第2回 金賞作品紹介

「森のバースデーリース」  国丸 明梨

やわらかい朝の光が、部屋に差し込んできました。
ココがベッドからはね起きて、目を覚ましました。
「今日はママのたん生日だ。」
うれしい気持ちがこみ上げてきました。
ココは朝ご飯も食べず、大急ぎで森に出かけました。
花かんむりのリースが、あと少しで完成という時です。

森にいたココを小鳥たちが
「こっちへおいで。」と誘いました。
少し歩くと、小さな小屋が見えてきました。
転がっていた丸太の上に乗り、
窓からこっそり中をのぞきました。

すると、中では
動物や虫たちが
何かを話し合っています。
ガタン!
ココは、足をふみ外しました。
いっせいに、動物や虫たちが
ココの方を向きました。

はっとした、その時です。
大つぶの雨が降り始め
「ゴロゴロ、ピカッ」
森じゅうに、大きな雷の音が
ひびきわたりました。
ココは、思わず小屋に入りました。

動物や虫たちも、おびえていました。
しばらくして、小鳥たちがいいました。
「ここは森の相談所。
困っている仲間を助けてください。」
ココは、どんな相談でも受けようと決心しました。

「最初の相談の方どうぞ。」
ココがそういうと、リスのチロルがはずかしそうに
「どんぐりのエサをかくした場所が分からないの。」
と話しました。
ココは、チロルの住み家を一緒にさがしました。
木の上に登り、鳥の巣の中を見てもみつかりません。
そこで、木の根元の土の中を少し掘ってみると、
どんぐりがいくつか見えました。

チロルは、大喜びです。
「ありがとう。
お礼にどうぞ。」と、
大切などんぐりを
少し分けてくれました。
ココは、リースに
どんぐりを付けました。

「お次の方どうぞ。」
ココは少しなれた感じでいうと、
黒い服に真っ赤な帽子をかぶった
おしゃれなクマゲラのベッカーさんが話し始めました。
「ぼくは長い間、道先案内をしてたけど、
最近は自分でも道に迷ってしまう。」という相談でした。
ココは、ベッカーさんを連れて分かれ道や、
危険な場所に木の看板を立てていきました。

ベッカーさんは
「これなら自信を持って案内できるよ。」
というと木をつついて、
あっという間に
できあがったお花をココに渡しました。
そして「キョーキョ、コロコロ」と、
いい声でうれしそうに鳴きました。

ココはリースの一番目立つ所に
おしゃれな花をのせました。

最後の相談者は、なかなか出てきません。
大きな声で「どうぞ。」というと、
たくさんの足を動かしながら
あわてて登場しました。
「ぼくは、森のきらわれ者。
仲間がほしい。」という、
ムカデのムゲさんでした。

ココは、背中が
ゾワゾワッとしましたが
「あなたのいい所を
さがしてくるから待ってて。」
と、森の小屋を飛び出しました。

立ち止まると、
何かが聞こえました。
森がざわめき葉っぱがこすれて、
まるで内緒話をしているようです。
ココは深く息を吸いこんで
一気にかけぬけました。

ココの胸がドキドキしました。

しばらく歩くと、ヒキガエルに会いました。
ココは、小さく弱い声で、
「ムカデのムゲさんのいい所を知ってますか?」

そう聞くと、
「ああ、知ってるよ。
とってもうまいやつだろ?
あいつが動くと、ひと飲みにしてやるんだ。」
と長い舌を出しました。

ココは、びっくりして逃げるように
大きな木の下の切り株に座りました。
涙がなかなか止まりません。

すると、木の上の方から
「ホーッホホ。
そこのおじょうさん。」と、
やさしい声がしました。
見上げると、
フワフワのまっ白い毛を
大きくふくらませた、
森の守り神のフクロウです。

「いい事を教えてあげましょう。
ムカデの中には、
木を枯らす虫を食べてくれるものもいるんですよ。
すべての生きものには、命があるのです。
ムカデの命も栄養ある土になり、
その土で植物が育つのです。
命は、つながっているのですよ。
そしてココ、
あなたのがんばりをずっと見ていましたよ。」
ココは、ほっとしてお礼をいいました。

小屋に着くと、
みんなにこういいました。
「みんな知らないと思うけど、
ムゲさんたちは
森を守る大事な役割をしているのよ。
どんな生きものにも命があって
大切な仲間なの。」
と話しました。
みんなは、ココの勇気と
あたたかい気持ちを知り、
仲間になれたと思いました。

ムゲさんは、お礼に
森のめずらしい葉っぱを
プレゼントしました。
そして、その葉っぱを、
みんなでリースにつけました。
世界に一つだけの
森のバースデーリースの完成です。

もうすっかり森の仲間になったココ。
お別れは、さみしいけど、
そろそろ帰らなければなりません。

家に着くと
ママの頭の上に
そっとリースをのせました。

「ママ、おたん生日おめでとう。」
ママは、ぎゅっとだきしめてくれました。

ココは、リースを見ると、
仲間やすてきなぼうけんの事を、
今でも、思い出すのです。

「森とおばあさん」  五十嵐 深月

 

これは、ちょっぴり昔のお話です。

大きな山のふもとの、森のそばにある小さな家に、
おばあさんが住んでいました。
おばあさんは優しい性格で、
この森や動物たちが大好きでした。
それに、森にはおじいさんとの思い出も
たくさんありました。

今は、おばあさんはこの森に一人で住んでいますが、
それもあまり気にならないほど毎日が楽しいのでした。
でも、ときどき、ふと思い出したように
さびしく感じるときもありました。

春は、森が一番華やかになる季節です。
おばあさんは、家の前に咲いている花たちに
ジョウロで水をあげました。
それから、コケモモをとりに、
森へ続く坂道を登っていきました。
パンにぬるジャムを作るためです。

「あら、リスさんこんにちは。
今日は、クッキーを持ってきたわ。」
おばあさんはそう言って、
カゴからクッキーを出しましたが、
リスは首をかしげると逃げていってしまいました。

夏になると、おばあさんは朝早くに起きて
家の前の花たちにたっぷり水をあげると、
バスケットにたくさんサンドイッチをつめて、
森の中の湖に行きました。
湖は小さいけれどとてもきれいで、静かでした。

おばあさんは湖のそばに座って本を読んだり、
サンドイッチを食べたりしました。
それから、余ってしまったサンドイッチを
バスケットにしまい、
「一人にはちょっと多すぎたわね。」
と言いながら、朝来た道を帰って行くのでした。

秋になると、森が一気に紅葉しました。

おばあさんが家を出ると、
見渡すかぎり赤や黄、緑の世界が
広がっていました。
おばあさんは、落ち葉の海の中に
一人で立っていました。

カサカサ、ふわふわ、パリパリ。
おばあさんは、落ち葉で山を作ったり、
その山に飛び込んだりして、
からすが鳴き出すまで遊びました。

冬になると、秋の色はすっかり消えて、
代わりに雪と氷があたり一面をうめました。
おばあさんは、雪だるまを作ったり、
湖でスケートをしたりしました。

吹雪がひどい日には、
部屋の中の暖かいだんろのそばで、
ほかほかのスープを飲みながら、
おじいさんと二人で
暮らしていたころのことを
思い出すのでした。

ある風の強い雪の夜に、
おばあさんは考え事をしていました。
「やっぱり、一人で雪遊びをしてもおもしろくないわ。」
外では風が、ごうごう、ぴゅうぴゅうと吹いて、
窓をガタガタさせています。
おばあさんは急に心細くなって、
「誰か一緒にいてくれないかしら。」
と思いました。

突然、ドンドンと扉をたたく音がして、
おばあさんはハッとしました。
一体、こんな吹雪の夜に誰が来たのでしょう。

恐る恐る扉を開けると、
そこにいたのは小さな男の子でした。
こんなに寒い日だというのに、
男の子は上着一枚とズボンしか着ていませんでした。
「おばあさん、僕の木を助けて!
吹雪で吹き飛ばされそうなんだ。」
とその子は言いました。

おばあさんは、大急ぎで支度をすると、
男の子と一緒に家を飛び出しました。

途中、強い風に吹き飛ばされそうになりましたが、
大きなカラマツの木の幹につかまってやり過ごしました。

森の北のはずれまで来ると、
そこには吹き飛ばされてしまった
小さなモミの木がありました。
男の子が横で息をのみました。

おばあさんはカラマツの木の間にはさまった
モミの木をつかまえると、
雪交じりの土と一緒にバケツに入れました。

二人がやっとのことで家に帰ると、
おばあさんはモミの木を植木ばちに移して、
春が来るまで家の中で育てることにしました。

男の子はにっこり笑って、
「ありがとう、おばあさん。
僕は木だから、いつもおばあさんと一緒に遊んだり、
散歩したりできないけど、生きてるよ。
鳥も花もみんな、おばあさんと一緒にいるからね。」
そう言うと、ふっと消えてしまいました。
あとには、モミの木と、おばあさんと、
パチパチと燃えているだんろだけが残されました。

「そうかい。
これからも、何か困ったことがあったら、
いつでも知らせておくれよ。
私もここにいるからね。」
おばあさんは、そう言うと
そっとモミの木をなでました。

それから何回も、
春と夏と、秋と冬がやって来ては、
通り過ぎていきました。
でも、もうおばあさんはさみしくありませんでした。
森の木のざわめきや、鳥のさえずり、
落ち葉の音や、風のささやき。
それら全てが、
森からのメッセージのように思えたからです。
おばあさんはもう、一人ぼっちではありませんでした。

あのモミの木は、
もうすっかり大きくなってしまったけれど、
今でもおばあさんは、見守られているような気がするのです。

おしまい。