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プレスリリース

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鋼構造物(橋梁・造船等)溶接時の変形制御・低減技術の開発

〜溶接変形量を2割低減し、省エネ化に目途〜

2007年1月11日

JFEスチール株式会社

株式会社神戸製鋼所
石川島播磨重工業株式会社
大阪大学大学院工学研究科
大阪大学接合科学研究所
(財)金属系材料研究開発センター

JFEスチール(株)、(株)神戸製鋼所、石川島播磨重工業(株)、川崎重工業(株)、大阪大学大学院工学研究科、大阪大学接合科学研究所、(財)金属系材料研究開発センターは、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「省エネルギー型鋼構造接合技術の開発」(注1)を受託し、橋梁、造船、建設機械を主たる対象とした鋼構造物の溶接時の変形を抑制(注2)する技術を共同で開発いたしました。

鋼構造物の溶接施工時には、溶接金属の熱収縮により生ずる鋼構造物の変形を矯正(注3)するために、多くのエネルギーを消費するガス加熱を行います。そこで、(1)エネルギー使用量の低減、(2)溶接精度の向上、を目的に今回のプロジェクトに取り組み、従来よりも溶接変形が少ない溶接材料を新たに開発いたしました。さらに、その溶接材料を用いた溶接施工方法についてシミュレーションと実験を重ね,省エネルギー型の鋼構造溶接技術を新たに開発いたしました。(図1)

図1 溶接変形の抑制


今回開発した技術は、以下の通り、溶接金属の変態膨張を利用した、溶接変形抑制技術に特色があります。

(1)変態(注4)開始温度の最適化による新溶接材料の開発(図2)(図3)

鋼は変態する時、(1)変態開始温度が化学組成によって変化する、(2)変態開始温度が低くなるほど変態時の膨張量が大きくなる、という特性があります。これらの特性を基に、溶接金属の変形量が最小となる最適な化学組成と変態開始温度について実験を重ね、今回の新溶接材料(化学組成:12%Cr−3%Ni系)を開発いたしました。
この開発溶接材料を用いた場合、溶接終了後に、通常の溶接材料に比べて室温での変形量が2割程度低減し、矯正に要するエネルギーを低減することができます。たとえば、道路橋に使用される「I」型の桁に適用した場合,フランジ(注5)の変形量が2割程度低減します。また、一部の部材では、変形矯正のプロセス自体が不要となります。
また,溶接部の構造健全性は、従来の溶接材料と同等の溶接作業性と強度特性(引張強さ,疲労特性など)を兼ね備えています。

(2)変形抑制効果を向上させる溶接施工方法の開発

今回開発した溶接材料を用いた溶接の施工時に拘束(注6)を付加することで、変形矯正のプロセスが不要となる鋼板の対象範囲が拡大し、変形抑制の効果がさらに向上することが、シミュレーションおよび構造体モデルを用いた実験により確認できました。
この施工方法の利用により、橋梁、造船、建設機械等の鋼構造物施工時の、変形矯正に要する熱エネルギー低減と作業能率の向上が可能になります。


図2 溶接金属の変態温度と角変形量の関係

 図3 開発溶接材料による変形低減効果

 
(注1)「省エネルギー型鋼構造接合技術の開発」プロジェクト
  受託研究期間は、平成15年8月から平成17年度の3ヵ年。
研究金額は、3ヵ年で354百万円。
詳細は、NEDOのホームページをご参照下さい。
http://www.nedo.go.jp/activities/portal/p03006.html
 
(注2)溶接変形
  溶接後に、溶接金属が収縮することにより鋼板が変形すること。
溶接変形の種類には、面外変形、面内変形がある。面外変形には主に角変形(横曲がり変形)、縦曲がり変形があり、今回のプロジェクトでは主に角変形に着目した検討を行った。
 
(注3)矯正
  溶接時に発生した変形を基準以下にする作業。
プレスによる矯正とガス加熱による矯正があり,今回のプロジェクトでは、ガス加熱による矯正作業の削減を目的としている。

(注4)変態
  鋼(溶接金属を含む)の格子構造が、溶接後の冷却中に、面心立方格子(オーステナイト)から体心立方格子に近い構造(フェライト)に変化すること。格子構造が変化する時、鋼は膨張する。
橋梁・造船に使用される鋼板の多くは400〜700℃の範囲で変態する。
 
(注5)フランジ
  I桁の場合,I型の断面の部材における縦長の部分を腹板,腹板の上下につく板をフランジという。
 
(注6)拘束
  施工中の工作物の剛性を上げること。ここでは補剛材などを取付けることにより剛性を上げている。