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海の中で海藻や魚を育む製鋼スラグの特性を活用した新型スラグ魚礁の開発

海の中で海草や魚を育む製鋼スラグの特性を活用した新型スラグ漁礁の開発

2010年5月、沖縄県と神戸空港で相次いで2つの実験が開始されました。神戸製鋼グループが実施する製鋼スラグによる海域における環境修復の実証試験です。この実証試験には、これまでにないポイントがあります。それは、「製鋼スラグの特性を活用し、海藻を繁茂させて魚を育てる」ということ。

この新型スラグ魚礁の開発に携わった神戸製鋼所、神鋼スラグ製品、神鋼建材工業の神戸製鋼グループ3社の方に、その特長と経緯を聞きました。

 

 

製鋼スラグという“魅力的な”副産物の有効利用

  製鋼スラグ写真
  製鋼スラグ
   
   

鉄鋼スラグは鉄の製造工程で生成する「副産物」で、高炉で鉄鉱石から銑鉄をつくる際に生成する高炉スラグと転炉などの製鋼工程で生成する製鋼スラグがあります。粗鋼1トン製造するのに、約400キログラムの鉄鋼スラグが生成されます。

 

 

日本の鉄鋼スラグの有効利用の歴史は高炉製鉄法が開始された約100年前に遡ります。高度経済成長期には道路・トンネルなどのインフラ整備、ビルの高層化など建設ラッシュが続き、土地造成資材や路盤材、セメント用に大量に使用されるようになりました。その後も鉄鋼スラグの優れた特性がさまざまな分野で生かされるようになり、現在では全鉄鋼スラグの99%が再資源化されるようになりました。

 

製鋼スラグは高炉スラグに比べ、鉄分を多く含んでおり、その鉄分が植物プランクトンの成長に良いということが、ここ10年ほどの研究からわかってきました。鉄鋼事業部門の資源循環を担当している中村主任部員は次のように説明します。「最近は森林の減少が進み、天然の鉄分を含んだ自然土が海に流入する量が減少しています。それが、近年の漁獲量減少にも影響していると言われています」。

 

家島に設置したスラグ漁礁の様子。設置3カ月後   家島に設置したスラグ漁礁の様子。設置6カ月後
家島に設置したスラグ魚礁の様子。左が設置3ヶ月後、右が設置6ヶ月後


スラグの海域利用の開発に力を入れている神鋼スラグ製品・松元係長も、次のように強調します。「鉄は、光合成の電子伝達やクロロフィル(葉緑素)の合成に必要な微量栄養素です。製鋼スラグから溶け出した鉄分により植物プランクトンが増殖することで動物プランクトンが増えますし、それが漁場の回復にもつながります」。

 

一方、魚礁の製造・販売に20年以上の実績を持つ神鋼建材工業も、更なる市場拡大のために模索を続けていました。神鋼建材工業で魚礁に携わる幸田課長は次のように言います。「これまでは鋼製魚礁と組み合せる材料として、天然石やコンクリートブロックを使用していました。わが社としても他社と差別化できて、もっと漁業者の皆さんに喜んでもらえる魚礁の開発が必要だと考えていました」。

 

3社の強みとパートナーシップから、新型魚礁は完成した

 

  今回タッグを組んだ3人の担当者たち。左から神鋼建材工業・幸田隆史課長、神戸製鋼・中村正信主任部員、神鋼スラグ製品・松元弘昭係長
  今回タッグを組んだ3人の担当者たち。左から神鋼建材工業・幸田隆史課長、神戸製鋼・中村正信主任部員、神鋼スラグ製品・松元弘昭係長
   
  5月26日に沖縄県当添魚港で行われた漁礁の設置風景
  5月26日に沖縄県当添魚港で行われた魚礁の設置風景
(魚礁上部の灰色のかたまりがスラグブロック)
   
  5月28日に神戸空港北側護岸で行われた漁礁の設置風景
  5月28日に神戸空港北側護岸で行われた魚礁の設置風景
   

兵庫県の家島に最初のスラグ魚礁を設置したのが、2009年7月のことでした。魚礁としての機能を果たすよう、製鋼スラグは魚礁の上部に置きました。海域によって高さを自由に設定できるのも鋼製魚礁の強みです。「1ヶ月後の調査では、製鋼スラグの方が天然石よりもはるかに多くの稚魚(メバル)が集まっており、短期間でこれほどの違いが確認できたことには驚きました」(幸田)

 

 

一方で、課題もありました。製鋼スラグを用いた海の環境改善についてあまり知られておらず、実証試験を始めるに当たって、関係者から理解を得ることが難しかったのです。まずは地元の皆様への説明会を開き、製鋼スラグ製漁礁の効果や環境改善効果を理解していただくことに努めました。

 

「製鋼スラグが持つ特性と効果を説明することで、実証試験に対して理解していただけるようになりました。特に、地元の漁業協同組合さんと県や市の関係機関からご協力をいただいたことで、その後の許認可の手続きもスムーズに進みました」(中村)。また、沖縄では沖縄支店、神戸空港では環境防災部が協力し、神戸製鋼グループは新型スラグ製魚礁の完成に向けて、一丸となって取り組んでいきました。

 

そして2010年、5月26日に沖縄、5月28日に神戸空港での実験がスタートしました。地元の協力のおかげで無事沈設も完了し、沖縄では8トンのスラグを搭載し、神戸空港では6トンのスラグを搭載しています。いずれも天然石との比較ができるようにして、製鋼スラグの効果がわかるようにしています。

 

「この実証試験は、技術開発本部やコベルコ科研も含めた神戸製鋼グループの総合力で進めています。そして、実証試験を重ねる度にこのチームの絆は深まっています」(中村)。

 

「沖縄の漁協の皆さんが製鋼スラグを用いた海の環境改善に強い期待を持っていただいていることを実感しました。ぜひともその期待にチームの力を結集して応えたいと思っています」(松元)。

 

「近年、日本の沿岸は海藻が減少する『磯焼け現象』が深刻化しています。また、瀬戸内などの内海ではヘドロによる貧酸素海域が増えるなど、海のバランスが崩れることで漁獲量は減少しています。今回の神戸製鋼グループの取り組みが、豊かな海への再生につながればと思います」(幸田)

 

神戸製鋼鉄鋼事業部門では、この4月から技術開発センターに「鉄資源プロセス開発室」を立ち上げました。資源循環に関する開発部隊を発足させ、スラグをはじめとする製鉄所副産物の資源循環を加速させていきます。この開発部隊では、スラグの海域実証試験においては技術開発の総括を担当するとともに、更なる用途拡大の可能性を探求していく予定です。神戸製鋼所では、今後もグループの総合力を活かした環境改善に貢献する技術や製品の開発を続けていきます。

 

 

関連リンク

鉄鋼スラグを用いた海洋環境修復に関する実証試験について鉄分の供給による海藻の育成と漁場環境の改善を目指す

神戸空港北側護岸における鉄鋼スラグを用いた藻場造成試験について