第6回 金賞作品紹介

「大スギの下のデン」  森 凜

ぼくはデン。ヤマタニシのデンデン虫。
今とってもおなかがすいているんだ。
どうしてかって?
そりゃ冬の間ずーっと冬みんしていたからなんだ。
まずは、はらごしらえ。
ふわふわのこけをおなかいっぱい食べられて大満足さ。

そうそう、ぼくが住んでいるのは大きなお寺の大スギの下。
こけもたくさん生えているんだよ。
それから、デンデン虫といえば、せ中のからだろ?
ぼくのからにはノートとえんぴつがいつも入っているんだよ。
それは日記をかくため。

4月16日 晴れ
今日ぼくは、おさんぽに出かけた。
あんまり春風が気持ちよかったから。
ぼくは、しょっ角をぐーーんとのばして風を感じた。
なんだかムズムズぼうけんに出かけたくなるような風。

ふと空を見上げると、ぼくが一番好きな青色だった。
その空で、ヤマガラがなわばり争いをしているのを見た。
ぼくはいっつも考えているんだ。
お空を取りあいっこするなんておかしいよね。
だってお空はだれのものでもないんだもん。
お空には線なんかかけないのにね。

6月28日 雨
今日は雨のおさんぽに出かけた。
歩いているとちゅう、クモに出会った。

「ぼくはみんなにきらわれている。
だってカサカサ動くし急に出てくるから。」
と、クモくん。
「そんなことないよ。クモくんのクモの巣アートは
すごいと思うよ。」
「ぼくのクモの巣アートって?」
「きみが作ったクモの巣に雨がひっかかって
キラキラしているだろ。まるでシャンデリアみたいだよ。」
「ぼくのクモの巣がシャンデリア?
そんなふうに言ってもらえてうれしいよ。
自分では気づかなかったよ。
ぼくはぼくのままでいいんだね。」

8月19日 晴れ
「カナカナカナカナカナ……」
夕方、ぼくはこんな鳴き声を聞いた。
今日はとても暑かったけれど、
この声を聞いてしずかな気分になった。

「やあ、ぼくはデンデン虫のデンだよ。
きみのお声はとてもきれいだね。」
「カナカナカナ……ありがとう。
ぼくはヒグラシさ。カナカナカナ……」
「なんだか悲しそうな鳴き声だね。」と、ぼく。
「土の中で5年間、外にあこがれていたのに……。
地上に出たら1週間しか生きられないなんて。
カナカナカナ……だから夕ぐれに、
カナシイカナシイカナシイカナシカナカナカナ……
と鳴いてしまうのさ。」
とヒグラシが話してくれた。
ぼくは少し悲しくなった。

9月28日 くもり時々パラパラ雨
「よーいどん!」
ぼくは今日、かけっこをしたんだ。シャクトリムシと。
ぼくはうんーーーと走った。
シャクトリムシは、しゃくしゃくしゃく……と走った。
結果はぼくの負け。
ノートとえんぴつを、からから出しとけばよかった!

12月11日 晴れ
ぼくは、なかよしのダンゴムシくんに出会った。
なぜ、なかよしなのかというと、小さい虫どうし、
歩くのおそいどうしだから。

そしてね、ダンゴムシくんとは話すのに少しコツがいるんだ。
こわがりだから、お話のとちゅうで
びっくりするようなことがあると、すぐにまるまってしまう。
たとえばトンボが横切った時とか……。
だからまるまっている間、ぼくはじーっとじーっと
待っているんだ。

ダンゴムシくんが、ぼくにこう言った。
「そろそろ、こがらしがふく季節だね。」

そうなんだ。
ぼくたちは、冬みんのじゅんびを始めなくちゃならない。
ぼくのからの中の日記には、たくさんの思い出がいっぱい。
日記はぼくのたから物。
空から雪がふってきた。
ぼくたちはいつまでもいつまでも雪を見ていた。


 


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「一本のカシの木」  東田 美莉亜

私は、森の中で育った一本のカシの木です。
この森は、山の中腹から、ふもとにかけて広がっています。
なぜ、私がここで生まれたかは、知りません。

あるとき、ツバキの木のおばあちゃんが、こっそり私に
「リス君のおかげだよ。」と教えてくれました。
おそらく、どんぐり好きのリス君があとで食べようとかくしておいた
どんぐりから、芽が出て生まれたのでしょう。

私の育った森は、ツバキやツツジなどの低い木が多くて、
季節ごとに美しい花をさかせてくれています。
森の仲間たちのいやしの木々です。
幼いカシの木の私は、ツバキさんのように、
美しい花をさかせて仲間たちを楽しませることはできません。
あまいみつを求めて集まってくるメジロさんたちのお役にも立てず、
自分がみじめになるばかりです。
自分の好きなところに自由に行ける小鳥さんたちを、
うらやましく思いました。
きれいな花や美味しいみつや実をつけて仲間をふやし、
楽しそうにしている木々を見ては、情けない自分を思うのでした。

なやんでばかりでは何もできない、
今ある環境の中で自分にできることを全力でやってみたい、
という気持ちが芽ばえてきました。
太陽に向かって、上へ上へとのびることにしました。

月日が過ぎ、気づくと、私がこの森の中で一番高い木になっていました。
幼いころ、だれの役にも立てずになやんでいた自分も、
大きく成長できました。
いま私がいるこの場所で、深く、深く根をのばして、
暑い夏や寒い冬の日に、森の仲間たちの憩いの場になろうと決めました。

いつの間にか、私の仲間のカシの木やクヌギの木もふえてきました。
おそらく、リスさんのおかげでしょうね。
たくさんのどんぐりから育った仲間です。

夏の暑い日にも寒い雪の日にも、
森の仲間たちが、私のまわりに集まるようになりました。
楽しい憩いの場として、私は役に立ちはじめました。

月日が、またまた過ぎていき、あるとき、
台風のような記録的な集中豪雨におそわれました。
一番の大木のカシの木の私でも、
ものすごい土石流の水の圧力に苦戦しました。
おしたおされそうになる私は、じっと根をはってがんばりました。
森の仲間たちもみんなで、私とスクラムを組んでがんばりぬきました。

やがて、豪雨も収まり、向かいの斜面はすべて流されてしまいました。
しかしながら、私たちの森は、生き残ることができました。

森の仲間たちは、私のことを「森の救世主」としてほめてくれました。
私もみんなのお役に立てて、幸せな気持ちになりました。

リス君のおかげで、一本のカシの木の私が生まれて、
森の仲間たちとつながることができました。
森の仲間たちとみんなでがんばれば、強くなれることを知りました。



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