神戸製鋼HOME > 素形材事業 > やさしい技術 > やさしい技術/銅編 > No.5 銅合金板条の製造プロセス

No.5 銅合金板条の製造プロセス

(アイル2003年11月掲載)

銅及び銅合金を板・条・管等に加工した伸銅品。
これら銅板条・銅線・銅管は、その形状や形態が違うように、それぞれの製造プロセスも違います。
今回は、主に銅及び銅合金板条製品の製造プロセスを勉強していきます。

さまざまな用途で活躍する銅及び銅合金板条

モンちゃん
うーん、これまで銅についていろいろ勉強してきたけど、今日はいよいよ伸銅品の製造プロセスについてのお話ですね。
アンサー氏
伸銅品は銅合金板条の他に線や銅管などもあるね。銅板は神社や高級マンションの屋根に使用される屋根板が代表的。そして銅条は端子・コネクターあるいは半導体リードフレーム等に使用されていて、連続的にプレス加工やめっき加工が施されて製品が造られているんだよ。
モンちゃん
銅線は電線、銅管は以前勉強したエアコンや水道管に使われてますよね。
アンサー氏
おっ、よく覚えてたね。これら伸銅品の製造プロセスを簡単に説明すると、まず所定の製品成分を得るために原料地金を配合し、これらを溶かし合わせてインゴットを造る。それから、圧延・押出・引抜き等の塑性加工を施して目標計画通りの形状や寸法、質別に仕上げていくんだ。
モンちゃん
今回は主に板条製品の製造プロセスを説明してくれるんですね。
アンサー氏
まず、工程フローを見てごらん。このように銅及び銅合金板条の製造工程はさまざまな工程・設備を通して板や条に圧延加工される。厚さは0.1~約3mm、幅は数mm~数百mmぐらいのものが造られるんだよ。

工程フロー
工程フロー

シャフト炉
シャフト炉
圧延機
圧延機
 
モンちゃん
うわぁ、細かい作業なのね。
アンサー氏
そうだね。特に自動車や家電、PC等に使用される端子・コネクターやリードフレームに使用される銅及び銅合金板条(通称/電子材料)は、厳しい寸法精度や表面品質が要求されるから、それぞれの工程・設備の維持管理はとても大変なのさ。たとえば厚さ0.1mmの条製品の長さは5kmにもなったりして、工程の至るところで表面品質を確認する検査器を導入し、厳しい顧客要求に応えているというわけなんだ。

電子材料銅合金の用途例写真
電子材料銅合金の用途例写真

モンちゃん
確かな製品を造るためにいろんな努力をしているんですね。
アンサー氏
代表的な製造工程は、原料配合→溶解・鋳造→熱間圧延→粗圧延→冷間圧延→焼鈍→酸洗→仕上げ圧延→矯正→脱脂・酸洗→スリッター→検査→梱包→出荷となる。では、最初から順に説明していくよ。

配合した原料を溶解・鋳造して圧延

モンちゃん
まず最初は原料配合ですね。
アンサー氏
銅及び銅合金には実にたくさんの種類があって、JIS規格に載っている銅合金だけでも数十種類もある。
モンちゃん
以前に純銅、黄銅、白銅とかの合金があるって勉強したけど、これらの種類によって原料地金も違ってくるってことですか。
アンサー氏
そうなんだ。純銅には電気銅地金(純度が99.99%)のみが使われるし、黄銅はさらに亜鉛地金も使う。それに白銅にはニッケル地金や錫地金も使われる。つまり配合とは、それぞれの銅合金を造るスタートの溶解・鋳造のために、決められた成分元素の割合に応じて、それら元素地金の使用量を準備することなんだよ。
モンちゃん
じゃあ、さっき言ったように、例えば黄銅だったら銅地金と亜鉛地金を配合するのね。
アンサー氏
ちなみに最近では環境に配慮してリサイクル法が施行されたから、例えばエアコン等の銅合金製品はリサイクルが盛んになっているよ。

電気銅地金の成分規格と分析例
電気銅地金の成分規格と分析例

出展:日本伸銅協会発行「銅および銅合金の基礎と工業技術」

電気銅地金
電気銅地金
電気銅地金
 
モンちゃん
配合が終ったらいよいよ溶解・鋳造に入るんですね。
アンサー氏
一般的には各地金を溶かす溶解炉とインゴットを造る鋳造設備が1対になっているんだよ。溶解炉は銅及び銅合金の種類や製造規模によってそれぞれに適したものが使用されるんだ。
モンちゃん
溶解炉にはどんな種類があるんですか。
アンサー氏
純銅を溶解するシャフト炉、主に黄銅を溶解する溝型低周波誘導電気炉(通称/チャンネル炉)、るつぼ型誘導電気炉(通称/コアレス炉)等がある。長府製造所ではいずれの溶解炉も保有していて、特にシャフト炉は世界的に半導体材料として使用されているKFC®(Kobe Ferrous Copper)の生産に貢献しているんだ。また、これら溶解炉を真空容器の中に入れたような設備で酸化させず真空中で溶解・鋳造する技術も非常に進歩しているよ。
モンちゃん
ふむふむ、そして、ここに成分配合・調整した溶銅を入れると…。
アンサー氏
溶銅は樋を介して鋳型(鋳塊断面に近い形状の長方形の型)に流し込まれて、連続的に凝固させながら下部で水冷する…これが鋳造だね。
モンちゃん
鋳塊の大きさはどのくらいなのかしら。
アンサー氏
生産規模にもよるけれど、厚さが数百mm、長さが数m~10m程度で、重量は鋳塊1本で5~20tにもなるんだよ。一方、錫をたくさん含有するりん青銅等は熱間圧延のために高温で加熱すると非常に割れやすいという性質を持っている。そこで、冷間圧延と焼鈍(軟らかくする熱処理)を繰り返して製品を製造しなくてはならないんだ。このため、りん青銅は溶解・鋳造(横型水平連続鋳造装置)するときから20mm程度の厚さのインゴットをコイルフォームで製造していくのさ。
モンちゃん
ここでできたインゴットは熱間圧延されるんですね。
アンサー氏
インゴットは700~1000℃に加熱し、赤熱状態で圧延を繰り返しながら数百mmの厚さから10~20mmの厚さに圧延するんだけど、これにかかる時間はほんの数分程度なんだよ。
モンちゃん
この工程は工場で見たことあるけれど、真っ赤になったインゴットを圧延しているところはホントに迫力があったわ!それが最終的に0.1mmぐらいの薄い板条になるとは…うーん、ピンとこないなぁ。

熱間圧延
熱間圧延

高度な技術で厳しい要求に対応

モンちゃん
熱間圧延の後にも圧延作業が行われるんですね。
アンサー氏
熱間圧延後の表面は酸化スケールが発生しているから、機械的に面削を施して粗圧延を行う。ここで10~20mmの厚さを数mmまで圧延してコイルフォームにするんだね。そしてさらに冷間圧延と焼鈍を繰り返して薄い製品に仕上げていくんだよ。
モンちゃん
いろんな種類の圧延があるけど、ようするに圧延とはどのような加工方法なんですか。
アンサー氏
回転する2本のロールの間で、材料に力を連続的に加えて長手方向に長く薄くしていく加工だよ。圧延機には2段から3、4、6段とか12及び20段のような多段ロールがある。神戸製鋼所の重機部門である機械・エンジニアリングカンパニーでは、これら圧延機を設計・製作していて、長府製造所ではこの自社製の高精度多段圧延機が活躍しているんだ。特に電子材料用銅合金板条製品は0.1~0.5mmと薄く、その板厚精度保証は±5μmになる。
モンちゃん
ひゃー、厳しいんだー。あ、そういえば冷間圧延の間には焼鈍や酸洗という作業もあるみたいだけど…。
アンサー氏
焼鈍工程とは材料を軟化させるための熱処理で、酸素を極力排除した不活性ガス雰囲気または水素ガスを使用した還元雰囲気で熱処理されるんだ。
モンちゃん
そのためにどんな設備が使われるんでしょう。
アンサー氏
バッチ型の焼鈍炉と連続的に熱処理する連続焼鈍炉があるよ。特にバッチ型焼鈍炉は1回に数トン~数十トンの熱処理ができる。でも、加熱・冷却には1日近くかかっちゃうんだね。この熱処理方法は、主に銅母相の中に金属間化合物を析出させた析出型の銅合金に多く用いられる。
モンちゃん
その析出型というのは、どんな特徴があるんですか。
アンサー氏
析出型は、いわゆる導電率、耐熱性を向上させるために必須の強化機構なんだ。これらの熱処理で軟化した材料は、その後の冷間圧延にて所定の製品板厚に仕上げ圧延される。その時の板厚変化量を加工率と言い、この多少により最終製品の硬さや引張強さといった目標設計強度を決定しているんだよ。この加工率を数式にすると「(元の板厚ー製品板厚)/元の板厚×100%=加工率」となる。
モンちゃん
う…ん、数式に弱いワタシ。解るような、解らないような…。
アンサー氏
もうひとつバッチ型の焼鈍で強度を向上させる熱処理方法もあるんだけれど、これらの方法は製造メーカー独自のノウハウが多く、ここで詳細な説明はできないんだ。要は熱処理プロセスは電子材料用銅合金の最終特性の確保には欠かせないプロセスの一つだということさ。
モンちゃん
なるほど。そうそう、酸洗というのは…。
アンサー氏
銅及び銅合金は大気中で簡単に酸素と化合して酸化被膜を生成する。雰囲気制御した熱処理でさえも、表面に強固な酸化被膜を生成してしまうんだよ。そこで、この表面をクリーニングするために熱処理後に酸洗いもしくはブラシ研摩を施すんだね。
モンちゃん
これで圧延作業の仕上げが終ったわけですね。次は矯正ですか。
アンサー氏
そうだね。仕上げ圧延が完了したコイルは圧延油を除去する脱脂工程に進むけれど、リードフレーム用途に使用される製品は、またまた厳しい平坦度を要求されるために矯正するんだよ。
モンちゃん
どのくらい厳しいんですか。
アンサー氏
400mm口の板を定盤の上に乗せて、隙間が殆どゼロになるのを目指すんだ。この矯正を行うのがテンション・レベリングという装置だよ。概略図を見てごらん。このラインでは、多列に配置した小径ロールの間に材料を通し、繰り返し曲げと張力(テンション)付与して、材料の歪みを矯正していくんだよ。

テンションレベラーの概念図

モンちゃん
ここで歪みも矯正されて、いよいよ最終段階に近づいてきましたね。
アンサー氏
最終製品板厚まで加工されたマザーコイルは、ユーザーの要求仕様にあった製品幅のコイルまたは板に切断される。つまり、これがスリット加工だよ。コイルはスリッターと呼ばれるスリッティング装置で製品幅に切断され、巻き取っていく。そして、これらを梱包し出荷するんだ。

スリッターラインとスリットした製品条
スリッターラインとスリットした製品条

モンちゃん
やったぁ、これでめでたく工程終了!
アンサー氏
ちょっと待って。電子材料用銅及び銅合金の板条製品は、いろいろな分野でそれらの素材を使用した二次加工製品が利用されているという点が特徴と言えるんだ。
モンちゃん
やっと終ったと思ったら、ここからまた加工されるのかぁ。
アンサー氏
今回は2つの用途例を紹介しよう。そのひとつが異形条加工。異形条とは銅及び銅合金の中間素材を使用して異形断面を持つ条のことで、断面形状によりL型、T型及びW型などがある。これは主に半導体パワートランジスターのリードフレームに使用されているよ。薄い部分はリード部分に、厚い部分はチップが搭載されて、そこで発生する熱を放散させる働きを持っているんだ。

異形条断面図と種類と形状図
異形条断面図と種類と形状図

モンちゃん
へぇ、いろんな形になるんですね。それで、もうひとつの製品加工というのは…。
アンサー氏
めっき加工さ。銅及び銅合金条は導電性に優れるので電子部品に多く使用されるけれど、裸材のまま使うと空気中の酸素により酸化し、接触不良が発生してしまう。銅自体は非常に良く電気を通すけれど、銅の酸化物は電気抵抗が高く、電気を通しにくくなってしまうんだね。そこで、銅及び銅合金表面に約1μmの厚さの錫めっきを施す方法があるんだよ。めっき処理方法には、電気光沢錫めっきまたはリフロー錫めっきの2つがあるのさ。
モンちゃん
錫は銅みたいに酸化しないんですか。
アンサー氏
うん、同様に酸化はするけれど、錫と酸化錫の電気抵抗の差が少ないため、時間が経っても電気的信頼性が高く、多くの電子部品に使用されているんだよ。身近な用途には自動車のハーネス部品があるよ。
モンちゃん
今話題のエコカーとかにも使われていますか。
アンサー氏
そうだね、それらの配線部品に使用される銅及び銅合金は増加しているよ。
モンちゃん
自動車の性能向上や安全性、信頼性の向上にもしっかりと貢献しているってことですね!
アンサー氏
今回勉強した電子材料用銅及び銅合金条の日本の製造技術力は世界的にも評価されていて、今はアジア市場の特に中国市場での発展が期待されているんだよ。
モンちゃん
グローバルな展開かぁ…それはますます目が離せないわ。技術もどんどん向上していって、これからもいろんな分野で活躍していくんでしょうね。では、次回の「やさしい技術」も楽しみにしていまーす。