Online edition:ISSN 2188-9013
Print edition:ISSN 0373-8868
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溶接・接合の技術,システムおよびプロセスにおける当社の技術開発
アークやレーザなどの熱源を用いた溶接・接合技術は造船、建築鉄骨、建設機械、橋梁、自動車、エネルギ分野などの構造物の製造に必要不可欠な技術です。当社はアーク溶接を中心とした炭素鋼、低合金鋼、高合金鋼用の溶接材料・溶接システムおよびプロセスを開発しています。本特集号では、「ソリューション」をキーワードに最新の溶接・接合技術をご紹介いたします。
溶接・接合技術特集の発刊にあたって
P.01
末永和之
【冒頭】
当社は、1940年に国内初の溶接棒(イルミナイト系)を生産し、溶接事業を開始した。1960年代以降、国内外において溶接材料の生産拠点を設立するとともに、1979年にはアーク溶接ロボットを開発し、ロボット市場へも参入した。現在に至るまで、当社の溶接事業は主にアーク溶接の分野で世界をリードしてきた。溶接材料、溶接ロボットシステム、溶接電源、溶接プロセス・施工法のトータルメニューを持つ企業は、世界でも類を見ないものとなっている。現在、当社はお客様や社会にとってかけがえのない存在であり続ける企業グループを目指している。「溶接・接合技術」は、あらゆる社会インフラを支える重要な基盤技術であり、将来もこの重要性は変わらない。また、溶接事業部門においては、「品質を経営の柱」とし、「世界で最も信頼される溶接ソリューション企業」になることを目指している。(続きは右下のダウンロード)
短絡移行を前提としないワイヤ送給制御プロセスAXELARC™の開発
P.02
北村佳昭・山崎 圭・中司昇吾・小川 亮・井上芳英・橋本裕志
従来の短絡型ワイヤ送給制御プロセスでは低スパッタ・低入熱溶接を実現できるものの、高電流かつ中・厚板/多層多パス溶接への適用が困難であった。そこで、ワイヤ送給方向を前進・後退させることにより、慣性を溶滴移行に利用した世界初の短絡フリーワイヤ送給制御プロセスAXELARC™を開発し、中・厚板分野への適用性を検討した。その結果、AXELARC™を用いることにより、低電流から高電流の広い条件範囲において低スパッタかつ低ヒューム溶接が可能になり、深い溶込みを維持しつつ、高溶着・高速度溶接が可能となることを確認した。開発プロセスは、中・厚板分野の溶接品質・能率向上に大きく貢献できると考えられる。
高能率溶接プロセス搭載ハイエンド溶接機SENSARC™RA500
P.09
中司昇吾・小川 亮・佐藤英市・徐 培尓・関口翔太
中厚板向け溶接ロボットシステムと前工程自動化新技術
P.15
長島 稔・川口雄太・五十嵐大智
これまで中厚板溶接市場において、国内外を問わず数多くのアーク溶接ロボットシステムを納入してきた。溶接システムには、生産性や効率の向上とともに、コスト低減が求められる。本稿では、これらを実現する新型アーク溶接ロボットや溶接技術の特徴を紹介するとともに、仮組や予熱作業の自動化を実現したシステム事例を紹介する。
溶接ロボットシステム導入を推進するDX技術
P.21
福永敦史・日高一輝・東良敬矢・澤川史明・松嶋幸平・小向航平
情報通信技術やAI技術が発展する中で、これらの技術を用いた生産現場の自動化・省人化の加速が期待されている。当社では、溶接作業の自動化やロボット適用率拡大を狙って多くの機能開発を進めてきたが、溶接ロボットシステムを導入することでティーチング作業やメンテナンスなど新たな人手作業が発生している。これら人の負荷を削減することで、今まで以上に溶接ロボットシステムの導入効果が高まり、ひいてはお客様の生産性向上につながる。当社では、ARCMAN™ Offline Teaching SystemにICT/AI技術を加えることで、人手によるティーチング作業を削減する溶接プログラム自動生成機能を開発した。また、ARCMAN™ PRODUCTION SUPPORTにカメラを搭載し、遠隔地での見える化機能を拡充した。これにより、高所作業を削減できるなど、安全性向上も期待できる。
鉄骨溶接ロボットシステムの新商品紹介
P.27
戸川貴雄・徐 培尓・栗山良平・川西晋平・岸川浩久・藤本泰成
新型マニピュレータARCMAN™A60 と新型溶接電源SENSARC™RA500を搭載した建築鉄骨向け溶接ロボットシステムを開発した。新システムは、従来システムから生産性向上を目的としてサイクルタイムの短縮を実現している。本稿では、システムを構成する各機器の特長とサイクルタイム短縮を実現した技術を中心に、新溶接電源によって能力向上したREGARC™プロセスと表面処理によって送給性が改善された溶接ワイヤについて解説する。また、それらを利用することで従来の溶接施工条件より溶接電流と溶接速度を向上させた高能率溶接施工条件、およびシステム装置面の開発技術についても述べる。
厚肉角形鋼管のロボット溶接部の品質確認
P.33
伊藤冬樹・高田篤人
超高層建築物などの柱材には、溶接組立箱形断面柱が一般的に採用されているが、溶接ロボットシステムの普及および厚肉・高強度の冷間プレス成形角形鋼管(プレスコラム)の開発により、板厚50mm以下のプレスコラムの採用例が増加している。また、今後は板厚50mmを超えるプレスコラムの採用増加も見込まれる。
本稿では、今後の採用検討時の一助となることを期待し、板厚50mmを超えるプレスコラムのロボット溶接の基礎データについて報告する。積層計画、運転時間の試算などを紹介し、試験体を製作して確認した入熱・パス間温度履歴や溶接部の品質について述べる。溶接部では、安定かつ良好な機械的性質が得られていることが確認されている。
建築用予熱フリー型KCLA440鋼の性能
P.38
安岡佑樹
洋上風力発電設備向け溶接施工法および溶接材料
P.44
山口幸祐・加納 覚
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、国内ではCO2排出量の低い再生可能エネルギーを用いた発電方法への関心が高まっている。なかでも洋上風力発電は、昨今注目が高まっている発電方法の一つである。洋上風力発電設備では、風車を支える基礎部位としてモノパイルなどが用いられる。近年、風車が大型化され、基礎部位であるモノパイルも杭径や杭長が巨大化している。巨大モノパイルには、極厚板が採用されており、極厚板の溶接に好適な溶接施工法や溶接材料が求められ望まれている。当社では、これらの要望に応えるために、極厚板の溶接に好適な新エレクトロスラグ溶接施工法である「SESLA™」と狭開先サブマージアーク溶接材料である「FAMILIARC™ US-29HK / TRUSTARC™ PF-H55LT-N」を開発した。
9%Ni鋼製LNGタンク用自動溶接システム
P.49
山﨑健太・馬庭啓史・北川良彦・三輪剛士・石崎圭人
需要の増加が見込まれている液化天然ガス(LNG)の貯蔵・輸送に使用されるタンク(陸上用・舶用)は、一般的に9%Ni鋼で製造されている。その溶接施工は融合不良などの欠陥が生じやすく、高い技量が要求される。本稿では、9%Ni鋼の溶接に対する脱技能化、高能率化を目的に開発した可搬型専用ロボットシステムについて紹介する。本システムは、直角座標型ロボットをベースに、取り付け治具、センシング方法、溶接電源、最適溶接条件を9%Ni鋼製LNGタンクの製造に合わせて見直し、これらを組み合わせて一つのシステムとしたものである。このロボットシステムを用いることで、9%Ni鋼の立向溶接施工において健全な品質の溶接継手を得ることができ、またオペレータによるロボット二台持ちにより大幅な効率化が期待できることが明らかとなった。
液化水素タンク向け308L系ステンレス鋼溶着金属のじん性に及ぼす諸因子の影響
P.55
馬庭啓史・鈴木正道・阿部真弓
本稿では、SUS304L製液化水素タンクへの適用を目的に、308L系ステンレス鋼溶着金属におけるオーステナイト相の安定度およびフェライト形態が-196℃における吸収エネルギーと横膨出量に及ぼす影響を、シャルピー衝撃試験により調査した。その結果、吸収エネルギーはフェライト形態の影響を大きく受けるが、横膨出量はオーステナイト相が不安定になるほど上昇する傾向が見られ、加工誘起マルテンサイト変態の影響が支配的であることが推察された。得られた結果から、低温において良好な吸収エネルギーと横膨出量が得られるCrとNiの範囲を提案した。
PWHT後じん性が良好な780 MPa級鋼用溶接材料
P.60
加納 覚・永見正行・井元雅弘・伊藤孝矩
球形タンクや圧力容器等の構造物は近年大型化が進み、鋼材および溶接材料の高強度化が求められている。溶接残留応力緩和を目的に行われるPWHTは、高強度溶接金属のじん性を低下させる要因であった。そこで、780 MPa級鋼溶接金属を対象に衝撃試験後の破面形態やミクロ組織を調査し、PWHT後のじん性低下要因について検証した。PWHT後のじん性低下は、焼戻しぜい化や炭化物起因の析出強化に起因することを見極め、それらの弊害を最小化できる溶接金属成分系を導出した。得られた知見をもとに、PWHT後のじん性が良好な780 MPa級鋼用溶接材料として、被覆アーク溶接棒TRUSTARC™ LB-80LSRを商品化した。
液化アンモニア混載LPG船用YP325 MPa級低温用鋼
P.65
東南智之・田代喜一郎・川野晴弥・下山哲史
脱炭素化社会の構築に向けた新たな燃料として、アンモニアへの期待が高まっている。このアンモニアを輸送するカーゴタンクの鋼板には、応力腐食割れの懸念からYPの上限が規定されている。将来の輸送量増加によるカーゴタンクの大型化に伴い、高強度化と施工効率向上が求められている中、YP325 MPa級の大入熱溶接が可能な液化アンモニア混載LPG船用低温用鋼を開発した。本開発鋼は、低C化によるMA生成の抑制、Ca添加を活用したTiN粒子の微細分散およびBNを活用した粒内核生成促進の組み合わせによるHAZ靭性(じんせい)向上技術、TMCPの厳格管理により、YPを440 MPa以下にしたうえで、優れた母材特性と溶接継手特性を有している。本開発鋼はカーゴタンクの製作効率向上と輸送安全性確保に貢献できる。
9Cr-3W-3Co-Nd-B鋼用溶接材料のクリープ特性に及ぼすWの影響
P.70
小山田宏美・高内英亮・難波茂信
ASME Gr.93鋼は、従来の9Crフェライト系耐熱鋼にW、B等を添加してクリープ強度を高めた耐熱鋼である。Gr.93鋼用溶接金属を対象に、W添加量がクリープ破断時間および金属組織に及ぼす影響を調査した。W添加量を変化させた溶接金属のクリープ破断試験では、Wを増やすとクリープ破断時間が増大した。650℃で熱時効を施した試験片の観察から、Laves相の存在が確認され、Laves相による粒子分散強化によりクリープ破断時間が増大したと考えられる。W添加量が増加するとLaves相の数密度が増加し、さらに熱時効中のLaves相の粗大化が抑制された。熱時効中のLaves相の粗大化速度は、オストワルド成長の理論式から求めた計算値とよく合致した。Laves相はM23C6同様にラスの粗大化を抑制することによりクリープ強化に寄与している可能性がある。
RF™の裏フラックス3層散布手法
P.75
畑本航太郎・杉山大輔
片面サブマージアーク溶接の施工法の一つであるRF™は、目違い・サーピンなど板厚差のある継手であっても良好に裏ビードを形成できる。いっぽう、入熱が大きくなる厚板の溶接では、裏ビード形状が悪化するという欠点がある。本稿では、この欠点を解消するために開発した裏フラックスの3層散布技術を紹介する。従来から使用されている2種の裏フラックスに新しく裏フラックスを追加し、3層散布にすることにより、大入熱となる厚板においても良好な裏ビードの形成を可能にした。本技術により、RF™の適用板厚拡大が可能となり、造船の生産性向上への寄与が期待できる。
溶接部の電着塗装性を向上させるスラグ制御技術
P.79
木梨 光・孫 悦・井海和也
自動車足回り部品のアーク溶接継手の耐久性および信頼性を向上することを目的として、溶接ワイヤに含まれる脱酸元素を調整することで溶接継手の電着塗装性を向上させることができる溶接材料を開発した。従来ワイヤと開発ワイヤを用いて重ね溶接継手を作製し、溶接スラグ表面および断面からの観察を行うことにより、スラグ中の酸化物の状態と電着塗装性の関係について調査した。開発ワイヤの溶接スラグ中の主要な酸化物の状態は、従来ワイヤを含む一般的な溶接ワイヤで生成するSi-Mnからなる酸化物ではなく、複数のMn(系)酸化物で構成されることを確認した。また、母材鋼板の希釈率の違いによって溶接スラグ中のMn酸化物の存在状態も変化しており、これらが電着塗装性にも影響を与えていることが示唆された。
パイプライン分野向け溶接材料
P.85
山本貴大・古川尚英
パイプラインは石油や天然ガス等を長距離にわたって安全かつ経済的に輸送する手段として世界的に普及しており、今後もその敷設距離は増加すると予想されている。パイプラインの敷設工事では、現地で鋼管同士をつなぐ鋼管円周溶接が施工され、主に被覆アーク溶接棒、ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤ、ティグ溶加棒、ワイヤが用いられる。近年のパイプライン敷設工事に用いられる溶接材料には低温じん性や高い強度が求められる。また、敷設工事の高能率化のために鋼管円周溶接の自動化が進んでおり、自動溶接に適する溶接材料も求められている。本稿では、これらのニーズに対応した溶接材料について実機による継手性能を交えながら紹介する。
溶接材料開発におけるMI技術の適用
P.91
谷口元一・髙和真名・横田大和・藤平雅信・大谷拓也・四方田真美
溶接材料開発における新しい課題解決手法として、マテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics:MI)が注目されている。本稿では、MIを軸とした材料設計へのデータ活用にフォーカスし、データベース基盤と分析基盤から構成される"溶材開発DataLab"と呼ぶデータ活用基盤の有効性を検証した。
本取り組みを通じて、無機ジンクプライマ塗布鋼板用フラックス入りワイヤや2.25Cr-1Mo-V鋼用サブマージアーク溶接材料など、実際の開発案件においてMIの有効性を実証した。
また、MIを支える良質かつ豊富な学習データの共有と利活用を重視したデータベース基盤を構築し、ユーザビリティの高いデータ蓄積・分析環境を整備した。
遠心圧縮機用インペラのシュラウド接合技術
P.97
西村幸弘・仲山善裕・石井宏明
遠心圧縮機用クローズドインペラには、作動流体に応じてステンレス鋼や低合金鋼などの多様な材料が用いられており、流量や圧力仕様に応じてサイズや翼形状も様々である。シュラウドの接合には、材料およびサイズや翼形状に応じた最適な方法を選択する必要がある。最も一般的な接合方法であるすみ肉溶接の適用が困難なケースについて、液相拡散接合とスロット溶接を取り上げ、その特徴、適用事例、検査方法を解説した。液相拡散接合については主に接合原理、強度確認試験、超音波探傷検査、スロット溶接については主に熱変形を抑制する溶接方法の選定、溶接後の形状精度、非破壊検査方法を解説した。
溶接残留応力の測定技術
P.103
永井卓也
残留応力は、一般的に疲労や腐食など実機損傷の要因として作用することが多く、その大きさや位置を正しく評価する必要があり、いくつかの方法が提案されている。本稿では、残留応力測定法の中でも工業的に広く利用されているひずみゲージ切断法とX線回折法に加え、内部残留応力を測定可能な改良型深穴せん孔法(MIRS法)とその特徴を概説する。また、近年注目を集めているアーク溶接技術を利用した積層技術WAAM(Wire and Arcbased Additive Manufacturing)で作製された積層造形物の内部を含めた残留応力分布について、 MIRS法およびひずみゲージ切断法で実測した事例を紹介する。
亜鉛めっき超高張力鋼板の抵抗スポット溶接で発生するLME割れが継手強度に及ぼす影響
P.107
前田恭兵・鈴木励一・秦野雅夫
超高張力鋼板において、抵抗スポット溶接時に液体金属脆化割れ、いわゆるLME(Liquid Metal Embrittlement)割れが発生する場合があり、自動車業界において問題視されている。しかし、LME割れが継手強度へおよぼす影響に関するデータは少ない。そこで本研究では、LME割れを発生位置ごとに3種類に分類し、各種割れが静的強度および疲労強度へおよぼす影響を調査した。圧痕内部に生じる割れは表裏面を貫通するものであっても継手強度にほとんど影響しないのに対し、圧痕内外周部に発生する割れはせん断、十字引張強度ともに低下させる可能性があることを明らかにした。また、継手内部で生じる割れは、せん断疲労強度特性を大きく劣化させることが分かった。
異種金属接合法「エレメントアークスポット溶接法」の継手強度に及ぼす鋼板強度特性および溶接金属組織の影響
P.115
大志田達郎・下田陽一朗・鈴木励一
異種材接合法の多くは1,000 MPaを超える超高張力鋼板への適用を十分に想定しておらず、高強度化に伴い種々の課題が生じる可能性がある。EASW™注1)法においても高張力鋼用溶加材を用いた場合、鋼板強度の増加に伴い、継手の剥離(はくり)強度が低下した。この原因は熱影響部および溶接金属部が低じん性であることによるものと想定し、溶接金属部の高じん性化による改善を検討した。1,500 MPa級高張力鋼板を用いたEASW継手において、ニッケル溶加材およびオーステナイト系ステンレス鋼溶接金属溶加材を用い、ボンド近傍の溶接金属部をオーステナイト組織に制御することで剥離強度を改善できることを見出した。
摩擦攪拌接合(FSW)技術開発の動向
P.123
下田陽一朗・鈴木励一
接着接合の強度信頼性を担う金属表面制御技術
P.130
高橋佑輔・山本慎太郎・勝野大樹・村田陽子
P.137
神戸製鋼技報掲載 溶接・接合技術関連文献一覧表
(Vol.62, No. 1 ~Vol.71, No. 1 )
P.140
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