当社は、超高層ビル向け新鋼材「超大入熱溶接用厚鋼板『コーベスーパータフネス』(高HAZ靭性鋼)シリーズ」(4品種)を開発し、このほど販売を開始しました。
シリーズの中でも、引張強度590N/mm2級高強度厚鋼板(SA440C-ST)では、当社がこの度独自開発した新技術「結晶粒の超微細分割(低カーボン多方位ベイナイト)技術*1」(別紙参照)により大入熱溶接時の熱影響部(HAZ =Heat Affected Zone)*2組織を微細化することで、熱影響による靭性(粘り強さ)低下を抑えることができました。加えて、当社が従来から得意とする組織制御技術(TMCP技術*3)を組み合わせることで、小入熱溶接(しょうにゅうねつようせつ)時の課題であった溶接施工性の大幅な改善を同時に果たし、これまで、高強度厚鋼板で両立が難しいとされていた大入熱溶接・小入熱溶接時*4の二つの課題を解決することに初めて成功しました。
「コーベスーパータフネス」(高HAZ靭性鋼)/SA440C-STの特徴:
(1)超大入熱溶接時 |
・・・ |
ボックス柱の角部サブマージアーク溶接(500kJ/cm)*5、ダイアフラム部エレクトロスラグ溶接 (1000kJ/cm)*6など超大入熱溶接時の熱影響部(HAZ)靭性値(シャルピー吸収エネルギー値*7 )が従来比較で4倍以上を実現 |
(2)小入熱溶接時 |
・・・ |
溶接前の予熱無しでも割れを防止し、組立て溶接*8の際などに溶接ビード*9が極端に短くなった場合でも、割れ防止の目安となる硬度HV350以下*10を実現 |
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<開発の背景>
ここ数年、都市再開発などによるビルの高層化に伴った建築用鋼板の厚肉・高強度化が進んでいます。一方で、阪神大震災をきっかけに巨大地震に対する耐震性が求められていることから、応力が集中する溶接部への靭性要求は大変厳しくなってきています。一般的に、溶接時の熱影響部(HAZ)靭性は、入熱量が増大するに従って低下しやすくなるため、大入熱溶接を多用するボックス柱用鋼板の熱影響部(HAZ)靭性の向上は、耐震性を高める上で大きな課題となっています。また、従来の590N/mm2級鋼板(SA440)は、強度を高めるために合金成分を多く含んでおり、組立て溶接時など小入熱の溶接を行う場合は、割れ・硬化を防止する為の予熱を行う必要がある上に、溶接ビード長さの制約があるなど、溶接施工管理に相当な手間がかかるという難点がありました。
「コーベスーパータフネス」(高HAZ靭性鋼)/SA440C-STは、大入熱溶接時の靭性向上と同時に、小入熱溶接時の割れ・硬化部の残留を低減することで、建物構造部材の安全性を一層高めることができる新鋼材です。当社は、本商品を通じて、将来到来の心配されている東海地震などの巨大地震に対して、鋼材面から建物の耐震性向上に貢献したい考えです。
<専用溶接材料「ST」シリーズの開発>
超大入熱溶接に対応したサブマージアーク溶接用とエレクトロスラグ溶接用の専用溶接材料「ST」シリーズもラインナップしています。
<「コーベスーパータフネス」(高HAZ靭性鋼)シリーズの規格と今後の展開>
建築用鋼材として一般的にボックス柱に用いられるSA440鋼、TMCP鋼、SN490鋼などをフルラインアップしており、既に複数ユーザにサンプルを納入しています。今後の計画として、2005年度をめどに年間5、000t程度の販売を目指したい考えです。
また、「結晶粒の超微細分割(低カーボン多方位ベイナイト)技術」については、建築・橋梁用鋼板(〜780N/mm2級)、造船用鋼板(YP390N/mm2級)などにも活用していく予定で、広範囲な産業分野における鋼構造物の品質向上や施工コスト縮減など、様々なニーズに応えていきたいと考えています。
【新商品ラインアップの一覧表】
鋼板 |
基準強度(N/mm2) |
引張強さ(N/mm2) |
SN490C−ST |
325 |
490 |
KCL A325C−ST |
325 |
490 |
KCL A355C−ST |
355 |
520 |
SA440C−ST |
440 |
590 |
溶接材料 |
引張強さ(N/mm2) |
ワイヤ |
フラックス |
サブマージアーク溶接 |
490級 520級 |
US-55ST |
PFI-55ST |
590級 |
US-60ST |
PFI-60ST |
エレクトロスラグ溶接 |
490級 520級 |
ES-55ST |
MF-38 (既存品) |
590級 |
ES-60ST |
MF-38 (既存品) |
【注】技術用語に関する説明
*1 |
「結晶粒の超微細分割(低カーボン多方位ベイナイト)技術」・・・ カーボン量を従来鋼の1/2〜1/4と大幅に低減することにより硬くてもろい島状マルテンサイトの生成量を大幅に低減するとともに、大入熱溶接熱影響部で粗大化したオーステナイト粒内を微細なブロックに分割する画期的な組織制御技術。 |
*2 |
熱影響部(HAZ)・・・溶接熱により材質的影響を受ける領域。 |
*3 |
TMCP技術・・・ Thermo-Mechanical-Control-Process の略。鋼材を製造する際に素材の加熱温度、圧延温度、圧延後の冷却をすべて制御し、所定の特性を圧延ラインで造り込む技術。 |
*4 |
大入熱溶接・小入熱溶接・・・ 溶接を行う際、電源から溶接部に投入される熱量。単位はkJ/cmまたはkJ/mm。超大入熱溶接はおよそ500kJ/cm以上、小入熱溶接はおよそ20kJ/cm 以下を目安とした。 |
*5 |
サブマージアーク溶接・・・ 溶接箇所にあらかじめ粒状フラックスを散布しておき、その中に溶接ワイヤを送り込み、フラックスに覆われた状態でアークを発生させて溶接する方法。主に下向きの大入熱溶接法として適用される。 |
*6 |
エレクトロスラグ溶接・・・ 溶接スラグと溶接金属が溶接部から流れ出ないように囲い込み、溶融したスラグ浴の中に溶接ワイヤを連続的に供給して行う溶接方法。主として溶融スラグの抵抗発熱によって溶接ワイヤが溶融し、順次、上向きに溶接金属が積層されることによって溶接が進行する。 |
*7 |
シャルピー吸収エネルギー・・・ 試験片(鋼材)が破断する前までにエネルギーを吸収する能力を表す指標。JIS規格に基づく衝撃試験を行ない、その時の吸収エネルギー量で評価を行なう。 |
*8 |
組立て溶接・・・ 本溶接を行う前に、部材の固定のためにあらかじめ部分的に短い溶接を行っておくこと。 |
*9 |
溶接ビード長さ・・・ 溶接ビード長さが短いほど溶接部の冷却速度が大きくなるため、熱影響部が硬化し、割れが発生しやすくなる。 |
*10 |
硬度HV350以下・・・ 国際溶接学会(IIW)では溶接熱影響部の最高硬さがHV350以上になると溶接部がもろくなるので特別な注意が必要と警告している。 |
以上