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プレスリリース
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アルミ合金で世界最高強度達成
〜 「スプレイフォーミング法」による独自のアルミ合金製造技術で実現 〜
2007年3月29日
株式会社神戸製鋼所
スプレイフォーミング法は、従来の溶解・鋳造法では不可能だった高濃度の合金元素を、偏析(合金元素の濃度の偏り)がなく、微細で均一な材料組織の状態に溶け込ませることが出来ます。また、当社グループの現有設備で最大240kgの金属塊の製造が出来、大型部材への適用が可能です。実用化されているアルミ合金で最も強度が高いWeldalite合金(ウェルダライト合金:スペースシャトル外部燃料タンクに使用されている)に比べて約1割アップの引張強度(710MPa→780MPa)を実現しました。
さらに一般的に強度が増す程低下する加工性(延性)も、Weldalite合金との比較で3倍近くに向上(破断伸び:5%→14%)しました。
現在は試作品が得られた段階ですが、今後は量産製造技術を確立し08年度を目標に特殊車両や航空・宇宙機器などに使用される高付加価値部材での実用化を目指します。
スプレイフォーミング法とは高温の溶融状態(溶湯)から固体にする過程で急速に冷却する、急冷凝固プロセスの一種です。溶湯の入った容器の底に小さな穴を開け、その穴から出てくる溶湯に窒素ガスを吹付け微細な霧状の液滴とした上で、その液滴が冷えて固まるまでに、下に準備したテーブルの上に降り積もらせて固める技術です(写真2、図1ご参照)。溶湯を一旦霧状の液滴化して急冷することが、材料組織の微細化、および偏析の抑制による均一化に大きな効果があります。
今回この特徴を生かし、アルミニウム(Al)に亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)といった高強度化のための合金元素を高濃度に添加しながら、均一で微細な材料組織にすることに成功しました。従来の溶解・鋳造法では、合金元素の添加量を増やすと、凝固時の偏析や材料組織の粗大化が生じるため、合金元素の添加量に限界がありましたが、スプレイフォーミング法によりこの問題をクリアしました。これにより、アルミ合金で世界最高の強度を達成、さらに加工性(延性)の向上も実現しました。
当社はスプレイフォーミング法の基本技術をイギリスのオスプレイ社から技術導入し、その後独自にアルミ合金の製造技術として確立しました。現在、この技術を用いて当社グループの(株)コベルコ科研が、液晶パネルの配線膜用アルミ合金ターゲット材の生産を行っています。今回の試作に用いたスプレイフォーミング設備は、ターゲット材を量産している生産設備であることから、新合金の量産化は比較的短期間で確立が可能であると考えています。
現在は直径10mm長さ100mm程度の試験片(写真1ご参照)が得られた段階ですが、今後量産のための製造技術を確立していく予定です。棒・線材、型材、板材形状の素材が製造可能と考えています。
引張強度780MPaはアルミ合金として世界最高強度であるだけでなく、他の金属材料と比べても最高クラスの比強度注1)であり、さらに同クラスの比強度の高強度チタン合金やマルエージング鋼の1.4倍の加工性(延性:破断伸び)を有します(図2、3ご参照)。このように軽量、高強度でかつ良好な加工性を生かした用途の探索を開始しており、レーシングカーなどの特殊車両や、航空・宇宙機器などに使用する部材への適用を目指しています。