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No.9 [剪断加工]

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

今回は、“剪断加工”についてアンサー氏に質問、また質問と積極的に聞いています。
では、早速始めましょう。

ハサミも包丁も

モンちゃん
剪断という言葉を辞書で引くと、はさみ切ることと出ています。 そうすると私たちがハサミやカッターで切るのも剪断と考えていいんでしょうか。
アンサー氏
そうなんです。剪断加工とは、力を加えて2つ以上に分離する加工方法のことです。押切りカッターやハサミ、包丁など剪断加工に使うものを剪断機といいます。
モンちゃん
やっぱり!では、剪断加工にはどんな種類があるんですか。
アンサー氏
工場にあるものでは、大きく3つに分けられます。まず第1に「シャー」ですが、これは金属の板を上下の刃で切断するもので、例えば熱間圧延機のラインで流れてきたアルミのスラブの最初と最後の不良部分をカットするものが代表です。2番目に「ブランキングプレス」。ディスク材などのように、打ち抜くことですね。そして3番目「スリッター」は、回転する2つのカッターが材料を切っていくわけです。さらにそれぞれ複数の種類があって、製品に含わせて使い分けられるのです。

加工法の分類

モンちゃん
製品に合わせてというのは、どういうことですか。
アンサー氏
例えばシャーなら、単に2つに分けるという目的ですね。わかりやすくというと包丁でネギを切るのと同様です。
モンちゃん
なるほど、本当にわかりやすい例え方ですね。
アンサー氏
プレスの場合は、丸い形を打ち抜く、あるいはある形の製品を作るということ。クッキーの生地を型抜きするようなものといえばいいでしょうか。スリッターならコイルなどを続けて切るというように、目的に合わせて剪断機を変えるわけです。
モンちゃん
剪断加工する金属によって切り方が違うなどということはありますか。
アンサー氏
それはありません。アルミのプレスもあるし、スチールのプレスもあるといった具合です。ただ金属によって、剪断機の刃を変えることはあります。やわらかい材料なら木の工具でできるでしょう。金属を切る工具は、ほとんどダイス鋼、あるいは超硬合金と呼ばれてるタングステンカーバイトが使われています。さらに材料の切り口面に接する部分にだけチタンをコーティングして硬度を上げている工具なども使われます。簡単にいえば材料が硬くなればなるほど工具もより硬くなるということ。ダイアモンドを取りつけたカッターなどもありますからね。

大切なのは隙間

モンちゃん
剪断加工の定義や分類についてはわかってきました。それでは剪断加工の技術について教えてください。
アンサー氏
剪断加工の全てに共通していることですが、下の刃と上の刃の隙間、これがもっとも大切な条件の一つです。この隙間をクリアランスといいます。クリアランスをどんどん縮めていくと刃と刃がぶつかって材料を切ることができませんね。刃が割れてしまうかもしれません。逆に開きすぎているとだれてしまいます。そこで、適正クリアランスを設定するわけです。一般に板厚の5~6%くらいといわれますが、数値は材料によって、また同じ材料でも厚みによっても変わってくるんですよ。

モンちゃん
剪断工具の名称は図の通りですね。

剪断工具名称

アンサー氏
そう、ポンチとダイスの間に材料があって、ポンチが上から下りてきて剪断するわけです。その際、材料が跳ね上がらないようにストッパーで押えておきます。最初に刃が材料にグッとくいこんだ時できるのが“だれ”といい、その後スパッと切れた部分を剪断面といいます。さらにずっと進むとクラックが入ります。ある程度の深さまでいくと自然に切れてしまうんですね。その部分を破断面といいます。それで上からの切り口と下からの切り口がうまく合えばいいのですが、クリアランスが大きすぎると切れ目が出会わないんですね。
モンちゃん
適切に剪断するには、刃を降ろす速度も関係しますか。
アンサー氏
ゆっくりより速いほうが、材料が硬くなった状態というか、だれる暇がない状態にもっていけるといったらいいでしょうね。もっともアルミのスラブなどを剪断する場合は、厚いのでゆっくりじわっと切り、またキャン材のフタのプレスなどはl分間に180回も剪断することになります。
モンちゃん
なるほど。ところで材木などを切る時、ノコギリに木のくずがつきますね。それと同じようなことが金属でも起きるんですか。
アンサー氏
刃に材料の切り粉がつくことはありますね。それに切る時は加工するわけですから、熱が発生します。そのため刃に潤滑剤を添加するのです。潤滑剤が切り粉を落とし、冷却の役目もするわけです。もちろん潤滑剤がついてはいけない製品には、そうならないように添加するんですよ。
モンちゃん
のり巻を切る時に、くっつかないように包丁を水で濡らすのと同じですね。
アンサー氏
なるほど(笑)。製品の精度に関してはだれ、破断面、かえりなどが少なくて剪断面が多いことが望ましいのです。そのために適正クリアランスはもちろん上と下の刃間の深み、つまりラップ量や潤滑油の条件があります。それからダイスのコーナーの形状も重要で、丸みのつけ方も調整します。押えもどの位置にどのくらいの力で押えるのがベストか研究されています。かえりを0にするというのが、最近の傾向です。被剪断材の厚みの一部を故意に切らずに手前で残し、次にローラーでしごくことによって、かえりが出ないようにするものです。
モンちゃん
工具も摩耗したりするんですか。
アンサー氏
硬い工具でもやはり寿命はありますね。ぺーパーで磨いたり、ある程度の使用期間が過ぎたら取り替えます。

さらに進歩するために

モンちゃん
先ほどお話に出た剪断方法の他に新しい技術などの開発はされているんですか。またさらに技術を革新するためにどんなことに取り組んでいるのでしょう。
アンサー氏
レーザーを使って材料を切る方法があります。レーザーで材料を溶かすわけです。ただ、それは剪断ではなく、溶断と呼ばれていますので、厳密にいえば同じものとして分類することはできないかもしれません。剪断加工で特にこれから目指していることは、自動化、再現性ということですね。つまり、Aさんがセットした数値がもっとも適切であったなら、それをBさんがやってもCさんがスタートさせても同様に再現することができるようにするのです。もちろん、適正クリアランスを初めとする数々の加工条件についても、さらに研究が進められていくことでしょう。