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No.16 [表面処理] その1

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

こんにちは。
“難しい技術”を“やさしい技術”に変えてお届けするこのページ
今回はアルミ合金の表面処理技術について取り上げてみました。
それは、優れたアルミ材料により優れた機能性をもたせるために行う技術ともいうべきものです。
さあ、聞きたがりやのモンちゃんに大活躍してもらい、私たちも読み終わる頃には“なーんだ、そういうことだったの”と理解してしまいましょう。

優れた素材をよりすばらしく…

モンちゃん
表面処理、表面処理!?
わかった、つまり表面に何か処理を施すということじゃないですか。
簡単、簡単。
アンサー氏
そんなこと当然でしょう(と言ったままアキレ顔)、まったく。ふざけてないでお話しを進めなければいけませんよ。
モンちゃん
すみません。
アンサー氏
ウオッホン。表面処理そのものの種類はとても数多いんですね。例えばキャン材ならキャン材、建材なら建材などと用途にあわせた表面処理をしていくのです。つまり、用途の数だけ表面処理の方法があるともいえますね。ですから整理するために、今回は2つに分けてお話しを進めましょう。ひとつが成形加工前に表面処理を行うもの(プレコート)。もうひとつが成形加工後に表面処理を行うもの(アフターコート)です。成形加工を基準に分けましたので、担当メーカーを考えると、プレコートが主に素材メーカー、アフターコートが主に成形メーカーということになりますね。アフターコートに関しては次回でお話しすることとして、今回はプレコートについて取り上げてみようと思います。
モンちゃん
では最初にどうして表面処理をするのか、目的から教えてください。
アンサー氏
一番には素材表面の耐食性、塗膜密着性などを向上させるためのものです。つまり、素材により優れた機能性をもたせるということなんです。表面処理のレベルは用途により様々に変化します。ただ素材メーカーで表面処理を行った後そのまま成形されるアルミ合金材料もあるし、また素材メーカーでプレコートが行われ、さらに成形メーカーで最終製品にあった表面処理が施される場合もあります。
モンちゃん
わかった。きれいなものはより美しく機能的に、そうでないものもそれなり以上に美しく機能的にするということですね。
アンサー氏
またふざけてる。
モンちゃん
でも表面処理のキーワードは、“より機能的に”ということですね。
アンサー氏
そういうことです。“より機能的に”をおさえて素材メーカーで行われるプレコートについて考えていきましょう。ここでの表面処理は大きく分けて図-Aで示されているように3種類あります。まず①の脱脂・洗浄という処理について。アルミは大気中に出しておくと保護性の強い自然酸化皮膜を生成します。この自然酸化皮膜や素材メーカーが圧延していく工程で使ういろいろな圧延油を除去していくことが脱脂・洗浄です。エッチングを行うこともあります。また工程として脱脂イコール洗浄の場合もありますが、単に脱脂のみを行うこともあります。薬剤でコントロールするわけですね。もちろんお客様の要求に合わせて、脱脂も洗浄もなく無処理で出荷されるアルミ圧延素材もたくさんあるのです。

図-A

モンちゃん
ちょうど私たちが汗や油で汚れた顔を洗うみたいですね。
アンサー氏
そうそう、きれいに洗っておかないとその後にするお化粧のノリも悪いでしょう。
モンちゃん
ふざけているのは私だけじゃないと思うんですが…。
アンサー氏
オッホン。次は②の反応型化成処理と③の塗布型化成処理についてです。化成処理は、化学反応によって材料の表面に皮膜を生成させます。最大皮膜は2μm程度で、皮膜厚を必要とする場合はあまり適していませんが、複雑な形状の製品でも表面を一様に処理できるメリットもあります。ほとんどが耐食性の向上と塗装の密着性の向上の下地処理といえるでしょう。現在皮膜性能も良好で、工業的に採用されているのはクロム酸塩法やリン酸クロム酸塩法などですが、一方でこれらは廃液処理などの公害問題も含んでいます。ノンクロメート系の薬剤も開発されてきていますが、皮膜性能はまだ従来のクロメートのレベルに達していないのが現状です。また、以上のような一般的な表面処理とは異なります。素材表面を“より機能的に”にという意味ではプレコートにもう一種類あります。
モンちゃん
どのような方法ですか。
アンサー氏
薬剤ではなく、加工による方法です。例えばダル加工です。板材表面上へ規則的に微細な窪みをつけ、鮮映性に効果のある平滑面を作ります。また精密切削加工では、鏡のような表面を作りだします。いずれも素材にない機能を付加するのではなく、素材のもつ特性をさらに引き出す処理といえますね。それに成形加工後ではできない表面処理ですね。

表-1 アルミニウム表面処理の目的と役割

お客様の要望に合わせて

モンちゃん
それにしても、用途別に違った表面処理が行われていくわけですか。
アンサー氏
そうです。キャン材を例にとってお話ししますと、圧延したら脱脂,洗浄を経て表面活性化のためにエッチング、化成処理へと進んでいきます。なぜ表面の活性化(エッチング)をしなければならないかというと、圧延の工程でアルミの表面に酸化皮膜がついたまま圧延機から出てくるからなんです。それを化成処理の直前でとってあげないと、化成処理をしても均一で清浄な皮膜が生成しないからです。
モンちゃん
均一で清浄な表面をつくる。つまりお化粧がうまくノルようにいろいろな工程があるということ…。なんだか私のお姉さんの話しみたいだな。
アンサー氏
もう、それから離れて!アルミの場合はもともと美しく優れた素材をより優れたものにするんですからね。それに一度表面処理をしたら、顔の化粧のように簡単に崩れることはないのですからね。
モンちゃん
なるほど。
アンサー氏
アルミ合金の素材メーカーとして、お客様の要望に合わせてプレコートしているとお話ししましたが、素材によっては素材メーカーの表面処理が最終段階のものもあるわけです。つまり、お客様は加工だけ行うということです。それには、例えば数年前から人気が高まっているプレコートフィン材があります。熱交換器ですと、家庭用エアコンの場合は静かで臭いが少なく、小さな電力で熱交換の機能を発揮するフィン材が要求されるわけです。そこで親水性が高く、耐食性に優れているなどいろいろな特性に合うような処理をしていきます。
モンちゃん
同じフィン材でも違った要求をされることもあるのですか。
アンサー氏
あります。例えば野外で使用するから耐用年数が長いほうがいい。海の近くに置くので腐食に強い処理のほうがいい、という場合などですね。それらのケースに合わせた薬剤を用いて表面処理をしていくのです。
モンちゃん
親水性をよくするためには、いろいろな方法があるのですか。
アンサー氏
今の技術では、けい酸ソーダ系の液にいろいろな添加剤をいれて表面処理をします。けい酸ソーダは非常に水に親しみやすいんですね。たださらに高い親水性を得ようとするなら、けい酸ソーダも薬剤メーカーごとに独自にもっているノウハウが用いられているので、少しづつ性質が違っています。また、最近は樹脂で親水性を得る技術も急速に進歩しています。
モンちゃん
フィン材を素材メーカーでプレコートしておいたほうが、その後の加工がしやすいからですか。
アンサー氏
そうですね。従来は組み立てて銅管を通した後、浸漬法出表面に皮膜を付けていたのですが、そのような煩雑な工程から板の状態で表面処理することによって開放されるわけです。
モンちゃん
プレコートのフィン材は、素材メーカーで行う表面処理の図-Aのどの方法にあてはまるのでしょう。
アンサー氏
①②③経由の脱脂・洗浄、反応型化成処理をした後に塗布型化成処理することになりますね。反応型化成処理と塗布型化成処理の一番違うところをいいましょう。塗布型は薬液を塗るために必要な分量だけ用意すればいいのです。反応型化成処理は薬液が素材の表面に当たってできあがる方法ですから、表面に残っている余分な薬剤を洗い流さなければなりません。つまり廃液処理が、必要になってくるわけです。

表-2 化成皮膜の機能と用途例

プレコート化が進む

モンちゃん
例えば耐食性とか塗装の密着性とかお客様に要求される機能も複数になると、表面処理もいっそう難しくなるような気がします。
アンサー氏
だから素材の表面もいろいろな組み合わせで一層にしたり、二層三層になったりします。だいたい一層目が耐食性と密着性のための被膜になります。その上面に塗装をしたりしますので、より密着させるためです。二層目三層目はいろいろな場合があるので、いちがいにこうとはいえません。
モンちゃん
キャンにはキャン材、自動車には自動車材と、最終製品に適したアルミ合金が作られるわけですから、理想的には表面処理をしないでもいろいろな特性が完壁に得られるといいと思うのですが…。
アンサー氏
しかし、どの材料にもいろいろな加工がされるわけですし、またどの製品も使用されるあらゆる条件のもとで高い性能を維持していかなければいけないのですから、表面処理をしてよりすばらしい素材にしなければいけないのです。
モンちゃん
わかりました。そうするとプレコートはこれからますます増えていくでしょうね。
アンサー氏
そうですね。一番よい例が先ほどもお話しにでたフィン材です。昔は無処理で出していたのが、プレコートフィン材をという要求が増えてきています。将来は全部がそうなるかもしれませんよ。もちろん、フィン材以外もプレコート化が進んでいるものは多くあります。
モンちゃん
現在いろいろな分野でアルミのリサイクルが進んでいますが、例えばアルミ缶などを再利用する場合は表面処理によってできた被膜はどうなるのですか。
アンサー氏
それはこれからの課題のひとつですね。技術的な問題だけでなく、コストや物流などのシステムも含めて考えていかなければいけないでしょう。