第10回 金賞作品紹介

小学生の部

「ミツバチのしょうたいじょう」  福田 珠萌

ミツバチのしょうたいじょう

ミツバチのしょうたいじょう

文・福田 珠萌 絵・さとう めぐみ

森は春から夏になりました。
虫たちが元気にとび回っています。
「ゆうびんですッタ。」
アゲハチョウの家に、
バッタのゆうびんやさんが手紙をとどけてくれました。

「なにかしら。」
手紙をあけてみると、
ミツバチからのパーティーのしょうたいじょうでした。

チョウのみなさんへ
明日の朝、七時に〝はちみつハウス〟に
きてください。
お気に入りの花を一つもってきてください。
ミツバチより

「まあ、明日が楽しみだわ。」

テントウムシが、それをこっそり見ています。

「ゆうびんですッタ。」
こんどは、モンシロチョウの家に手紙がとどきました。
「わたしのとっておきの、ツユクサをもっていきましょう。」

そのあと、ベニシジミ、クロアゲハの家にも
しょうたいじょうがとどきました。

ミツバチはその間、
そうじやりょうりのじゅんびをしていました。
「はあ、いそがしい、いそがしいッチ。
そうだ、わすれていたッチ。」

ミツバチは、にわにとび出しました。
「ここは、はちみついがいにも、
にわの手入れにもこだわりがあるんだッチ。」
ミツバチは花の水やりがおわると、
ちょっと休けいです。

「もっていく花は、どうするのかしらね。」
「きっと、おけしょうしてくれるのよ。」
と、おしゃれずきのクロアゲハ。
「いえいえ、花たばを作るのよ。」
と、ベニシジミ。

それを聞いていたテントウムシは、
そのあつまりに行きたいなと思いました。
そこで、チョウにへんしんすることにしました。
バラの花びらをせなかにつけて、羽にしました。
ホウセンカの花びらもつけて、
羽のもようにします。

つぎの日になりました。
チョウたちはそろって、切りかぶの中にある
はちみつハウスに行きました。
ツマグロヒョウモン、アオスジアゲハ、
モンキチョウはもうきています。

「きれいなおにわね。
あれ? あなたは?」
「ぼ、ぼく、テンマルチョウです。」

テントウムシも、中に入ることができました。
切りかぶの中に大きな広間があり、
テーブルとステージがありました。

とつぜん音楽がなりだしました。
ちょうど七時になったのです。
「ただいまから、ダンスパーティーをはじめます。」
スズムシ、セミ、コオロギ、キリギリスの音楽たいが、
楽しいきょくをかなでます。
チョウたちは、わになっておどりだしました。

「つぎは、おしょくじです。」
ミツバチが、ヒマワリのケーキに、ホウセンカのジュース、
バラのアイスクリームをはこんできました。

その時、アブラムシの大ぐんがきました。
たべものをもらいにきたのです。
なんと、二十匹もいます。
ちょうたちがとび回っています。
(どうしよう。
たすけに行ったら、
へんそうがばれちゃう。
けど……やっぱり!)

「じゃまをしては、いけないよ!」
テントウムシはそう言って、
かたっぱしからアブラムシを
おいはらっていきました。

すると、へんそうしていた羽がやぶれて、とれてしまいました。
「わあ。」
「テントウムシさんだったの!」
チョウたちから、かんせいとおどろきの声がわきおこりました。
パンパカパーンと、音楽たいが音をならしました。

ミツバチは、
「今日のヒーロー、テントウムシさんのとうじょうです! 
どうぞ。」
と、しょうかいしました。
テントウムシは、もじもじしながら出てきました。
「テントウムシさんもいっしょに、しょくじをしましょう。」
と、ミツバチが言いました。

パーティーのさいごにミツバチは、
「はちみつハウスとくせいのはちみつです。
花の入れものは、もってきましたか?」
と、言いながらみんなにプレゼントのはちみつをくばりました。
「このための花だったのね。」
テントウムシにも、ハチミツハウスのにわにさいていた
キキョウの花びらいっぱいのはちみつがくばられました。
「なんでへんそうしていたの?」
「ふふふ、まあね。」

つぎの日になりました。
テントウムシがポストを見ると、手紙が入っていました。

明日の朝、七時に〝はちみつハウス〟に
きてください。
森の虫なら、
どなたでもだいかんげいです。
ぜひきてください。
もちものは、夏のはっぱです。
ミツバチより

虫たちの夏は、まだまだつづきます。

 


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中高生の部

「どんぐりのゆりかご」  大久保 華

どんぐりのゆりかご

どんぐりのゆりかご

文・大久保 華 絵・ながおか えつこ

あたたかな光が土をてらしはじめた。
ぼくは、まぶしくて目がさめた。
もう朝だ。
ぼくは、土の中にすむミミズ。
名前はポール。

グウーキュルルル……
おなかがすいたなあ。
森の食堂に行こう。

森の食堂は、ヤマナラシの木の下にある。

「おはよう! スティック。」
ぼくは、同じミミズでガールフレンドのスティックにあいさつをした。
「あら、ポール。
けさは、赤いカエデと黄色いブナの葉がおいしいよ。」
さっそくぼくは、ヤスデのトムのとなりでもぐもぐ食べはじめた。
「このカエデの葉は、あまくておいしいね!」
「こっちのブナの葉もこうばしくておすすめだよ。」
ぼくたちは、お昼すぎまでわいわいがやがや
食事を楽しんだ。

そのあと、いっぱいうんちもした。
秋の森は、あたたかかくて
すがすがしい。

たっぷり食べたぼくたちは、午後は土の中を転がりまわって
トンネルをほってあそんだ。

ぼくたちの楽しそうな声を聞きつけて、
ダンゴムシのクネーデルがやって来たので、
おにごっこをすることになった。
さいしょのおには、トム。
ぼくとスティックは、土の中をがむしゃらににげた。

つかれたぼくたちが、
木かげのつめたい土で休んでいると、
上のほうからコナラさんの声がした。
「毎日たくさんあそんでえらいねえ。」
「あそぶのはえらいことなの?」
ぼくは、ふしぎになって聞きかえした。
「そうよ。
あなたたちのおかげで、
この森の土はふかふかでやさしい土になるの。」

コナラさんは、ほほえんで
葉をさらさらとゆらしながらつづけて言った。
「もうじきひとり立ちする
わたしの子どももおねがいね。」
ぼくは、よくわからなかったけれど、
「まかせてよ!」
と、元気よくへんじをして、
ぼくたちは、あそびにもどることにした。

「土がっせんしようよ。」
おにごっこで負けつづけていたクネーデルが言った。
ぼくたちは、土をこねて土だんごを作り、
おたがいになげあいっこをした。
クネーデルは、十四本の脚をぜんぶ使って
ごうそっきゅうをたくさんなげた。

たくさんあそんだあとの地面は、
さっきよりもふかふかになっていた。
気がついたらもう夕方だ。
またおなかがすいてきたぼくたちは、
四人そろって食堂にむかった。

食堂に行く道のとちゅう。
夏にいっしょうけんめい鳴いていたセミさんが、
かれ葉の上によこたわっていた。
ぼくたちは、セミさんが土にかえれるように、
だいじに食べた。

秋の終わり。
ふかふかの土の上に、
ポトリとコナラの木からどんぐりが落ちた。

つやつやでぷっくりしたそのどんぐりは、
土のゆりかごに半分うまりながら、
春をゆめ見てすやすやねむっている。


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