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製鉄所における「ばい煙問題」について

2006年6月22日

株式会社神戸製鋼所

このたびは、加古川製鉄所および神戸製鉄所における「ばい煙の排出基準逸脱、データの不適正な取り扱いおよびボイラ設備事故の未報告など」に関しまして、地域住民の皆様をはじめ、関係当局など多くの皆様の信頼を損なう事態を引き起こしました。深く反省すると共に、改めまして心よりお詫び申し上げます。

本日、本件についての社内調査の結果を報告書にまとめ、経済産業省原子力安全・保安院中部近畿産業保安監督部、兵庫県、加古川市および神戸市に提出いたしました。

原因の究明にあたりましては、個別面談やアンケートで約350名から情報収集を行うなど、業務プロセスを可能な限り過去にさかのぼって調査いたしました。また、25回の対策本部全体会議および個別会議で内容の確認、対策の立案、検討を行い、コンプライアンス委員会および取締役会にて審議の結果、以下の結論に至りました。

1. 原因には様々な要因があるものの、一部管理職の認識のもと、環境データを長年にわたって不適正に取り扱ってきました。そのような事態を経営幹部が把握出来ず、結果的に違法な状態を長く放置してきたことを、経営トップとして重く受け止めております。また、環境保全とコンプライアンス(法令等遵守)を優先する経営方針を掲げているにもかかわらず、環境保全よりも生産を優先して排出基準を逸脱し、コンプライアンスに反してしまいました。更にその行為を適切に監査し、是正することが出来ませんでした。いずれにいたしましても、今回このような事態を招いたことは、従業員個人の問題ではなく、会社としての管理体制に起因するものであったと認識しております。

2. 組織、管理面での対策は、以下の事項を実施していきます。
(1) 環境保全、コンプライアンスを企業経営において最優先するとの方針を浸透させ、それに基づいた操業、業務遂行がなされるよう、全従業員に拡大した教育を実施いたします。

(2) 本社の環境管理部門を増員します。全社環境統括責任者でもある環境管理部門を担当する役員に、事業所に対する運転停止権限を与え、環境保全を最優先とする体制とします。また、監査部と社外コンサルタント(監査法人等)を含む体制で環境監査を行います。
・本社環境管理部門の現在の人員8名 → 15名

(3) 社長を委員長とする「環境管理委員会」を設置します。社外有識者に参画頂き、環境管理状況を報告し意見を求める体制とします。

(4) 環境測定データの透明性を確保するよう、本社の環境管理部門が常に測定データを閲覧できる体制とすると共に、加古川・神戸の両製鉄所の環境管理データを行政および地域住民の方に公開します。

(5) 加古川・神戸の両製鉄所の環境管理部門に、製造部門への運転停止権限を与え、環境保全を最優先とする体制とします。また、要員を増やし、環境パトロールの実施を強化すると共に、環境管理データを24時間監視出来る体制を作ります。
・加古川製鉄所 現在の環境防災管理室を環境防災管理部とします。
    現在の人員8名 → 23名
・神戸製鉄所 現在の人員6名 → 8名

3.技術、設備面での対策は、以下の事項を実施していきます。

(1) 排出基準などを逸脱することがないよう操業方法を標準化し、設備の補修、改善を行います。

(2) 加古川・神戸の両製鉄所合わせ、更なる環境の維持向上に向け、既に、中期経営計画で実施を検討していた環境対策工事を前倒しで実施すると共に、新規投資を追加し総額約270億円を投じます。
・ばい煙対策 ボイラの自動燃焼制御化、
ボイラおよび焼鈍炉への低NOxバーナの導入、加古川製鉄所6号ボイラの炉外脱硫装置の設置、焼結脱硝設備の設置など
・粉じん対策 原料ヤードへの防塵フェンスの設置、集塵機の増設など
・環境計測機器の増設および更新
・環境管理システムの更新

(3) 加古川製鉄所の自家発電所における設備事故対策として、復水器、ボイラチューブの更新を行うとともに、既存のボイラを低公害型のボイラに、逐次、更新いたします。

(4) 排出基準の遵守を優先し、操業の低下や運転の停止を行うよう作業標準を改訂し、教育を徹底いたします。

【処分】
今回の「ばい煙問題」に関連しまして、6月20日の取締役会にて次のとおりの処分を決定いたしました。

代表取締役会長 水越浩士 7月報酬より三ヶ月間にわたり50%減額。
代表取締役社長 犬伏泰夫 7月報酬より三ヶ月間にわたり50%減額。
代表取締役副社長 木村敏夫(鉄鋼部門長) 7月報酬より三ヶ月間にわたり40%減額。
専務執行役員 田中毅 (加古川製鉄所長) 6月20日付にて、専務執行役員から、常務執行役員に降格。
専務執行役員 中園政明 6月20日付にて、専務執行役員から、常務執行役員に降格。
執行役員 小南孝教 (神戸製鉄所長) 7月報酬より三ヶ月間にわたり30%減額。

また、あわせて、関係する管理職4名を譴責処分とし、全員を異動させます。


以上、当社が社会の一員として担うべき責任の重さをかみしめ、今一度原点に立ち返り、全社をあげて再発防止に取り組んでまいります。


次に、経済産業省原子力安全・保安院中部近畿産業保安監督部、兵庫県、加古川市に報告いたしました加古川製鉄所でのばい煙の排出基準逸脱、データの不適正な取り扱いなどの原因と対策は以下のとおりです。

<加古川製鉄所>
1.大気汚染防止法における排出基準の逸脱などについて:
(1)事象の整理;
自家発電用ボイラの5年間分と鉄鋼関連設備の3年間分あわせて約130万時間分のデータについて、点検しました。この結果、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)の排出基準の逸脱、またはそのおそれ(チャートの中断等によりデータが無いため断定出来ないが、逸脱のおそれがあるもの)が判明しました。

硫黄酸化物、窒素酸化物に係る規程としては大気汚染防止法(設備毎の排出濃度)の他に、兵庫県、加古川市との「公害防止協定」に定められた協定値(時間当りの総排出量)があります。今回、排出基準の逸脱や不適正な取り扱いを行った時間について再計算を行いました。(記録がない場合については、投入燃料記録等と過去の操業実績を照合して、可能性のある最大値を使用して再計算を行いました。)その結果、排出実績は協定値を下回っていることを確認しました。

【表1:排出実績と協定値】 (単位:m3N/h)
  最大実績 協定値
硫黄酸化物(SOx) 525.1 ≦612
窒素酸化物(NOx) 566.9 ≦675

【表2:各設備の排出基準逸脱状況(逸脱が明らか、または運転条件等からの推定により逸脱と整理したもの)とその主な原因】
  施設 時間 項目 排出基準 Max値 原因
自家発用ボイラ 4号ボイラ 13 NOx 180ppm 黒煙発生防止のため、燃焼空気を過剰供給。5号ボイラはNOx低減用排ガス装置を未使用。
5号ボイラ 22 NOx 100ppm 115ppm
6号ボイラ 22 SOx K値 1.75 K値 2.37 木屑使用による燃料詰まり。脱硫用石灰の供給不足。
鉄鋼関連設備 2分塊均熱炉 96 NOx 170ppm 炉の密閉性の低下。
ペレット焼成炉1号 2 SOx K値 3.5 K値 4.62 硫黄分の多い鉱石使用への対応が不十分。
合金鉄焼結 5 NOx 260ppm 415ppm 酸素過剰状態による操業。
冷延連続焼鈍炉 2 NOx 150ppm 176ppm
合計   162        
*NOx濃度は、いずれも換算NOx値。
*Max値が、"−"のものは、最大値を明確に判断できないものを示す。

【表3:各設備の排出基準逸脱状況(データが無く、断定は出来ないが逸脱のおそれがあるもの)】
  施設 時間 項目 排出基準
ボイラ 1〜5号ボイラ 357 NOx 100〜190ppm
6号ボイラ 626 SOx K値 1.75
合計   983    
*NOx濃度は、いずれも換算NOx値。

また、データの不適正な取り扱いの内容は、以下のとおりです。

・チャート記録の中断 993時間
・環境管理システムによる排出基準逸脱時の欠測(測定値の欠落 101時間
・手動によるデータの書き換え 336時間
・環境管理システムによる自動的な書き換え 445時間
・チャート記録の手書き 237時間
・定期測定(バッチ分析)時の再分析サンプリング方法の不適正な運用 21時間

*表2、表3および上記数字の重複を除くと1950時間です。
この他、鉄鋼生産設備における記録チャートの欠落などの事実も判明しました。

(2)社内調査結果;
[ボイラ]
チャート記録の中断は、1977年の5号ボイラの運転開始から2〜3年の運転習熟までの間に、届出値を遵守することに苦労し、スタッフ(*注1)の諒解の下、「ごく短時間であればやむを得ない」との意識で始まったものと見られます。5号ボイラの運転習熟後、約10年間は、安定した操業が維持されました。
1990年の6号ボイラ稼働時の各種石炭の使用試験を行った際、当初の5号ボイラと同様の対応が約2年間行われました。

更に、6号ボイラにてリサイクル燃料を投入し始めた1999年以降、とりわけ2000年から2001年頃にかけて、オペレータは届出値の遵守に苦労を強いられました。2005年5月にリサイクル燃料の一種である木屑の使用を中止するまでの間、同様の対応が続けられました。

製鉄所の全ての設備にエネルギーを供給するボイラ設備の稼働状況は、他の鉄鋼生産設備の稼働に大きな影響を及ぼします。また、ボイラの停止は製鉄所内で発生する副生ガスバランスに狂いを生じさせ、コスト面にも影響を与えます。

これらの事情に加えて動力部門のオペレータは、電気事業法違反で「国の指導を受けないようにしなければならない」との強い意識が浸透しており、「チャート記録の中断」、「各種書き換え」という行為に至りました。ボイラのオペレータが、「コンプライアンス」の意味は理解しながらも、「稼働の継続」を優先したことが根本の原因と考えます。

このたびの調査では、スタッフの明確な指示の有無は判明しなかったものの、チャート記録の中断などは散発的ではありますが長期に亘って行われ、オペレータは「当然、スタッフも諒解している」ものと判断していました。また、このことは、一部のスタッフは、頻度など詳細までは知らなかったものの、薄々違法行為が行われていることには気付いていました。

*注1) スタッフ: 事務所で企画業務を担当する室長以下の従業員。
  オペレータ: 現場で実際に各種設備の操業に携わる従業員。

[環境管理システム]
1977年に、測定器の校正やシステム異常で発生する異常値を削除する機能を備えたシステムの運用を開始しました。その後まもなく、排出基準逸脱を未然に防止する目的で、製鉄所内管理用の排出基準値を登録し、警報機能を追加しました。

排出基準を逸脱する事態は実際のところ稀であり、発生した場合は加古川市へ連絡を取りながら原因調査および対策をとることとなっていました。また、このたびの調査の結果、コンピュータの機能、能力から考えて、当初は「基準値はずれを欠測とする機能は持ち得ない」ことが判明しています。

2001年に製鉄所内の環境データを取り纏める環境管理システムの更新が行われました。その際、当時の環境管理部門の担当者は、「異常値」を削除するだけではなく、排出基準の逸脱も削除していると、前任者から申し送られ、そうしたプログラムを新しく購入したコンピュータに導入してしまいました。
前任者が実際には行われていない排出基準の逸脱も削除されていると申し送った背景としては、「異常値」と「基準値」の数値表が代々申し送られている過程で、「異常値は削除、基準値は社内警報のみ」であるのに、「両方とも削除」と申し送られるようになったためです。

一方、これらはコンピュータの更新が完了した時点で当時の管理職の知るところとなりましたが、担当者から「新しい機能ではなく従前からある機能」という説明を受け、それ以上追求することなく見過ごしてしまいました。

環境テレメータシステムという地域・行政との信頼関係上最も重要なシステムの更新にあたって、その業務を一担当者に任せっきりにした安易さと、当時の管理職がチェックする機会がありながら見過ごし、その後、内容を認識したにもかかわらず、修正を行わなかったところに更に大きな問題がありました。

2.自家発電設備での設備事故の未報告と安全管理審査の未受審について:
2001年〜2004年に発生した自家発電設備での設備事故の内12件について、経済産業省原子力安全・保安院中部近畿産業保安監督部近畿支部への報告を行わず、安全管理審査において社内記録のほとんどを「電力調整休止」と虚偽の報告を行っていました。

このたびの社内調査で、電気事業法に関わる業務が当時の管理責任者(ボイラ・タービン主任技術者)に集中し当局への報告業務に対応出来なかったことや、事故報告の対象であると認識出来なかったことなどに加え、組織として法を理解し運営することが出来なかったことが最大の原因であったと認識しています。

また2005年〜2006年には、発電設備の定期点検後に義務付けられている定期安全管理審査の受審漏れを5件発生させました。当社は加古川製鉄所の自家発電設備において2005年5月に火災事故、重大災害を発生させました。ボイラ・タービン主任技術者は、この事故への対応に追われ、審査の申請時期を逸してしまいました。

対策として、組織変更・業務移管による業務集中の回避と複数組織によるチェック体制を整備いたします。

3.粉じん対策について:
粉じんについては、製鉄所稼働以来、改善に取り組み一定の効果をあげてまいりましたが、残念ながら、周辺地域における降下ばいじん量や製鉄所周辺地域にお住まいの方々からの粉じんに関する苦情の低減には結び付いていませんでした。また、兵庫県、加古川市による立入り検査においてもご指摘を頂きました。

こうしたことから、粉じん対策は喫緊の最重要課題と位置付け、あらゆる角度から検討を行い、降下ばいじん量を業界トップレベルに低減する抜本的な対策を進めていきます。

(1)貯炭/貯鉱ヤードに防じんフェンス(高さ:15〜20m、総延長:約4〜5km)を新設する。
(2)リサイクルゾーン(スラグ等の置場)を隔壁(高さ:3〜5m、長さ:約3km)で囲う。
(3)原料搬送用ベルトコンベアや焼却灰保管場所を密閉化する。
(4)集じん設備や散水装置の能力を増強する。

4.その他の環境問題について:
(1)水質関係;
兵庫県、加古川市による立入り検査において、測定器の精度、自動のデータと手分析のデータとの齟齬など測定データの取り扱いに不適切な事項があるとのご指摘を受けました。そうしたことから、自動計測器の更新、測定データの校正式の精度確認や見直し等に関する標準の制定、異常データの明確化などの対策を実施します。

なお、水質管理状況について社内調査を行った結果、水質汚濁防止法の基準違反はなかったことを確認しました。

(2)廃棄物関係;
兵庫県、加古川市による立入り検査において、産業廃棄物の外部委託処理の管理事務、製鉄所内の廃棄物焼却炉の操業・維持管理状況について、改善するようご指摘を受けました。そうしたことから、現在の産業廃棄物処理委託契約の内容見直し、産業廃棄物管理体制の強化、燃え殻の保管場所を改善するなどの対策を実施します。

次に、継続調査となっていました神戸製鉄所におけるデータの不適正な取り扱いに関する調査結果を記します。

<神戸製鉄所>
1.ボイラにおける基準値逸脱とテレメータ送信の中断
2号ボイラの休止後の立上げ作業中に、一度送信を開始しておきながら再度送信を中断させて、測定データを欠測させた事実がありました。このような作業はボイラ休止後の立上げ初期の燃焼が不安定な時に限られますが、テレメータシステムが始まった1978年頃から始められたと推測されます。オペレータは、「起動時や操業不安定時に対応している間は、送信を中断しても構わない」という誤った認識の下に行動していました。これはテレメータ送信の開始・停止に関する明確な運用が作業標準に定められていなかったことが直接の原因と考えられ、違反行為を排除するコンプライアンス体制の基本が欠如していたと言わざるを得ません。

2.圧延工場における不適正なロジックの導入
「酸素が異常に高い場合」は換算NOxが現実に有り得ない異常値になることから、欠測にすることは妥当と考えます。今回のロジックは、これに加えて「換算NOxが排出基準を外れた場合」も欠測になる様に各工場の計測機器内部が操作されていた為に生じた事象です。従って各工場から送られてくるデータしか見ていない環境管理部門の担当者は「計器」の校正中だろうぐらいに思って見逃していました。

この計測機器内部の電気的操作は1992年頃から一部の工場で始まり、その後数年かけて順次所内の全加熱炉、均熱炉に導入されてきた事実が判明しました。当操作は、環境管理部門の担当者が操業部門の担当者や現場の監督職レベルの話し合いで始まった様で、各職場に次々と伝わっていったものです。同時性がないことからも、所の幹部クラスの指示で始められたものではないと考えます。

また、この現場の計測器での操作の存在についてはアンケート調査の結果、一部の管理職も含めて、加熱炉や均熱炉に携わる職場の約6割相当の人間が知っていました。

3.対策
・ボイラ部門の作業標準の不備については直ちに修正し、テレメータシステムへの伝送開始タイミングを明記し周知徹底致しました。
・コンプライアンス意識の欠如については繰り返し教育を行います。
・また、環境管理部門を2名増員して、現場査察などを強化致します。
・神戸市への環境測定データ送信システムの管理体制を強化します。

<その他事業所について>
5月26日、経済産業省原子力安全・保安院中部近畿産業保安監督部から当社全火力発電設備の法令遵守状況について、調査し報告するように指示を頂きました。
既述の加古川製鉄所と神戸製鉄所以外に、神戸総合技術研究所(神戸市西区)と大安工場(三重県いなべ市)が対象となりますが、社内調査の結果、法令に違反するような事象は有りませんでした。

当社は、改めて今回の問題を深く反省し、二度と起こさないという決意をあらたにし、再度、環境経営の先進企業として当社への信頼を賜れるよう、全社一丸となって、努力を続けてまいります。

皆様方には、引き続きご指導を賜りますよう、よろしくお願い致します。