Online edition:ISSN 2188-9013
Print edition:ISSN 0373-8868
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当社の材料開発技術を支える材料の組織と特性の予測ならびに計測技術
当社グループでは、鉄鋼材料を始めとして、アルミニウム、銅、溶接材料、チタンなど多くの金属材料の製造・販売を行っています。また、お客様のご期待に応えるべく、従来の特性を凌ぐ材料の開発も続けています。新しい材料開発では、新たな分析技術や数値計算方法、さらにはデータサイエンスを活用した予測技術などが活用されています。本報では、当社の製品を支えるとともに次世代の商品開発に活用されている「材料組織・特性の予測と計測」に関する最新技術をご紹介いたします。
「材料組織・特性の予測と計測」特集の発刊にあたって
P.01
坂本浩一
【冒頭】
1 .素材産業を取り巻く環境変化
日本の素材産業は、自動車や電子部品向けを中心に構造材から機能材に至るまで高シェア製品を有し、その高い技術力を源泉に強い産業競争力を有してきた。しかしながら、新興国の技術レベルの急速な向上とそのコスト競争力により、製品がコモディティ化・安価化しており、競争力低下が顕在化しつつある。(続きは右下のダウンロード)
Fe粒界におけるPと遷移金属元素の共偏析に関する第一原理計算
P.03
森田晋也
均質化弾塑性FEMによるDual-phase鋼のマルチスケール強度解析
P.08
黒澤瑛介
Dual-phase鋼を代表とする高張力鋼材はさまざまな分野で使用されている。このような高張力鋼材に対して、微視的な内部組織形態と巨視的な機械的特性との相関の解明に向けた研究が数多くなされている。本検討では、フェライト/マルテンサイトからなるDual-phase鋼およびそれを構成する各相と同等の特性を有する単相材料を製作し、材料試験によって機械的特性データを取得した。この試験データをイメージベースモデリングにより作成したミクロ組織の解析モデルに反映させるとともに、均質化弾塑性理論に基づいて構築したFEMコードを用いてマルチスケール強度シミュレーションを実施した。解析結果と実験結果とを比較したところ、本開発手法の妥当性と有効性が確認できた。
7000系アルミニウム合金製押出部材の熱処理工程を考慮した残留応力予測技術
P.13
細井寛哲
アルミニウム合金中でも高い0.2%耐力を持つ7000系アルミニウム合金を用いた押出部材は、自動車の軽量化に有効であるが、応力腐食割れ(SCC)の感受性が高いため、部材内の引張残留応力の管理が重要である。本稿では、7000系アルミニウム合金のうち開発合金2種類と規格7003合金製押出材(3種類)のクリープ試験結果を用いて、T1調質時の塑性加工で生じる残留応力から、人工時効処理や塗装焼付工程を経た後の残留応力を予測する式を作成した。7000系合金製押出部材に対する人工時効処理や塗装焼付工程は、T1調質時の塑性加工で生じる引張残留応力を大幅に低下させ、SCCのリスク低下に寄与することを明らかにした。
鋳鉄鋳物部品の硬度予測技術
P.19
堤 一之・沖田圭介・高川優作・椿 翔太・西本圭佑
鋳物を強度部材として用いる場合、鋳造中の凝固および冷却過程で生じる不均一性に起因する部位ごとの強度の違いに配慮して設計または加工条件を設定する必要がある。本稿では、鋳鉄鋳物のブリネル硬さに着目し、合金成分や共析組織から鋳鉄のブリネル硬さを予測するための推定式をいくつか紹介した。また、汎用(はんよう)ソフトウエアAbaqusを用いてフェライトとパーライトの組織分率分布を予測する手法を開発し、圧縮機本体ケーシング用鋳物素材に適用した。得られた組織分率と鋳造中の冷却速度から局部的ブリネル硬さを予測した例を紹介した。鋳物素材内部の組織、硬さの不均一性を予測する手段が開発されつつあるが、汎用的に用いる上で解決すべき課題は多く残されていることを解説した。
理想化陽解法FEMによる片面突合せ溶接時の高温割れおよび変形解析
P.24
三輪剛士・山﨑 圭・西原健作・柴原正和
本稿では、理想化陽解法FEMを用いた片面突合せ溶接時の高温割れ解析事例および溶接変形解析を報告した。高温割れ解析では、BTR内で発生する塑性ひずみの増分値および温度勾配(こうばい)ベクトルを高温割れ発生指標として評価し、これらを溶接実験結果と比較することにより、本解析手法による高温割れ発生予測の妥当性と有効性を検討した。また、変形解析では、片面サブマージアーク溶接法(FCBTM法)および片面ハイブリッドタンデムマグ溶接法(HT-MAGTM法)に対して実構造物サイズレベルの検討を行った。本解析手法を適用することにより、これまで困難であった大規模解析であっても高速かつ高精度に変形予測できることを示した。
鋼板溶接熱影響部の相変態モデル構築とじん性予測
P.31
井元雅弘・岡崎喜臣・粟飯原周二・糟谷 正
鋼板溶接熱影響部(HAZ)のシャルピー吸収エネルギーを最弱リンク論に基づく脆性破壊モデルで予測する際に必要なミクロ組織特徴量を計算可能とするために、4元系モデル鋼を中心とした相変態データと従来報告されているモデル式を基に相変態モデルの構築を行った。HT570級鋼やHT780級鋼などを中心に化学成分の異なる鋼板に対して、様々な冷却速度におけるHAZの相変態挙動をモデル計算で再現できることを確認した。この相変態モデルの計算から、HAZのシャルピー吸収エネルギーを一貫して予測し、実験結果とよく一致することを確認した。また、予測したシャルピー吸収エネルギーの遷移曲線は、冷却速度の違いによって遷移温度が移行する実験結果と対応した。
計測インフォマティクスの紹介
P.37
世木 隆
材料開発に必要な多くの物理・化学分析技術と機械学習を併用する計測インフォマティクスは、従来にない解析速度や付加価値創出が期待されている。本稿では、放射光実験にベイズ最適化を組み合わせて測定時間を短縮化した事例のほか、深層学習により画像解析の省力化を実現した事例、データの品質を向上させた超解像についてそれぞれ例示した。さらに、誰でもAI技術を利用できるインフラストラクチャーの社内整備について紹介した。計測インフォマティクスは、ドメイン知識(ここでは分析分野の専門知識)、データサイエンス、および情報工学の学際技術であり、これら三つの技術分野を組み合わせた取り組みの重要性を示した。
人工ニューラルネットワークを用いたリチウムイオン電池電極の最適メソスケール構造探索
P.41
山中拓己・高岸洋一・山上達也
機械学習と数値解析手法を組み合わせて、リチウムイオン電池電極のメソスケール構造を最適化するスキームを提案した。(i)構造のみの最適化を目指す場合、(ii)構造や材料選択、セル設計などの最適化をめざす場合の二通りの最適化用途を想定し、それぞれに適した物理モデルを提案スキームに適用した。数百-数千種類のメソスケール構造を生成し、それぞれの物理モデルにて内部抵抗を評価し、データセットを構築した。これを人工ニューラルネットワーク(ANN)に学習(回帰)させた。(i)(ii)いずれの場合においても構造パラメータの中では空げき率の感度が最も高かった。また、空げき率を最適化した構造は典型的な構造に比べて、内部抵抗が小さいことが分かった。提案スキームを適用することにより、2通りの最適化問題に対して有用な結果が得られることを確認した。
機械学習・深層学習を用いたデータ駆動型バッテリー劣化予測技術
P.48
高岸洋一・山上達也
リチウムイオン電池の劣化や寿命予測に対する試みが注目されている。本稿では、劣化進展を電気化学反応式などにより予測する物理モデルに加えて、深層学習による特徴抽出や回帰を組み合わせたデータ駆動型予測モデルについて、特徴や利点・欠点などを調べた。その結果、物理モデルでは、劣化現象が比較的明確である場合には予測精度が高いものの、現象が複雑または不明である場合には適用が難しいことが分かった。いっぽう、データ駆動型モデルでは、現象が十分に明らかでなくてもモデル化が可能であり、劣化予測精度において高い優位性を持つと考えられる。構築されたモデルを考察することにより、隠れた現象解明にも有用であることが分かった。
軟X線発光分光を用いた残留オーステナイト中固溶炭素分析技術
P.53
日野 綾・山田敬子
輸送機器重量の軽量化はCO2排出量低減の有力手段であり、当社においても高強度と高加工性を兼ね備えた鋼材の開発を進めている。強度と加工性の両立を図るためには、鋼材中の固溶炭素量の制御が重要である。従来の炭素定量法であるX線回折法では鋼材中の平均炭素濃度分布は得られるが、混在する残留オーステナイト粒ごとの炭素濃度分布を決定することは困難である。このため、Scanning Electron Microscopyに搭載した軟X線発光分光分析によりミクロスコピックな炭素濃度分布の測定と濃度の定量分析を試みた。固溶炭素を分析する際に試料表面に有機物が付着して汚染されることが課題であったが、Gas Cluster Ion Beam照射により汚染を除去しながら分析する手法を確立し、鋼材中の組織に着目した炭素分布測定を行うことができた。また、本手法により鋼中に含まれる炭素の結合状態を分析できる可能性が示唆された。
鋼材中の粒界偏析微量元素定量に向けたSTEM-EDS分析におけるζ因子測定技術
P.58
山田敬子・村田祐也・林 和志・原 徹
鉄鋼材料の機械的特性を制御するうえで、脆性破壊を引き起こす粒界偏析元素量の定量は重要である。粒界偏析元素の測定には、nmサイズの空間分解能が必要であるため、エネルギー分散型X線検出器を搭載した走査透過型電子顕微鏡が用いられることが多い。しかし、従来の定量手法では、X線の吸収を考慮に入れていないため、粒界偏析量を正確に定量することは困難である。この課題を解決すべく、近年、X線の吸収補正を加味したζ因子法が開発されている。本稿では、半導体微細加工技術と種々の分析手法を組み合わせた2種類のζ因子測定用標準試料の作製方法について検討し、得られたζ因子の妥当性を検証した。その結果、直接成膜法で作製したうねりを低減させた薄膜試料を用いることにより、ζ因子が実測可能であることを見いだした。
高強度鋼のスケールおよびめっき層の高温反応挙動のその場測定
P.64
大友亮介・山田遥平・北原 周
自動車用鋼板には高強度化のために種々の元素が添加される。Si添加は鋼板の製造工程に影響を及ぼし、熱間圧延時のデスケーリング不良や溶融亜鉛めっき鋼板のめっき合金化不足をはじめとする表面品質不良を発生させる。こうした不良を回避する指針を構築すべく、高温におけるスケール皮膜の組成変化と内部応力、また亜鉛めっき層と素地鋼板の合金化反応に及ぼす鋼中Siの影響を、放射光を用いた高温その場X線回折により調査した。その結果、Si添加によりFeOスケールの温度低下に伴うFe3O4変態と内部応力の蓄積が生じる温度域が上昇すること、さらに亜鉛めっきの合金化反応においてとくにζ相の成長とδ1k相の発生が遅延することが明らかとなった。
高炭素鋼線材の用途高度化に向けた微細TiN介在物評価技術
P.70
杉谷 崇・竹田敦彦・酒道武浩・太田裕己・島本正樹・武田佳紀
細径に加工される高炭素鋼線材では、その伸線加工工程における介在物を起点とした断線の抑制が課題である。従来は主にアルミナ介在物を起点として断線していたが、製品径の細径化に伴い、アルミナよりも微細な窒化チタン(以下、TiNという)を起点とした断線が新たに顕在化した。TiNの抑制策の検討とその効果検証には、鋼材中の微量溶存Ti濃度の分析技術や、TiN介在物の個数評価技術が必要となる。本稿では、当社グループが保有する二次イオン質量分析装置を用いた溶存Ti濃度定量方法、化学抽出法を応用して新たに開発した微量TiN粒子個数の評価技術について述べた上で、TiN粒子個数と断線頻度との相関性から極細線の品質の予測が可能となった結果についても言及する。
P.76
神戸製鋼技報掲載 材料組織・特性の予測と計測関連文献一覧表
(Vol.61,No.1 ~Vol.70,No.2)
P.80
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