神戸製鋼HOME > 素形材事業 > やさしい技術 > やさしい技術/アルミ編 > No.10 [アルミの押出]

No.10 [アルミの押出]

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

アルミ押出加工

 

モンちゃんとアンサー氏

押出は、加工しやすいアルミの特性を、
十分に生かせる加工方法。
一度の押出によって、
複雑な形状の製品を作り出すことが可能です。
アルミの押出はどのような方法で行われ、
どのような技術が用いられるのか解説します。

アルミの特性を生かす押出技術

モンちゃん
アルミは押出加工に適した素材なんですよね。
アンサー氏
そうですよ。現在の押出技術の基礎となったのは、19世紀の終わりに黄銅とその他の合金においてアレクサンダー・ディックが確立した方法。水平プレスを用いて、熱間加工に適した温度に加熱したビレットをコンテナーに入れ、 押し出すものです。
モンちゃん
なるほど、要はトコロテンと同じですね。
アンサー氏
トコロテンでもわかるように、あまり硬いものは押出には適していません。その点アルミは加工が容易な金属。ディックが確立した方法がアルミに応用され、1930~1940年にヨーロッパで航空機用アルミ合金の製造が、可能になりました。押出技術は、アルミに適用されることによって大きく発展してきたのです。
モンちゃん
押出によってどんな製品が作られるんですか。
アンサー氏
現在では、建築やOA機器の材料、自動車、船舶、航空機部品など多種多様な分野で使用されています。終戦前までは大半が航空機用構造材として生産されていましたが、1950年頃住宅やビル用 サッシブームを契機に市場を拡大してきました。安価に複雑で薄肉、しかも長尺の製品を作ることができるため、鉄道車両用構造材料としても 大活躍しています。またバーやパイプも押出によって作られます。
モンちゃん
押出のプロセスは、トコロテンと同じように先端に穴のあいた型 (ダイス)を設置しておき、材料に力をかけて押し出すと、いろいろ形ができあがるというものなんですね。
アンサー氏
押出には直接法、間接法、静水圧法そしてコンフォーム法などがあります。このうちアルミの押出では、水平横型プレスによる熱間直接法と間接法がよく用いられます。
モンちゃん
直接法っていうのが、いわゆるトコロテン式で、押出方向に素材を押し出す方法ですね。
アンサー氏
直接法は、適温に加熱されたビレットを耐圧容器のコンテナに挿入し、 ステムで押盤を介してダイス方向に圧縮する方法。圧縮されたビレットはダイス孔を通過して所定の型に押出されます。 この時のビレットの温度は400℃程度で、おもちのような状態なんですよ。 (図-1<a>)

【図-1】 直接押出法

モンちゃん
いくらおもちのようになっているといっても、アルミ合金を押出すには 相当の圧力がかかるはず。その方法だと押出時にはコンテナとビレットの間に摩擦がおこるし、コンテナ内のすべてのビレットを 圧縮するためにはずいぶんと力がいりますね。 (図-1<b>)
アンサー氏
そのため直接押出法では、ビレット内に不均一なメタルフローがおこりやすくなります。 (図-1<c><d>)
モンちゃん
間接法では不均一なメタルフローがおこりにくいよう、工夫されているのかな。
アンサー氏
間接法というのは、コンテナ内をダイスが移動する仕組み。(図-2<a>) そのためコンテナとビレットの間には摩擦が生じないので、押出圧力は30% 省力され、(図-2<b>)メタルフローも直接法に比べ均一に近くなります。(図-2<c>)

【図-2】 間接押出法

モンちゃん
直接法だと、ビレットが長ければ長いほど押出圧力が上がりメタルフローが不均 一になるけれど、間接法なら圧力もメタルフローも長さの影響は受けないんですね。
アンサー氏
直接法はコンテナの外部にダイスを設置しますが、間接法はコンテナ内に ダイスを入れるため同程度の設備だとできあがる製品が小さくなってしまいます。 また直接法のメタルフローチャートを見てわかるとおり、直接法では最後までビレット表面の酸化膜層は押出されず「押しカス」として残るためビレット表面の面削は不要。 間接法では表面層も押し出されてしまうので、表面の面削が必要になります。
モンちゃん
それぞれにメリットがあるんですね。
アンサー氏
特長を生かして、製品によって製法もだいたい分かれていて、形材は 直接法、棒は間接法によって製造されることが多いんです。
モンちゃん
静水圧法は、どんな方法?
アンサー氏
静水圧法は、押出プロセスの理想的な形だといわれます。(図-3<a>) コンテナとビレットの間に潤滑材を入れ、潤滑材の中にビレットが浮いている状態を作ります。 摩擦も軽減され、メタルフローも均一に近くなります。(図-3<b><c>)  しかし設備が複雑となり潤滑剤の除去なども必要となってくるため、一般にアルミの押出には使用されていません。

【図-3】 静水圧押出法

モンちゃん
硬い材料など、加工が難しいものなどに使用されるんですね。
アンサー氏
コンフォーム法はこれまでの方法とは違い、新しい変形プロセスによって 押出される方法。(図-4) 材料は加熱された回転ホイールの摩擦によってダイスに送られ、変形します。 エアコン用形材など小型で精密な形材の製造に適しています。

【図-4】 コンフォーム押出法

形材に適した製造方法

モンちゃん
押出形材にはいろいろな形のものがありますね。 形状によって製造法に違いはあるんですか。
アンサー氏
アルミの押出では実に複雑な断面の形材を作り出すことも可能です。 その基本的な形状から中実のソリッド、中空のホロー、一部が切れているセミホローの3つに 分けられます。(図-5) ダイスは形材によって異なり、ソリッドにはソリッドダイ (図-6〈a>)、ホローとセミホローにはホローダイ(図-6〈b〉)を使います。
【図-5】押出形材の分類
【図-6】ダイスの種類
モンちゃん
ホローダイは複雑そうな仕組みですね。
アンサー氏
ホローダイはフロントダイとバックダイを組み合わせた合成ダイス。 メタルフローが一度分断され、その後の空間で一体化されて押し出されます。 ポートホールダイス、ブリッジダイス、スパイダーダイスなどの種類があります。
モンちゃん
メタルフローが複雑になっているみたい。 これだと柔らかく流れのよい合金でないとうまく作れないんじゃない?
アンサー氏
モンちゃん が言ったとおり、ホローダイの使用に適した合金と、 そうでないものがあります。 分断して進入した後うまく一体化できる溶着性のよい合金でないと使用できません。 溶着性の良い純アルミ、3000系、6000系の合金の形状はホローダイが使えますが2000系、 4000系、7000系の合金は難しいです。
モンちゃん
パイプなどはどうするの?
アンサー氏
パイプは一般の中空の形材と同様のプロセスで作る方法の他、打ち抜いて作る方法があります。
モンちゃん
打ち抜き式っていうのは?
アンサー氏
マンドレルと呼ばれる心金を使ってビレットの中心を打ち抜く方法です。 マンドレルの先端が押出中一定の位置にあるものを、フィックスマンドレル法といいます。 (図7)

【図-7】フィックスマンドレル法

モンちゃん
ビレットを打ち抜くには相当の圧力が必要となりそうですね。
アンサー氏
そのためにあらかじめ穴のあいたビレットを使う場合もあります。 その他、マンドレルが押出中前進する方法をフローティングマンドレル法といいます。 この方法ではダイスと前進するマンドレルのすきまからアルミが出てパイプ状のものを作るんです。
モンちゃん
打ち抜き法を使うのはどんな場合なの。
アンサー氏
打ち抜き法は2000系、5000系、7000系など硬い材料に用いられ、あまり 薄肉のパイプには適していません。 3003、6063等やわらかい材料ではポートホールダイスを使う方法が多くなっています。

精密なダイスの設計が、良品を生む

モンちゃん
押出技術をうまく使いこなすためには、いろいろなポイントがありそう ですね。
アンサー氏
まず基本となる合金が、押出に適したものであること。 そしてダイスの形、温度、圧力、速度などにおいて最適な条件を整えることが必要です。 温度も高すぎると合金の性質を損なってしまいますが、ビレットによってその適温はさまざま。 押出速度が速すぎると、製品が割れてしまったり。
モンちゃん
最適な条件で良質のものを生み出すには、蓄積されたノウハウが、 必要になるんですね。
アンサー氏
中でもダイスは押出の鍵を握る重要な部分です。 ダイス孔の位置、ダイスの位置、形状寸法はもちろんのこと、圧力によるたわみや変形、 メタルフローを制御するベアリング長さなどを考慮して設計されます。
モンちゃん
ダイスによってメタルフローまで制御するんですか。
アンサー氏
ベアリング長さ、ダイスの角度、孔の配置などでメタルフローを調節するんです。
モンちゃん
ダイスの孔の配置もただ穴を開ければいいってもんじゃないんですね。
アンサー氏
ダイス孔の配置は多様ですが、メタルフローや効率性を考えて決められます。 神戸製鋼では、ダイス設計の専門スタッフを充実させ、押出の要とも言えるダイスの設計に力を注いでいます。
モンちゃん
そうした中から「のぞみ」の部材などの最新の製品が生まれてきたのかな。
アンサー氏
鉄道車両などに使用される大型形材は、9500トンというたいへん大きな プレス能力を備えた押出機によって製造されます。 一般にウインドーサッシなどは1500~3000トン級の押出機で作られるわけですから、 これが相当大型の設備であることがわかるでしょう。
モンちゃん
形材の大きさに比例して、設備も大きくなるんだ。
アンサー氏
設備は大きくなればなるほど、温度や速度の管理が難しくなります。 それを的確に調整することが大切です。 また鉄道車両部材など薄肉広幅形材を製造する際には、角形コンテナを使うなどの工夫もされ 、薄肉化をはかっているんですよ。
モンちゃん
アルミには欠かせない押出技術。今後もさまざまな分野で活躍してくれそうですね。