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No.8 [矯正]

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

圧延工程ではできるだけ歪の少ない板を作るようにコントロールしています。
しかし、平坦度の要求の厳しい用途ではこれだけでは不十分。
そこで必要になるのが元板の歪(ひずみ)を直し平坦な板にする技術、「矯正」です。
歪の仕組みはどうなっているのか、それをどのようにして矯正するのか。
アルミの機械的性質を生かした矯正の技術を解説します。

矯正とは長さの差をそろえること

モンちゃん
最近、アンサー氏のファンが増えているみたいですねえ。アンサー氏の似顔絵を送ってくれた方もいるんですよ。
アンサー氏
私もまだまだ捨てたものではないですな。 皆さんから応援していただいて、これからはますますがんばらねば。
モンちゃん
気合が入ってますね。今回、勉強する「矯正」の技術って私にはチンプンカンプンなんだけど、きっとわかりやすく教えてくれそう。
アンサー氏
まかせてください!矯正とは…。
モンちゃん
えーっと。その前に矯正って何を矯正するんですか。
アンサー氏
モンちゃんたら、そんなことも知らなかったんですか。皆さんに笑われますよ。
モンちゃん
そう言わずに教えてくださいよ。
アンサー氏
矯正とはすなわち「歪(ひずみ)の矯正のこと」ですよ。
モンちゃん
歪って何?
アンサー氏
まったくもう。 今回は全然予習をしてきませんでしたね。素材が微妙に曲がったり、ゆがんでしまった状態を歪と言うんですよ。 歪には大きく分けて平坦度に関連する耳波(図-1)・中伸び(図-2)と板の反りに関連するL反り(カール)とC反り(キャンバー)があります。(図-4)
【図-1】耳波
【図-2】中伸び
【図-3】クォーター歪
【図-4】反り
モンちゃん
いろいろな種類の歪があるんですね。これらの歪の違いは何ですか?
アンサー氏
歪がある状態とは、同一の板上に微妙な長さの差ができている状態です。その長さの差が板のどの部分にできているかによって、歪の種類が違うのです。図-1にある耳波を見てください。これは圧延方向の長さの差に違いがあり、端の部分が伸びてしまっています。この板を縦に切った断面図を見ると、はっきりとその違いがわかります。
モンちゃん
中伸びは図-2のように真ん中の部分が伸びてしまっていることですね。
アンサー氏
そう、この他平坦度に関しては、板の中に伸びている部分が、点在する、クオーター歪という形態もあります。(図‐3)
モンちゃん
では、反りもやはり微妙な長さの差によって生じるってわけですか。
アンサー氏
反りは表裏の長さに違いがあるために起こります。L反りは圧延方向に対して生じたもの、C反りは幅方向に対して生じたものをいいます。(図-4)
モンちゃん
これらは何が原因で起こるんですか。
アンサー氏
例えば圧延を行う場合には、その時に発生する熱などによってロールの中央部分が押されてたわむため、そのままでは中央部よりも両端が伸びた状態になってしまいます。これを修正するために、圧延時にはロールのたわみをコントロールしています。でもロールの間に板が入っていく時の形状の影響や、加工熱によるロールの熱膨張がからみ、完全に平坦な板を得るのは困難です。また加工時以外にも歪の発生する要因はあります。 できあがったコイルを巻き付けて保管しておくと、太鼓状に真ん中がふくらんでしまいます。
この状態だと中央部に強い張力がかかってその部分が伸びてしまい、中伸びが発生します。これを常温クリープといいます。
モンちゃん
歪が生じないように工夫されているけれど、どうしても歪は発生してしまう。それを直すのが矯正なんですね。

歪(ひずみ)を直すのは引っ張る力

アンサー氏
ところで、輪ゴムを引っ張るとどうなりますか。
モンちゃん
ぐーんと伸びます。そして放すとたちまち元にもどってしまいますね。
アンサー氏
金属も引っ張ると伸び、その時の力に比例して伸び率も大きくなります。
モンちゃん
強い力で引っ張れば引っ張るほどたくさん伸びるんですね。
アンサー氏
そして引っ張るのをやめれば、その伸びは元にもどろうとする性質も持っています。ある一定範囲内では3倍の力で引っ張れば、3倍の伸びになります。この比例域をグラフ-1で見ると最初の直線部分で、これをフックの直線と呼んでいます。この直線領域内なら力をかけると伸び、やめると伸び(引張歪)はフックの直線に沿って0へ戻ります。
モンちゃん
でも、金属がゴムのようにいくら引っ張っても元にもどるなら、歪はできないですよね。一定の力以上をかけると元にはもどらなくなるので、伸びてしまう部分ができるんでしょ。
アンサー氏
そうです。グラフでいうとフックの直線域を超えると、歪ができるようになります。例えばグラフ-1の点Aを例にとると、175N/mm2の応力によって1.8%伸びますが、力を取り除くと少しだけ変形がもとにもどり1.3%の歪(点B)ができます。

モンちゃん
点Aと点Bを結んだ直線は、フックの直線と平行になっているんですね。
アンサー氏
さすがモンちゃん、いいところに目を付けましたね。歪ができてしまった部分も、伸びたからといって性質が変わったわけではありません。歪ができている部分もそうでない部分も同じ機械的性質を備えているので、引張応力に対して同様の反応を見せるのです。
モンちゃん
なるほど。
アンサー氏
じゃあ今度は歪の矯正の原理を説明しましょう。歪の性質は微妙な長さの差、ということでした。矯正するためには短い部分を伸ばして長さをそろえてあげればいいわけです。
モンちゃん
でも短い部分だけ伸ばすのは難しそう。
アンサー氏
そう。そんなことは不可能なので、歪のある部分とない部分の両方に適当な力をかけて引っ張り、意図的にあらたな歪を生じさせるのです。グラフ-2を見てください。歪のない部分の金属の変形が線−イ、歪のある部分が線一口で表されています。最初の歪みは△ε0表される分の長さの差がありますが、引っ張った後は△εresで表される長さの差となります。
モンちゃん
引っ張ると両部分とも伸びて、歪がぐんと縮まっていますね。ある程度以上の力をかけると歪ができる金属の性質を逆手に利用しているんだ。でもあんまり引っ張りすぎると切れちゃうんでしょ。
アンサー氏
もちろん引張応力は適当な力に調整することが必要です。力が小さ過ぎると、長さが縮まらないですからね。歪の幅や高さを考慮して、歪より大きくしかも破断しない程度の応力を加えます。

引張応力を活用して、効果的に矯正を行う設備とは?

モンちゃん
歪を矯正するためには引張応力を利用することはわかったけど、実際にはどんな設備で行うんですか。
アンサー氏
まずはストレッチャー。これは製品の両端から引っ張り、引っ張る力を単純に活用する設備です。(図-5)

【図-5】ストレッチャー

モンちゃん
でも簡単に引っ張る、といっても強度が高くて、板厚が厚く、幅が広いといった製品を引っ張るには相当の力が、必要になるでしょう。
アンサー氏
そうです。矯正のためには、50tや100tといったたいへんな力が必要になります。それでは膨大な設備費がかかってしまいます。またコイルのような長い製品はストレッチャーで矯正することはできません。
モンちゃん
叩いたり、熱処理したりして矯正するのかな。
アンサー氏
そういった方法はあまり精度がでないので、小さな力でも大きな力で引っ張るのと同じ効果のある方法で矯正します。それが曲げによる矯正です。
モンちゃん
曲げることで引張応力がかかるということですか。
アンサー氏
そう、曲げによる矯正は図-6のようにロールを用います。ロールに巻き付けると、板の外側は引張応力がかかり、次に逆方向に曲げ反対側にも引張応力をかけることで板全体の歪を矯正することができるのです。

【図-6】ロールを使った曲げ補正

モンちゃん
ロールを繰り返し使えば、単純に引っ張るよりも少ない力で矯正が行えるんですね。
アンサー氏
ロールを使う矯正設備はローラーレベラーといいます。(図-7)上下に配置されたロールの間を板が通過する時に曲げの力が働いて、効果的に歪を矯正します。ロールの中央部に力が強くかかるように設定すれば中伸びの矯正に有効だし、反対に両端にかかる力を強くすれば耳波を直すことができます。

【図-7】ロールレベラー(曲げ補正)

モンちゃん
上下にたくさん付いているロールによって、大きな力を使わなくても、徐々に歪を直していくことができるんですね。
アンサー氏
ロールの数を多くすることによって反りも直すことができるんですよ。
モンちゃん
ローラーレベラーって、なかなかスグレモノですね。

より精度の高い矯正を行うテンションレべラー

アンサー氏
最新の矯正設備としては、引っ張りと曲げの両方を利用したテンションレベラーがあります。(図-8)

【図-8】テンションレベラー(引張矯正+曲げ補正)

モンちゃん
ふたつの力を合わせることで、より効率的に矯正を行おうってわけですね。
アンサー氏
板が薄くなればなるほど、矯正設備に用いるロール径は小さくなくてはいけないんです。でもロール径を小さくするには限度があるでしょう。ごく薄い板を矯正するためにはローラーレベラーでは対応できない場合もあります。そこでテンションレベラーを使います。アルミ合金の場合だとローラーレベラーで矯正できるのは、0.2mmの薄板が限界。銅合金は強度が高いので0.3mmくらいまでです。
モンちゃん
じゃあキャン材などはテンションレベラーで矯正されるんですか。
アンサー氏
そうですね。キャン材をはじめとして、精度が要求される印刷に用いるPS板用の薄板や、リードフレーム用の銅板などはテンションレベラーによって綿密に矯正されます。テンションレベラーは、板の中まで変形させることができるので薄板の矯正に効果的なんです。
モンちゃん
残留応力の問題にも対応できますね。
アンサー氏
なかなかスルドイですね。残留応力が作用すると、板を削ったり切ったりすると反ったり曲がったりしてしまいますよね。テンションレベラーのロール押込量を調整することによって、応力を細分化することができるので、これらを防ぐことができます。
モンちゃん
それにテンションレベラーは、単純に引っ張るよりも小さな力で矯正できるんでしょう。
アンサー氏
テンションレベラーを使うと、単純に引っ張る場合の1/4くらいの力でいいんですよ。
モンちゃん
テンションレベラーによって、薄い板でも小さな力で、より精巧に矯正することができるようになったんですね。
アンサー氏
素材にもますます精度が求められるようになっていますよね。ちょっとした歪が、最終製品に大きな影響を与えてしまうことも少なくありません。
モンちゃん
矯正の技術によって、新しい時代に対応する、精度の高い素材が生まれることになるんですね。