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高温・高圧利用技術 熱間等方圧加工法

熱間等方圧加圧法(HIP)とは

熱間等方圧加圧法(HIP)の構造

「HIP」は、英語のHot Isostatic Pressingの頭文字をとったもので、材料の加工方法のひとつです。

日本語に訳すと「熱間等方圧加圧法」となり、数100~2000℃の高温と数10~200MPaの等方的な圧力を被処理体に同時に加えて処理するプロセスです。通常はアルゴンなどのガスを圧力媒体として等方的な圧力を加えています。

HIPにもっとも近い方法としてホットプレスがあります。他に圧延、鍛造、押出などの金属材料の加工法も、高温と圧力を作用させていますが、HIPのように等方圧ではありません。

HIPとホットプレスの違い

HIPはガス圧を利用して被処理体に等方圧を加えます。これに対して、ホットプレスはプレス加圧するため基本的に一軸方向からのみの加圧となります。

HIP(等方圧)とホットプレス(1軸加圧)の違いをわかりやすく説明するため、材料(a)(中央部に空孔がある金属材料)、材料(b)(端部に凹凸がある金属材料)にそれぞれHIPあるいはホットプレスをしてみましょう。

まず、HIPの場合、全方向から等しい圧力が材料に加わるため、図1に示すように、材料(a)は中央の空孔が消滅するまで相似的に収縮し、拡散現象により接合します。材料(b)は凹凸部にも均等に圧力がかかるため形状が全く変化しません。

ホットプレスの場合、図2に示すように、材料(a)はプレス加圧により、HIPと同じ様に中央の空孔が消滅するまで圧縮変化し、拡散現象により接合します。材料(b)は凸部にのみ圧力が加わるため、初期の凹凸形状が崩れてしまいます。材料(a)、材料(b)ともホットプレス後の最終形状は金型とパンチの形状に依存します。

また、圧縮変形中にも金型との摩擦力により中央部と外周部で不均一が生じること、金型材の強度に起因する温度や寸法上に制約をうけることなどから、高温成形ならびに大物製品の製造は困難となります。

このようにHIPの場合ホットプレスと比べ、被処理体に均一に圧力が作用し、加圧後の形状は初期の被処理体の形状と大きく変わることがなく、変わる場合も相似的に収縮することと製品処理上の制約が比較的少ないことが大きな特徴です。この特徴を生かしてしてHIPは種々の分野に応用されています。

図1HIP処理

図1 HIP処理

ホットプレス処理

図2 ホットプレス処理

高圧下でのアルゴンガスなど圧媒ガスの状態

1000℃、98MPaのアルゴンガスでは、密度、粘性係数が各々水の約30%、15%であり、かつ熱膨張係数が大きいので激しい対流が生じやすくなります。この対流作用により、HIP装置では通常の電気炉と比べて熱伝達効率は大きくなります。

高温下でのArガスについて

HIPの利用分野

HIP処理は以下のとおり広範囲に応用されています。

  1. 粉末材料の加圧焼結
  2. 異種材料の拡散接合
  3. 焼結品の残留空孔除去
  4. 鋳造品の内部欠陥除去
  5. 疲労・クリープ部品の再生
  6. 高圧含浸炭素化法

など

応用技術 実用化製品 研究段階の材料
1 粉末材料の加圧焼結 粉末ハイス(ジグ工具類)、Ni基超合金(エンジンタービンディスク)、Ti合金(航空機構造部材)、Cr(ターゲット) Ti-Ni合金、アモルファス金属、Si3N4、SiC
2 拡散接合
(複合材の製造)
核燃料集合体(原子炉)、B繊維-Al合金複合材(スペースシャトル支柱)、各種耐食・耐磨耗合金複合化部品(腐食性ガス用バルブ、圧延用ロール、射出成形機用シリンダなど) Ti-Ni合金、アモルファス金属、Si3N4、SiC
3 焼結品の残留空孔除去 超硬合金(ジグ工具)、Al2O3(切削工具)、Al2O3-TiC(切削工具)、ソフトフェライト(磁気ヘッド)、Si3N4(ベアリング、セラミック構造物) SiC、PSZ、ZnSe
4 鋳造品の内部欠陥除去 Al合金、Ni基超合金(ジェットエンジンタービンブレード)、Ti合金(航空機構造部材)、17-4PH鋼  
5 疲労・クリープ部品の再生 超合金精密鋳造品(ガスタービンブレード)  
6 高圧含浸炭素化法 カーボン複合材  

HIPの処理方法

被処理体は各々の状況に応じた取り扱いが必要になります。もっとも代表的な処理方法として「カプセル法」と「カプセルフリー法」があります。

「カプセル法」は右図に示すように粉末または粉末成形体などの被処理体を、圧媒ガスに対して気密な材料でできたカプセル内に封入し、脱気した後、HIPを行う方法です。

この「カプセル法」を用いれば、通常の焼結では緻密に焼結できないような材料でも高密度化を達成できる利点があるので、粉末材料の加圧焼結にもっともよく採用されています。他に、異種材料の拡散接合や高圧含浸炭素化法にも用いられています。

下の表に、カプセルフリー法を適用する主な対象材料とHIP処理温度・圧力を紹介します。

カプセルフリー法対象材料

対象材料 温度 圧力
粉末ハイス 1,000 ~ 1,200℃ ~ 100MPa
Ni基合金 1,170 ~ 1,280℃ 100 ~ 150MPa
Ti合金 (Ti-6Al-4V) 880 ~ 960℃ ~ 100MPa
Cr 1,200 ~ 1,300℃ ~ 100MPa
Cu合金 1,200 ~ 1,300℃ ~ 100MPa
AL合金 350 ~ 500℃ ~100MPa
超硬合金 (WC-Co系) 1,300 ~ 1,350℃ 30 ~ 100MPa
Ti Ba O3 1,000 ~ 1,200℃ ~ 100MPa
PZT 950 ~ 1,150℃ ~ 100MPa
Ni-Zn-フェライト 1,050 ~ 1,180℃ ~100MPa
Al2O3 1,350 ~ 1,450℃ ~ 100MPa
Y-PSZ(イットリア部分安定化ジルコニア) 1,350 ~ 1,500℃ ~ 100MPa
Si3N4-Al2O3-Y2O3 1,700 ~ 1,800℃ 100 ~ 200MPa

一方、被処理体内部の空孔が表面に連通していない独立した閉塞空孔であれば、HIP処理によりこの空孔は押し潰され、同時に拡散の進行により消滅します。しかし、内部の空孔が表面と連通した開孔であれば、HIP処理しても押し潰されることはなく消滅しません。したがって、内部空孔がすべて閉塞化されている場合、HIPの効果が発揮され、高密度化が図れます。

このような材質はカプセルを使用せずにHIP処理を行うことができ、これを「カプセルフリー法」と呼びます。「カプセルフリー法」は、焼結品の残留空孔の除去、鋳造品の内部欠陥除去および疲労・クリープ部品の再生に用いられます。

HIPの効果

合金の種類によって異なりますが、下の表に示すように、鋳造品にHIP処理を行うと、クリープ破断寿命が1.3~3.5倍向上し、伸び、絞りも大きく改善されます。

出典:G. W. Wasielewski and N. R. Lindblad: Proc. 2nd Int. Conf. Superalloys (1972)
合金 状態 試験条件 寿命 伸び 絞り
温度 応力
IN738 鋳造 1,253K 152MPa 68.4x103sec 11.8% 20.0%
鋳造 + HIP 1,253K 152MPa 189.0x103sec 20.5% 20.6%
Rene77 鋳造 1,253K 152MPa 183.6x103sec 19.4% 37.0%
鋳造 + HIP 1,253K 152MPa 244.8x103sec 22.0% 55.0%
IN792 鋳造 1,143K 310MPa 630.0x103sec 9.2% 6.5%
鋳造 + HIP 1,143K 310MPa 1,018.8x103sec 12.1% 22.0%
Rene80 鋳造 1,143K 310MPa 149.4x103sec 2.5% 2.5%
鋳造 + HIP 1,143K 310MPa 507.6x103sec 11.5% 17.0%

神戸製鋼 HIP装置ラインアップ

中・大型HIP装置

生産用大型装置および取扱いが容易な中型装置です。

標準小型HIP装置

取扱いが容易な標準小型装置です。

Dr.シリーズ

設置場所を選ばない小型研究用HIP装置です。

焼結HIP装置

真空あるいは常圧焼結とHIP処理を連続して行う装置です。

超高温/超高圧HIP装置

圧力1.00GPa級のHIP装置も製作可能です。

その他のHIP装置

ガス圧含浸装置や隔壁HIP装置などのその他のHIP装置です。

金属カプセル脱気封入装置

厚さ100~300μmの金属箔を用いてカプセルを製作する方法です。

化合物半導体単結晶製造装置

高圧垂直ブリッジマン方式を採用した結晶製造装置を開発しました。

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