第9回 金賞作品紹介

小学生の部

「まいごのイソガニ 森へ行く」  安田 穂香

まいごのイソガニ 森へ行く

まいごのイソガニ 森へ行く

文・安田 穂香 絵・ながおか えつこ

そのイソガニは、まいごでした。
「あれ、どうしてぼくはここにいるんだろう……。
そうか、おじいちゃんと海の岩場で楽しくさん歩していたのに、
カラスにつかまっちゃってここに落ちたんだ。
……ここはどこかなあ。」

あたりを見回すと、はじめて目にするものばかり。
ふんわりとした葉っぱのじゅうたん。
赤くておいしそうな木の実。
木のみきにあいたあな。だれかの家の入り口かな?

イソガニの子は、ふと真上を見上げてみました。
重なった木の葉の間から、おひさまの光がさして、
キラキラしています。
「うわあ、すごいや。
ぼく、カラスのつま先からにげ出すまで
とってもこわかったけど、ここはすてき!
海の岩場の次に、すきになれそうだ。」
すると……

「そうかい、気に入ってもらえてよかったよ。」
と、声がしました。
それは、地面からひょっこり顔を出した
もぐらでした。

「どうしてイソガニくんが
森にいるのか知らないけれど、
ここはとっても
気持ちのいいところだよ。
木も土も生きているからね。」
イソガニの子は、ここに来たわけを
もぐらに話しました。
「そうか、
それなら森一番のものしりの
タヌキじいさんの所へ行くといいよ。」

イソガニの子は、また歩き出しました。
ふと耳をすますと、とても美しい音楽が聞こえてきます。

近づいてみると、それはチェロの音で、
ひいているのはしっぽを左右に動かしている
タヌキじいさんでした。
イソガニの子は、
しばらくうっとりとして耳をかたむけていました。
今まで聞いたこともない、深くて、あたたかい音でした。
その音に、遠くからカッコウの美しい鳴き声と、
葉っぱが風でゆれるサワサワという音が重なります。

チェロの音がとぎれ、タヌキじいさんがこちらを見ました。
「ふむ、君は森にまよいこんだイソガニくんかな。
家に帰りたくてわしの所に来たのだね。」
「そうです。
タヌキじいさん、海に帰る方ほうを教えてください。」
「そうだね……。
おーい、キビタキさん、
この子を川へ送ってやってくれんか。」

すると、木の上から
きれいな黄色ののどをした鳥がとんできて、
「いいわよ。
あら、かわいいイソガニさんね。
こっちへいらっしゃい。」
と、あん内してくれました。

イソガニの子は、
ひっしに足を動かしてついて行きました。
(ぼくが帰りたいのは、
川じゃなくて海なんだけど……。)
イソガニの子は、心配になりました。

やがて、川にとう着しました。
「ここから先は、ウグイさんにおねがいするわ。」
「ありがとう、キビタキさん。
森の中にこんなにきれいな川があるんだね。」
イソガニの子は、
キビタキからもらった葉っぱの船で
ウグイについて行くことにしました。

ウグイは、
「実はさ、この川、君の住んでいる海と
つながっているんだよ。」
と、教えてくれました。

イソガニの子は、
ウグイといっしょに川を下りながら、
この川の水は、
森の地下水がわき出してできたものであること、
それが海へ流れこむこと、
海の水は空気中へじょう発して雲になり、
森にも雨をふらせること、
その雨が地面にしみこんで
地下水になることを教えてもらいました。

「ええっ!?
じゃあ、森と海って、
ものすごくなかのいい友だちなの!?」
「そうなんだ。
水でつながっているんだよ。」

「さあ、海の入り口についたよ。」
「本当だ!
ありがとう、ウグイさん。
たくさんのことを教えてくれて。」
「ぼくは、ものしりのタヌキじいさんから教わったんだよ。
イソガニくん、また会えるといいね。
森と海はなかよしだからね。」
こうしてウグイは帰って行きました。

イソガニの子は、岩場へ行き、
ぶじにおじいちゃんと会えました。
そして、今日一日のできごとを
む中で話しました。
おじいちゃんは、
目を細めて話を聞いてくれました。
「そうかそうか、
いいことを教えてもらったねえ。」
「ぼく、またときどき、森へ遊びに行こうかな。
とってもすてきな友だちがたくさんできたから!」

 


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中高生の部

「森の不動産屋」  小西 麦歩

森の不動産屋

森の不動産屋

文・小西 麦歩 絵・さとう めぐみ

「ふー、今年も大忙しだなあ。」
ムーは、大きなカツラの木を見上げながら言いました。
黄色に色づいた葉がヒラヒラと降ってきます。
ムーの毛もふさふさになってきました。
大きな体、ふさふさの毛、丸い耳。
見かけたら逃げ出してしまいそうだけど、
とても優しいクマのムー。
ペア森の不動産屋をしています。

今、お家を売りたい人と、
買いたい人がやってくる不動産屋は大忙し。
なぜなら、秋のペア森は、暖かい南に引っ越す夏鳥さん達や、
冬眠場所を探す動物さん達、
北からやってくる冬鳥さん達でいっぱいだからです。

ある晴れた爽やかな朝。
ムーは、クルミの木の側にある
不動産屋で待っていました。
そこで、お客さんにお家を紹介するのです。

少しすると、コンコンコンと小さくドアを
たたく音がして、四匹のウサギが入ってきました。
「おはようございます、ムーさん。
セッポです。
よろしくお願いします。」
お父さんウサギがそう言いながら、
ペコリとお辞儀をしました。
「こんにちは、セッポさん。
こちらこそよろしくお願いします。
こちらに座ってください。」

セッポさん一家は、この間の大嵐で
住んでいたお家が水浸しになってしまい、
住めなくなってしまったのです。
ムーは、カシワの葉に書いた
二枚の家の図を出しました。

「こちらは、池の側にあります。
草が近くにあり、
遠くまで行かなくても食べることができます。
大きさは、松ぼっくり百五十個分です。」

セッポさんは一家は、その図をじーっと見つめました。
「ぼく、こっちがいい!
池には、友達がいっぱいいるんだもん!」
と、子どものウサギが言いました。

「すぐに草をとれるのは、いいですね。
もう片方はどこにあるのですか?」
と、お母さんウサギが言いました。

「こちらは、
大きなカエデの木の側にあります。
この間、カエデじいさんに、
住む人を探してほしいと頼まれたんです。
最近、みんなこの木で遊んでくれなくて、
寂しいみたいです。
草は少し遠くにしかないですが、
代わりに木の実や、木の芽などが
すぐに食べられます。
大きさは、松ぼっくり二百個分です。」

「松ぼっくり二百個!
広いなあ。」
と、セッポさん。
「木の実、
いっぱい食べたいな。
ぼく、こっちがいい!」
そう言ったのは、
一番小さな子どものウサギです。 。

「あの、いくらぐらいなんですか?」
セッポさんが少し心配そうに聞きました。
「ええっと、池の側の家がクルミ二十個で、
カエデの木の側の家がクルミ二十五個です。
そのクルミは、この森に植えます。
この木が大きくなれば、しっかり根を張って、
大雨が降っても崩れないような森になったり、
百年後、二百年後、
たくさんの生き物が住めるお家になったり、
みんながクルミをいっぱい
食べられるようになったりします。」

「じゃあ、お渡しするクルミは
森のために使われるのですね。」
セッポさんがうれしそうに言いました。
セッポさん一家は、相談をして、
カエデの木の側のお家に
住むことに決めました。
「ムーさん。
ありがとうございました。」
そう言って帰って行くセッポさん達は、
やってきた時よりも、うれしそうでした。

それから数日後、ムーに、手紙が届きました。
セッポさんと、カエデじいさんからでした。

ムーは、
「みんなが喜んでくれて良かった。」
と、思いました。

そして、クルミを植えるために森の奥へと歩いて行きました。

次の春、ペア森で、新しい小さな芽が顔を出しました。


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