Online edition:ISSN 2188-9013
Print edition:ISSN 0373-8868
全掲載記事ダウンロード
正誤表付加(2022年9月6日)
記事毎のPDFファイルは、下記「+」内からダウンロード可能です。
素形材事業部門における新製品、新技術
(新たに発足した素形材事業部門における新しい取り組み)
鋳鍛鋼・アルミ鋳鍛・チタン・サスペンション・アルミ押出・銅板・鉄粉の7ユニットから成る「素形材事業部門」の製品の多くはそのまま各種機械に組み込まれる部品となります。このため、原材料から部品までのトータルの製造技術と、お客様のニーズにお応えすることができる部品設計技術と評価技術が要求されます。本特集号では素形材事業部門における新たな素材・製品・製造技術・評価技術の最新動向をご紹介いたします。
素形材特集の発刊にあたって
P.01
松原弘明
【冒頭】
2020年4月に当社素材系事業(旧鉄鋼事業部門とアルミ・銅事業部門)は、素材:鉄鋼アルミ事業部門と部品:素形材事業部門に組織改編した。新しい組織において、販売・生産両面においてシナジーをより効果的に発揮すること目指している。
素形材事業部門は、お客さまへのさらなる貢献を目的として「需要分野別戦略」の強化と、共通する要素技術と品質管理に横串を通すことによって「ものづくり力」の強化を図る。(続きは右下のダウンロード)
2000系新耐熱アルミニウム押出合金
P.03
貝田一浩・吉原伸二
自動車の燃費向上を目的に、ターボチャージャ用インペラはさらなる高速回転化が検討されている。このため、過給圧の上昇や排ガスの再循環による使用環境温度の高温化への対応を求められることが予測される。そこで当社は、従来のインペラ材料(A2618)より高温強度に優れた新たなアルミニウム合金の開発を進めている。
新合金の開発においては、各種合金成分の試作材を対象とした疲労試験およびクリープ試験に基づいて合金成分量の最適化や結晶粒径の制御を行った。その結果、高温(180℃)における疲労強度とクリープ破断時間が従来材料より優れた新合金(仮称:CR20)を開発することができた。
自動車用サスペンション向けアルミニウム合金鍛造材の二段時効による高強度化
P.07
堀 雅是・蛭川謙一・中野雅司・田中雅和・岡藤洋平
自動車の燃費を改善するには車体を軽量化することが重要であり、サスペンションに対してもAl-Mg-Si系アルミニウム合金鍛造材を適用した軽量化が進められている。サスペンションのさらなる軽量化には材料の高強度化が必要なことから、当社は二段時効による材料の高強度化を検討した。その結果、160℃の予備時効と190℃の高温時効を組み合わせた二段時効により、160℃×56h 一段時効の場合と同じピーク耐力390MPaを8hという短時間で得ることができた。これは、予備時効で約3~4nmの復元しない臨界サイズ以上となるβ″相を高密度に析出させ、高温時効で成長させることで高強度化することによる。本技術の適用によって従来技術と比べて3%の軽量化が可能となり、自動車の燃費向上や二酸化炭素排出量の削減に貢献することが期待される。
ダウンロード
正誤表付加(2022年9月6日)
低鉄損圧粉磁心用新鉄粉「マグメルTM ML25D」
P.12
北条啓文・谷口祐司・上條友綱・三谷宏幸
絶縁コーティングされた鉄粉を圧縮成形して製造される圧粉磁心は、形状自由度が高く部品の小型化が期待されるが、エネルギーロスすなわち鉄損特性が問題であった。鉄損特性を改善するため、介在物に着目した調査を行った。調査の結果、鉄粉中に存在する介在物の大きさは純鉄の磁壁の厚さとほぼ同じで、磁壁のピンニング効果が大きいことが示唆された。それら介在物量が鉄損、とくにヒステリシス損へ及ぼす効果を定量化した。これらの調査結果に基づいて当社は、新たな低鉄損圧粉磁心用鉄粉「マグメルTM ML25D」を開発した。本粉末は従来比約10%の鉄損改善を達成し、圧粉磁心の適用拡大が期待される。
焼結転造歯車の高強度化メカニズムおよび適用メリット
P.17
谷口祐司・西田 智
自動車への焼結部品の適用拡大を目的として、高い疲労強度が要求されるトランスミッション歯車への適用が検討されている。最近の研究では、プレアロイ鋼粉を用いた焼結転造歯車が、従来の溶製鋼歯車と比較して同等以上の疲労強度を得られることが報告されている。しかし、焼結転造歯車で溶製鋼歯車を超える疲労強度が得られるメカニズムは十分には解明されていなかった。
そこで当社では、焼結転造歯車で高い疲労強度が得られる要因を溶製鋼との比較によって調査し、圧縮残留応力が高いことに起因することを明らかにした。さらに当社は、焼結転造ギアの適用メリットについても検討を行った。歯形精度向上の観点から転造条件を調整することにより、歯面研削(歯研)を行わなくても歯研品と同等の面圧疲労強度が得られ、歯研工程省略の可能性が示された。
高密度化潤滑剤「KP-300A」を添加した混合鉄粉の特性
P.22
佐藤充洋・谷口祐司・伊藤義浩・切石まどか
焼結部品の適用範囲を拡大する方策の一つとして、トランスミッションギアのような高強度部品への適用が検討されており、焼結部品のさらなる高密度化が課題となっている。すなわち、従来の焼結部品の密度は高くても7.2~7.3g/cm3であり、トランスミッションギアへの焼結部品の適用にあたって、溶製鋼と同等の疲労強度を得るために7.5g/cm3の密度が必要とされる。
焼結部品の高密度化には鉄粉中の潤滑剤量の低減が有効である。このため、従来よりも潤滑性が向上した層状構造を有する潤滑剤「KP-300A」を開発した。このKP-300Aは、混合粉中の添加量を低減させることが可能である。また、高い熱分解性を有していることから焼結時の拡散が進行することで収縮が大きく、980MPaの成形圧で約7.50g/cm3の焼結密度を得ることができる。
TiAl基金属間化合物の溶解鋳造技術
P.27
松若大介・西村友宏・工藤史晃・森川雄三・石田 斉
チタンアルミ金属間化合物基合金(TiAl)は、軽量で高温強度や耐酸化特性に優れる。このため、燃費削減ニーズなどを背景に、民間航空機用ジェットエンジンの低圧タービンブレードへの採用が進んでいる。
当社は、国際競争力を有したTiAl素材の製造技術の開発に取り組み、高濃度のアルミを添加することによって酸素溶解度が低下する現象を利用した溶解脱酸法を考案し、0.03mass%以下の酸素濃度を実現した。また、CCIM法を用いた溶解鋳造プロセス構築による成分狭幅制御(Al成分±0.3mass%)や鋳造歩留りの改善(従来比+25%以上)も実現した。チタンスクラップのリサイクル技術の詳述とともに、今後の展望について述べた。
チタン合金鍛造材における局所集合組織領域の形態評価技術
P.32
伊藤良規・高枩弘行・佐伯翔吾・辻 伸泰
航空機向け大型チタン合金部品の鍛造技術
P.37
本田恭英・百田悠介・小野公輔
大型鍛造シミュレータを活用したチタン合金の組織予測技術
P.42
逸見義男・長田 卓・神﨑文兵・横地恒平
チタン合金は比強度や耐食性の良さから航空機部材に広く用いられている。航空機部材として必要な機械的特性とミクロ組織との間には強い関係性がある。このため、鍛造中および鍛造後の熱処理中のミクロ組織の変化を知ることは製造上極めて重要である。最近導入された1500トン鍛造シミュレータを用いて、エンジン部材に適用されているニアβチタン合金Ti-17の鍛造中の組織変化を観察した。さらに、モデル化された結果を模擬部品での実機試作結果へ適用して組織予測を試みた。本稿では、これらの結果について紹介する。
組立型クランク軸用材料の高強度化の取り組み
P.47
白藤 司・高岡宏行・矢倉亮太
近年、船舶用低速ディーゼルエンジンの高効率化に関する要求が高まっている。これに対応するため、高い降伏点および高い疲労強度を有するうえに、大型鍛鋼品に生じることが多い焼割れリスクを回避した安価な組立型クランク軸用低合金鋼を開発した。開発鋼を含む複数の鋼種でクランクスローを製造し、主要部位から採取した鋼片の材料特性を確認した。その結果、開発鋼は従来鋼と比較して優れた機械的特性と疲労強度を有していることが確認された。本開発鋼が次世代エンジンに適用され、今後ますます厳しくなると予想されている環境規制への対応に貢献することが期待される。
ダウンロード
正誤表付加(2022年9月6日)
船舶用中間軸への高強度鋼適用によるねじり振動問題への対応
P.52
太田雅人・有川剛史・塙 洋二
複雑化する推進軸系のねじり振動問題に対する解決策として当社は、中間軸に適用可能な高強度の低合金鋼を開発した。この開発鋼は従来の中間軸用鋼と同等の切り欠き感受性を有するほか、高強度化に伴ってねじり疲労強度も向上することが確認されている。このような特長を有する開発鋼を活用することによって中間軸径の許容範囲を拡大することができ、ねじり共振回転数の制御が可能となる。これにより連続運転禁止回転速度範囲の通過特性を改善することも可能であり、機関設計を大幅に変更することなくねじり振動の問題に対処できるようになることが期待される。
高清浄度仕様一体型クランク軸の最大介在物寸法評価技術
P.56
池上智紀
クランク軸の疲労強度に対する高強度化の要望がある。これを受けて当社では、高清浄度仕様のクランク軸を製造している。従来の光学顕微鏡による清浄度評価方法では、クランク軸の疲労強度に大きな影響を与える最大介在物の寸法情報を十分に得ることができていない。そこで当社は、極値統計解析を用いて最大介在物の寸法を評価する技術を開発した。開発した技術では、クランク軸余材の超音波探傷によって得られた介在物の寸法分布データを用いることにより、クランク軸に内在する最大介在物の寸法を評価することができることが分かった。また、その妥当性も確認できた。
冷間ロール加工を施した一体型クランク軸フィレット部用自動X線応力測定システム
P.61
松田真理子・足立 瞳・兜森達彦・高枩弘行・佐々木敏彦
近年、地球環境問題に注目が集まるなか、陸上発電用の中速ディーゼルエンジン向けクランク軸においてもさらなる高疲労強度化が求められており、その一手段として表面処理技術が注目されている。しかし、いずれの表面処理技術においても、表面処理部と未処理部の境界に疲労強度低下の要因となる引張残留応力が生じるため、表面処理部周辺の残留応力分布を把握する必要がある。本稿では、大型鍛鋼材特有のマクロ偏析と、フィレット部の測定時に生じるX線入射角および入射角設定誤差がcos α 法によるX線応力測定精度に与える影響を評価し、それらの改善策を示した。また、冷間ロール加工を施したフィレット部の残留応力を自動測定可能なシステムの有効性を示した。
大型鍛鋼品を対象とした焼入れに関する検討
P.68
有川剛史・今村亮祐・松宮知朗・沖田圭介・松田真理子
ポリマー焼入れは、油焼入れと比較して冷却速度が速いのが一般的である。このため、焼入れの致命的な問題である焼割れが発生しやすいと考えられており、複雑形状の大型鍛鋼品にポリマー焼入れを適用している例は少ない。したがって、大型鍛鋼品へのポリマー焼入れの導入は技術的に新しい取り組みであるといえる。
ポリマー焼入れによる焼割れを防止するには、焼入材の形状や大きさに加えて、焼入れに伴う発生応力の関係を把握することが重要である。そこで当社は、焼割れ発生事例がある段付き丸棒を対象に、フランジ厚と焼入応力の関係について調査した。焼入応力解析と実機実験により、フランジ半径方向の焼入応力が焼割れに大きく影響を及ぼしていることを確認した。また、ラボ実験を行うことにより焼割れ発生応力の目安となる応力値も明らかにした。
P.75
神戸製鋼技報掲載 素形材関連文献一覧表
(Vol.60,No.2~Vol.69,No.1)
P.80
弊誌掲載記事の転載をご希望される際、下記の『転載許可願い』をご使用ください。
(フォームフィールドに入力可能なPDF文書です)