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トピックス
2004年

*トピックスの内容は発表時のものです。販売が既に終了している商品や、組織の変更等、最新の情報と異なる場合がありますのでご了承ください。
世界初の新型サブミクロン組織からなる自動車用『次世代超ハイテン(超高張力鋼板)』の開発について
〜150kg級でも超高強度と加工性(伸び性能)を両立、遅れ破壊の問題も克服〜
2004年7月16日
株式会社神戸製鋼所
信州大学


 (株)神戸製鋼所(以下:神戸製鋼)はこのほど、信州大学との共同開発によって、従来とは全く異なる新しいサブミクロン組織からなる自動車用の『次世代超ハイテン(超高張力鋼板):以下、新ハイテン』の開発に成功しました。新ハイテンは高強度と加工性を高い次元で両立するとともに、遅れ破壊の問題をも克服した画期的なものです。本鋼板をセンターピラーやドアインパクトビーム等の車体補強部品に適用させることで、側面衝突に耐えうる車体強度と軽量化を同時に実現させることが可能となります。

≪1.新ハイテンの性能上の特徴(従来の同強度ハイテンとの比較)≫

  伸び特性 伸びフランジ性 耐遅れ破壊性
150kg級(1470MPa) 1.5倍 同等 従来の100kg級と同等
100kg級(980MPa) 同等 2倍

伸び特性:全体をある一方向に均一の力で曲げるような加工を行う際の、鋼板の均一な加工性を表す指標。
伸びフランジ性:円形穴の押し広げや、角度の小さい曲げのような、鋼板の局部的な加工性を表す指標。
遅れ破壊性:外部環境から水素が鋼板に侵入し、これが一部に集まって内部に割れを発生させる現象。加工後、数ヶ月から数年を経て発生する可能性がある。強度の高い鋼板ほど遅れ破壊が生じやすい。

 

≪2.新ハイテン組織の特徴≫

結晶組織を、従来の粗大なブロック状から、均一に微細分散したサブミクロン組織へと改良。(従来材の結晶組織は3μm程度。本組織は1μm未満を達成)
新たに開発したこのサブミクロン組織は、ラス状(非常に薄いかまぼこ板が重なり合ったような状態)に存在するベイニティックフェライト相(急速冷却で生成する鉄炭化物を含まないベイナイト組織)と、その間に存在するサブミクロンサイズの微細な残留オーステナイト相(多量の炭素が固溶した鉄の結晶組織の一種)から構成される。
優れた伸び特性は、均一に微細分散したサブミクロン組織と残留オーステナイトとのTRIP(※)効果によって得られる。
この新しい結晶構造は、当社ハイテン製造設備の特徴である急速冷却技術を活用し、これを駆使する事で可能になった。
※  TRIP:変態誘起塑性(TRansformation Induced Plasticity)の略で,外部からの歪により残留オーステナイトがマルテンサイト(オーステナイトから原子の拡散を伴わずに生成した鉄の結晶組織の一種。焼き入れ鋼の組織の一つ)に変態し、伸び特性を改善する現象。

 

≪3. 自動車メーカー・部品メーカーでのメリット(効果)≫
・150K級

車体補強部品を超高強度化しながら、同時に衝撃吸収効果を損なうことなく約20%以上の軽量化が可能になる(現状一般的に使われている60kg級ハイテンとの比較)。
超ハイテン製造上の最大の課題とされていた「遅れ破壊」の問題を克服した。
プレス成形時の熱処理が不要になる。例えば、ホットスタンプ技術などでは、プレスする際には加工性を確保するため、柔らかい組織の状態(高温状態)で成形し、その後に熱処理を施し組織を硬くしている。新ハイテンは優れた加工性を有するため、硬い状態で成形できる。また、成形後の熱処理が不要となる。・・・加工前後の熱処理設備が不要となる

・100K級

加工性が高く、複雑な形状が可能になる。

 日米欧における自動車の車体軽量化は、環境問題意識の高まりにより加速度的に進みつつあります。しかしながら、燃費向上に繋がる車体の軽量化は、安全性(車体剛性)や部品の加工性などとの両立が難しく、特に980MPaを超える超ハイテンの分野では長年にわたって課題とされてきました。
 神戸製鋼は、得意とする特殊鋼(高張力鋼)生産技術によって、自動車用超ハイテンの分野で、国内トップ・サプライヤーの地位を確立して参りました。一方で、信州大学工学部の杉本公一教授は、伸び特性の高い残留オーステナイト相を含む高張力鋼板の研究に関する世界での第一人者であり、基本特性の向上に加えて実用特性の把握にも積極的に取り組んでいます。両者は自動車メーカーの高度な要求特性に対応すべく共同で研究開発を行い、全く新しい組織を生み出すことで、超ハイテンの高性能化を実現させました。
 2006年度には新規モデルにて採用、実用化を果たしたいと考えています。これは、2008年に施行される欧州での排ガス規制(CO2排出量を140g/km以下に抑制)に対応した新規モデルへの採用を見込んだもので、重要視されつつある側突安全性の向上と軽量化を同時に実現させる「切り札」として、環境問題にも貢献できるものと考えております。

以 上

 

【ご参考】
<信州大学工学部機械システム工学科>
工学部の前身は1943年の長野工業専門学校。1998年、時代の要請に応じられる高度で先進的な機械工学の教育と研究を充実、発展させるために機械システム工学科が誕生。
機械工学分野の教育と研究を行うことを目的とし,豊かな創造力や高度な研究開発能力の養成を目指したカリキュラムを用意して,基礎から応用までをしっかりと学べる教育プログラムを提供。また機械工学の様々な分野にわたって理論・実験・計算などの先進的研究を推進しており,その成果は国内外で高い評価を得ている。
所在:長野県長野市若里4-17-1

<杉本公一教授について>

1950年  愛知県生まれ
1975年  信州大学大学院工学研究科修士課程修了
同年  東京都立大学工学部機械工学科助手
1985年  東京都立大学にて工学博士号取得
1998年  信州大学工学部教授

 杉本教授は長年鉄鋼材料の組織と特性の関係に関する研究を続けており、特に残留オーステナイト相を含む低合金TRIP鋼板の研究に関する第一人者である。近年では組織の微細化による特性の改善、並びにその影響因子の明確化、さらには実用特性の向上に向けた研究に先鋭的に取り組んでいる。また、神戸製鋼とは20年近くにわたって技術交流を行ってきており、鋼板に関する共同開発技術案件も数件ある。


 
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