第4回 金賞作品紹介

「春のゆうびんやさん」  古角 千代佳

冬はどうぶつたちが長い長いねむりにつく時間。
そのねむりから目を覚まさせてくれるのは
春のゆうびんやさん。

「さぁ、ひさしぶりの春のお届け。」

春のゆうびんやさんは、
森に春をお届けする風の妖精さんです。
春のゆうびんやさん、
せなかに大きなリュックサックをせおい、
さぁ、出発!

まず最初に春のゆうびんやさんが向かったのは、
大きな木の下の大きな穴。
ここにはどんなどうぶつがねむっているの?

「今日は春のお届け日~、お届け日~。
さぁ、目を開けて!
春のパーティーをしましょう!!」
春のゆうびんやさんは、大きな声で叫びました。
そして、リュックサックからゴソゴソと
小さな封筒をとりだして、大きな穴に入れました。
いったいなんの封筒かな?

すると、その大きな穴からクマさん親子が
ねむそうな顔をしてでてきました。

「おはようございます!
春夏秋冬、季節をお届けする、春のゆうびんやさんです!」

笑顔で話す、春のゆうびんやさんを見たクマさん親子は、
ニッコリ笑いました。

春のゆうびんやさんは次の場所へ、
また春をお届けするために歩きだしました。
春のゆうびんやさんの後ろには、
クマさん親子が歩いてきました。

グウァーオ、グウァーオ?

お母さんクマが
「次はどこに春をお届けするの?」
と聞いてきます。
「次は小さなかわいいリスさんです。」
春のゆうびんやさんはそう言うと、
木の幹のところまで移動しました。
すると、そこには小さな穴がありました。

春のゆうびんやさんは、大きなリュックサックから
また小さな封筒を出して、小さな声で
「今日は春のお届け日~お届け日~。
春夏秋冬、季節をお届けする、春のゆうびんやさんです。
さぁ、春のパーティーをしましょう。」
と言い、小さな封筒を小さな穴にいれました。

それから少し待っていると、
リスさんがひょこっと顔を出しました。

ピョロン、ピョロン。
「お久しぶり、いつもありがとう。」
笑顔でリスさんが、春のゆうびんやさんに話しかけます。

それから、春のゆうびんやさんは
コウモリ、ヤマネなどの
どうぶつたちにも
春をお届けしました。
いつのまにか
春のゆうびんやさんの後ろには、
どうぶつたちの行列ができていました。

最後に残った手紙はあと一通。
それはだれにお届けするの?
「準備はいいですか?」
春のゆうびんやさんがそう言うと、
どうぶつたちはコクリとうなずきました。
そして、春のゆうびんやさんを中心に、
大勢のどうぶつたちが一通の手紙を囲みます。

「では、今日は!!」
春のゆうびんやさんが声をかけると、
「春の~春の~お届け日~
春の~春の~おたんじょうび!
さぁ歌おう春の歌!」と、
どうぶつたちが色々な鳴き声で
歌いはじめました。

すると、大きな強い風がふきました!
目を開けられないほどの風。
どうぶつたちも春のゆうびんやさんも
目をかたくとじます。

ですが少しすると、さっきの風が
うそのようにピタリととまりました。
そして強ばった表情でゆっくりと目をあけると・・・

「えっ!?」
突然、目の前に満開の桜の木があらわれました。
どうぶつたちもおどろきがかくせないよう。
それと同時に、喜びが心の底からわきあがってきました。
そして春のパーティーが始まり、
みんなで春の歌を歌いながら、楽しくすごしました。

次は新しい夏のお届け日~
お届け日~。

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「森のシャンデリア」  近藤 沙紀

チャポン。
「あっ、またお魚が跳ねたよ。」

慌てて振り向くと、水面に波紋ができて、
まあるく円を描いていました。
湖のふちまで広がっていく小さな波に
光が反射して、とてもきれいです。

しばらく湖に見とれていたリナは、
一人になっていることに気付いて
慌ててみんなの所へ戻って行きました。

ここは深い森の中。
都会では聞こえないような小鳥のさえずりや
虫の音があちらこちらから聞こえてきます。
どこにいても頭の上に緑の天井が広がって、
地面にマーブル模様の影を落としています。
唯一この湖の上だけは、空までスカッと突き抜けています。

「今からきれいなもの探しゲームを始めます。
森にはきれいな生き物や植物が沢山あるから、
見つけてきてね。それじゃ、始め!」
キャンプリーダーのお姉さんのかけ声と同時に
みんなは別々の方向に走り出しました。

早速向こうの方から声が聞こえました。

「ピンクのすっごくきれいなお花見っけ!」
マミちゃんです。
マミちゃんは根から引っこ抜いた
ピンク色の花をかかげています。
リナは負けじと視線を落としました。

すると、大きなぶなの木の根元に、
一際目を引く鮮やかな黄色のお花を見つけました。
これならマミちゃんにだって負けないはずです。

でも、リナはしゃがんで手を伸ばそうとして
思いとどまりました。
きれいなお花、摘んでしまうのはかわいそう。
ここで可愛く咲いていた方がいいわ。

リナは立ち上がってお花に
小さく手を振り歩き出しました。
黄色のお花も風にふわりと揺れて、
手を振り返したみたいでした。

木と木の間を通って来た涼しい風が
リナのほっぺをかすめます。
すべすべした木の葉を触ったり、
太い木の幹に耳をあててみたりして進んでいくと、
向こうから虫取り網を持ったシュン君が走ってきました。
そしてリナの目の前で勢いよく網を振り下ろしました。

「ゲット!すごいだろう。」
虫取り網の中では大きな羽の
とんぼが暴れていました。
シュン君はとんぼを虫かごに入れ、
また走って行きました。

シュン君が行った後、
リナの前をちらちらと青いものが
横切りました。

蝶々です。
それも街では見たこともない大きさでした。
リナは虫取り網を振り上げかけて、やめました。
網の中で羽をばたつかせる蝶々の姿が目に浮かび
苦しくなったのです。
きらきら光るコバルトブルーの蝶々は、
リナの前をしばらく飛び回った後、
空高く舞っていきました。

リナは小鳥たちの声に耳を傾けながら
森の奥へと進みます。
すらりと伸びた背の高い木や
ごつごつとした大木、
色々な植物が並んでいます。

自分と同じくらいの高さの木を見つけて
立ち止まったリナはびっくり。
目の前の何かと目があったのです。
葉っぱと同じ色の小さな体。
かえるです。
首をかしげて黒い瞳で不思議そうにリナを見つめています。
リナが両手を差し出すと、
かえるはぴょんと乗ってくれました。
いっぱいに広げた四本の指を
手のひらにぺちゃりとくっつけています。

かえるの赤ちゃんはおたまじゃくしだけど、
この子はきっと子供だわ。
可愛いかえるちゃんね。

そのときリナは何かの気配を感じました。
葉っぱの上にもう一匹かえるがいて、
じっとこちらの様子を見ています。
手のひらのかえるより一回り大きなそのかえるは、
この子のお母さんでしょうか。
私の子供を取らないで。
そう言っているように思えたリナは、
手のひらのかえるをそっと葉っぱに帰してやりました。

湖の方からゲーム終了のアナウンスが流れてきました。
何も取れなかったリナは、
元来た道をとぼとぼと帰りました。

「僕、かっこいいとんぼ見つけたよ!」
「私はお花なの!」
集合したみんなは、それぞれの虫かごを見せ合って
盛り上がっています。

「リナちゃんは何?あれ?何もないじゃん。」
「ほんとだ。リナちゃんだけ持っていない。
あっ、肩に虫が三匹とまってる。
でも黒くて全然きれいじゃないよ。」

リナはうつむいてしまいました。
気がつくともう辺りは薄暗くなっていました。
さっきまで青々としていた木々も
黒い影に見えます。

そのとき、マミちゃんが叫びました。
「見て!リナちゃんの肩、光ってるよ!」

リナの肩にとまっていた虫が
夜空に浮かぶ星のように光り出し、
驚いたリナのほっぺを照らしています。
虫は蛍だったのです。
その光に誘われるように他の蛍たちも
リナの周りにいっぱいやってきました。

「わぁ!きれい!」
「すごいよ!リナちゃんが一等賞だ!」

いつの間にか空に浮かんでいた満月と
飛び交う無数の蛍の光が水面に映り、
息をのむ美しさです。
森は素敵な大広間になったよう。
夜空の天井からつるされた月のあかりに
たくさんの蛍が連なって、
見上げればまるでシャンデリアのようです。
森の奥のとっておきの
シャンデリアに照らされて、
リナの心もきらきらと輝くようでした。

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