当社は、超高層ビルの耐震性向上に鋼材として貢献できる新製品「超大入熱溶接*1用厚鋼板『コーベスーパータフネス』(高HAZ靭性鋼*2)シリーズ」を本年3月に製品化し、顧客にサンプルを提供するなど受注活動を行ってきましたが、このほど、名駅四丁目七番地区再開発ビル(仮称)/名古屋市中村区(地上46F高さ247m)、東京医科歯科大学医歯学総合研究棟2期/東京都文京区(地上26F高さ121m)向けに、同シリーズとして初めての受注(約700t)を果しました。それぞれ、本年12月に納入を開始します。
シリーズの中で最高強度クラスとなる引張強度590N/mm2級高強度厚鋼板(SA440C-ST)では、鉄鋼業界で初めて、従来の同クラス品では両立が困難だった超大入熱溶接時の溶接部(熱影響部)の靭性値を従来の4倍以上に向上し、同時に小入熱溶接時の複雑な溶接施工の簡略化を実現しました。本製品の、他にはない使い勝手の良さが認められ、2物件への連続採用に至ったものです。
SA440C-STの特徴:
- 当社が独自開発した新技術「結晶粒の超微細分割(低カーボン多方位ベイナイト)」 *3(別紙参照)により、四面ボックス柱の角部サブマージアーク溶接(500kJ/cm)*4 、ダイアフラム部エレクトロスラグ溶接 (1000kJ/cm)*5などの超大入熱溶接時の熱影響部(HAZ=Heat Affected Zone)組織を微細化することで、靭性(粘り強さ)低下を抑え、
- 当社が従来から得意とする組織制御(TMCP)技術*6を組み合わせることで、小入熱溶接時(しょうにゅうねつようせつじ)の予熱作業を不要*7にし、溶接施工性の大幅な改善を果しました。
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高HAZ靭性鋼は、揺れの際に応力が集中する溶接部の靭性(粘り強さ)を高めることで、超高層ビルの耐震性向上に鋼材面で貢献できることから、到来が危惧されている大型地震への対応として、新築高層ビルへの採用拡大が見込まれています。当社では、本シリーズを当社の「特長ある製品」の一つと位置付け、積極的にPRしていく方針で、2005年度には約5、000t/年の生産販売を見込んでいます。
また、建築・橋梁用鋼板(〜780N/mm2級)、タンク・建設機械用鋼板(〜590N/mm2級)、造船用鋼板(YP390N/mm2級)などにも技術を応用し、広範囲な産業分野における鋼構造物の品質向上や施工コスト縮減など、様々なニーズに応えていきたいと考えています。
(補足説明)
超高層ビルの耐震性向上について
ここ数年、都市再開発などによるビルの高層化に伴った建築用鋼板の厚肉・高強度化が進む一方で、阪神大震災をきっかけに巨大地震に対する高層ビルの耐震性向上が求められていることから、揺れの際に応力が集中する溶接部への靭性要求は大変厳しくなってきています。一般に、溶接時の熱影響部は、入熱量が大きくなるに従って靭性が低下しやすくなることから、大入熱溶接を多用する四面ボックス柱用鋼板の熱影響部(HAZ)靭性の向上は、耐震性を高める上で大きな課題となっていました。
耐震性向上に鋼材として貢献
溶接接合部の靭性を向上させることで、様々な揺れに対して、鋼構造物の強度を高める効果が認められていることから、潜在的に建物の強度を向上させることが(実際の揺れに対して、構造設計強度以上の強度を発揮することが)期待できます。
【新商品ラインアップの一覧表】
コーベスーパータフネスは、建築用鋼材として一般的に四面ボックス柱に用いられるSA440鋼、TMCP鋼、SN490鋼などを、専用溶接材料と併せてフルラインアップしています。
鋼板
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基準強度(N/mm2)
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引張強さ(N/mm2)
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SN490C−ST
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325
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490
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KCL A325C−ST
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325
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490
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KCL A355C−ST
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355
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520
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SA440C−ST
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440
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590
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溶接材料
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引張強さ(N/mm2)
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ワイヤ
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フラックス
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サブマージアーク溶接
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490級 520級
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US-55ST
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PFI-55ST
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590級
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US-60ST
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PFI-60ST
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エレクトロスラグ溶接
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490級 520級
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ES-55ST
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MF-38(既存品)
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590級
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ES-60ST
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MF-38(既存品)
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【注】技術用語に関する説明
*1
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大入熱溶接(だいにゅうねつようせつ)・・・ 溶接を行う際、電源から溶接接合部に投入される熱の量が大きいもの。 単位はkJ/cm又はkJ/mm。超大入熱溶接は500 kJ/cm)以上、小入熱溶接は20 kJ/cm)以下を目安にしている。
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*2
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高HAZ靭性鋼(こうハズじんせいこう)・・・ HAZ=Heat Affected Zone(溶接熱により材質的影響を受ける領域)の靭性(ねばり強さ)が、シャルピー吸収エネルギー値(試験片が破断するまでにエネルギーを吸収する能力を表す指標)で、従来鋼よりも高い鋼板。(SA440C-STでは従来鋼の約4倍。)
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*3
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結晶粒の超微細分割(低カーボン多方位ベイナイト)技術・・・ カーボン量を従来鋼の1/2〜1/4と大幅に低減することにより、硬くてもろい島状マルテンサイトの生成量を大幅に低減するとともに、大入熱溶接熱影響部で粗大化したオーステナイト粒内を微細なブロックに分割する画期的な組織制御技術。
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*4
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サブマージアーク溶接(500kJ/cm)・・・ 溶接箇所にあらかじめ粒状フラックスを散布しておき、その中に溶接ワイヤを送り込み、フラックスに覆われた状態でアークを発生させて溶接する方法。主に下向きの大入熱溶接法として適用される。
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*5
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エレクトロスラグ溶接 (1000kJ/cm)・・・ 溶接スラグと溶接金属が溶接部から流れ出ないように囲い込み、溶融したスラグ浴の中に溶接ワイヤを連続的に供給して行う溶接方法。主として溶融スラグの抵抗発熱によって溶接ワイヤが溶融し、順次、上向きに溶接金属が積層されることによって溶接が進行する。
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*6
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組織制御(TMCP)技術・・・ Thermo-Mechanical-Control-Process の略。鋼材を製造する際に素材の加熱温度、圧延温度、圧延後の冷却をすべて制御し、所定の特性を圧延ラインで造り込む技術。
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*7
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小入熱溶接時の予熱作業が不要・・・ 従来の590N/mm2級鋼板(SA440)は、強度を高めるために合金成分を多く含んでおり、組み立て溶接(本溶接を行う前に部材の固定を行うこと)など小入熱の溶接時に、割れ・硬化を防止する為の予熱を行う必要がある上に、溶接ビード長さの制約があるなど、溶接施工管理に相当な手間がかかるという難点があった。
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