
ブロンズ像なんかもそうですよね。
アンサー氏
工業材料としては銅と添加元素とにより7系統に分類されていて、それを色分けすると銅色、黄金色、白色になる。その色からつけられた合金名が、丹銅、黄銅、青銅、白銅、洋白となっているんだよ。
モンちゃん
さまざまに色を変えた銅が私たちの身近なところで活躍しているんですね。えーと、あとはどんな特徴がありましたっけ。
アンサー氏
非磁性や防食性に優れている、低温に強い、めっきやハンダ付けが容易にできる、加工に優れているなどかな。こうした特性を活かして、さまざまな銅製品が作られているんだよ。
モンちゃん
うーん、今回のお話で銅の素晴らしさについて再確認しました。紀元前から使われてきた銅は、それこそ身近な生活用品から宇宙開発関係に至るまで幅広く使われるようになって、もはや人類にとって無くてはならない金属になったというわけですね。
アンサー氏
ふふふ、銅の素晴らしさが解ってもらえたかな。
モンちゃん
バッチリですよ!ますます銅に興味持ちました。次回からの銅のお話にも期待していまーす。