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No.17 [表面処理] その2

(やさしい技術読本 1997年3月発行)

モンちゃんとアンサー氏

皆さん、お元気ですか。
澄んだ青空、心地よい風の秋は、誰でも なんとなく読書したり勉強したくなる季節です。
もっとも一年中熱心に勉強している(?)モンちゃんは、 今回も頭の回転が絶好調。
難しいかなと思っていた表面処理技術の PART2に果敢にトライ。
楽しく解説していきますので、 皆さんも早速読んでくださいね。

要するに陽極酸化法とは?

モンちゃん
表面処理その1では、プレコートのお話を中心にしていただきました。その中で表面処理は“より機能的に”という役割を演じているとのことでしたけれど、今日はその先、アフターコートについてですね。よろしくお願いします。
アンサー氏
なんか前回と違って今回は真面目で調子が狂ってしまうなあ。却って気持ちが悪い。
モンちゃん
えっ?いま何かおっしゃいました?
アンサー氏
いいや、別に。独り言独り言。まずですね、アルミニウム合金の表面処理として広く用いられているのが、陽極酸化処理法です。
モンちゃん
やはりアルミニウム合金の表面処理の代表格といえば陽極酸化処理法ですよね。ところで、陽極酸化ってどういうことですか。初歩的な質問のようで恐縮ですが、よろしくお願いします。
アンサー氏
あのですね、電解液の中で陽極をアルミにもってきます。電気を流すためには対極が必要です。今までは、鉛がよく使われてきましたが、最近は環境面の配慮から、アルミニウム、炭素が使われるようになってきました。ここで起きる反応については、水の電気分解を考えてもらってもかまいません。陽極とは、酸化を起こさせる際に使う電極のことです。つまりアルミの表面に、均一な酸化皮膜を人工的に生成させるわけです。
モンちゃん
どうして陽極酸化法がよく使われているのでしょう。
アンサー氏
安定性も高く、硬くて耐食性、耐摩耗性に優れた表面処理ができるからなんです。有機物ではなく無機物ですから、紫外線による劣化に強いのも大きな利点ですね。陽極酸化法の中にもいろいろな種類がありますが、まず陽極酸化法で形成されるアルミナセルの構造の図を見てください。斜線の部分はアルミです。aの部分はバリアー層という緻密な層で、bの部分は孔でその直径は電解液の種類によって変化します。バリヤー層だけしかないものもあります。そういう陽極酸化には高純度のアルミを用い、酸化被膜を誘電体として使い、電解コンデンサーとして使われています。ですから陽極酸化は孔のあるタイプ、ないタイプに大きく分けられます。

硫酸水溶液の陽極酸化

モンちゃん
電解液に使われるのは硫酸が多いですか。
アンサー氏
実用的な製品はほとんどそうですね。その他にクロム酸などは、航空機など特に耐食性を重視するアルミ材料に用いられます。リン酸は孔の直径が大きくなるので、その孔に接着剤を入れて接着下地として使ったりすることもあります。
モンちゃん
そういう場合、孔は大きければ大きいほうがいいような気がしますが…。
アンサー氏
接着剤によって適当な孔のサイズがあります。また孔を閉じないと、耐食性もあまりよくありません。そこで封孔処理といって、沸騰水や水蒸気中の加熱によりアルミナ(酸化皮膜)の体積を大きくして孔を閉じる処理をするのです。孔に樹脂を詰めたりすることもありますよ。

アルミナセルの構造

モンちゃん
耐食性、耐光性、耐摩耗性など、陽極酸化はいろいろな利点を持つ表面処理法ということですが、例えば用途によってこの製品では耐摩耗性だけをもっと上げたいということもできるといいですよね。
アンサー氏
できますよ。電解液、温度、電圧などいろいろな電解の条件をコントロールしていくことによって、例えばより硬く厚い酸化皮膜をつけたりすることもできるのです。ただ厚い皮膜をつけるには処理時間が長くかかるので、量産的に処理される用途にはむかないといえるでしょう。もっとも印刷版のような薄いものだったら量産でも大丈夫です。一部の建材でも、コイルで連続的に陽極酸化しているものもあります。本質的には、ある程度加工済みのものを処理する方法(アフターコート)ですね。

 
モンちゃん
より硬くするには、具体的にどうするのですか。
アンサー氏
一般的には電解温度を下げます。通常は20℃ですが、5℃や0℃にするのです。また液の組成も硫酸だけでなく有機酸を加えるなどします。ただ硬くなるということは、逆にその分だけ加工性は落ちるという短所があります。成形後に処理する場合でも、酸化皮膜はアルミニウム面に対し直角方向へ生成しますからシャープな角にはつけるのが難しいですね。

ちゃんと着色!

モンちゃん
陽極酸化法で着色もできるんでしたね。
アンサー氏
はい。色をつける方法は3つあります。1つめは陽極酸化するだけで色がつく、自然発色と呼ばれるものです。これは素材の中の合金元素が、陽極酸化の時に酸化されずに皮膜に塗り込められて黒い色になるものです。

自然発色

モンちゃん
それでは、ひょっとして添加元素や電解液などの微妙な条件の変化で色が違うということもあるんじゃないでしょうか。
アンサー氏
そうです。いずれにしても陽極酸化をすると着干の色はついてきますが、製造履歴のごくわずかな違いで、違った色になるということがあります。ですから大きなビルの外壁パネルなどでは色合わせもしなければなりません。また、積極的に例えば真っ黒にしたければシリコンを加えるとか、器物でグレーにしたいと思えばそうつくることができます。しかし、多少黄色味や青味がかるという程度で、この場合は白からグレー、黒とほとんど無彩色ですね。
モンちゃん
ふうん。陽極酸化しただけで自然に色がつくなんて、なんだかおもしろいですね。
アンサー氏
2つめは二次電解発色。これは先ほども出たように、陽極酸化で皮膜をつくってその孔の中に金属塩を析出させ、膜厚が適当なところで色を調整するというものです。例えばニッケルを孔の中で析出させ、これを光を通してみると黄色~ブロンズ色に見えるんですね。この方法では完全に皮膜の中に分散しているのではなく、孔に析出させているだけですので、封孔処理などを行い耐食性をよくします。
二次電解発色
モンちゃん
なるほど。思いもかけない方法で着色というのは行われるものなんですね。何かで塗るのだと思っていましたから。
アンサー氏
3つめは一番納得する方法かも知れませんよ。いろいろと面倒なことはせずに、染料の中に漬けるんです。染料が孔の中に入ってきたら、封孔処理をして出にくくするというわけです。これならいろいろな色がつくれて便利ですね。ただし紫外線によって色褪せてしまうことがあるので、ほとんどがお鍋などの調理器具を始めとする屋内で使われる器物に集中しています。
モンちゃん
そうすると用途によって着色の仕方もある程度決まってくるといえるようですね。
アンサー氏
やはり自然発色の場合は建材が多いですね。特にビルの外板など長期間の信頼性が必要なものは自然発色です。メンテナンスが容易な家庭用のアルミ製品は、二次電解発色でしょう。そして屋内の器物は染料による着色ですね。紫外線を気にしなくてよいし、色の好みもいろいろに分かれる製品ですからね。

何を塗るかで全然違う

モンちゃん
輸送機、まず自動車のボディの表面処理はどうするんですか。私、乗り物好きだから興味あるんです。
アンサー氏
焼付塗装、あるいは電着塗装ですね。電着塗装というのは、電圧をかけて帯電させた粒子を析出させる方法です。電着塗装が一番進んでいるのは、自動車と家電製品ではないでしょうか。大量生産、自動化の技術も進んでいます。密着性、均一塗装性が優れているため、外観もとても美しいといいことずくめです。ただし、設備コストがとても高いのです。それゆえに大量生産品向きの表面処理といえますね。それから飛行機がちょっとおもしろいんですよ。表面をツルツルに磨く、基本的にはそれだけなんです。それ以上特別な処理をしなくても十分な耐久性を持っているし、それに塗装しなければ塗料の重量を節約することができます。ツルツルにすると、余計な汚れがつきにくくなるんです。
モンちゃん
そういえば旅客機も翼から下の部分は塗装してありませんね。あと船などはどうするのですか。
アンサー氏
船の場合は、ボルトやスクリュなどアルミではない金属との接触が多くなります。アルミは他の金属と接触していると腐食が起こりやすいので、表面処理だけで防食できません。そこで犠牲陽極材というものをアルミと他金属の部材の間に取り付け、アルミが腐食するよりも前にそれを腐食させて、それを定期的に取り替えるようになっています。
モンちゃん
輸送機も各々違うんですね。では、コンピュータのディスクなどはどのような表面処理をするのでしょう。
アンサー氏
ニッケル・リン系のメッキ処理が主流です。表面をよりフラットに、より硬くするのが目的です。硬いと研磨しやすいんですね。アルミのメッキは、他の金属に比べて難しいといわれています。それは自然酸化皮膜がアルミの表面についているため、そのままメッキすると密着性が低下してしまうのです。ですけど、メッキ前の下地処理を確実に行えば他金属と変わるところはありません。
モンちゃん
アルミは他の素材と比べて表面処理法の種類は多いですか。
アンサー氏
陽極酸化法ができるのは、アルミとチタン、あと一部のマグネだけです。塗装、化成処理などは鉄といっしょですね。ただアルミのほうが表面処理の選定の幅が広いといえます。例えば同じ酸化法でも陽極ではなく水を用いてアルミと反応させるベーマイト処理もできるんです。
モンちゃん
なるほど。つまりもともと優れた特性をもったアルミに表面処理を行い、よりすばらしいアルミ製品ができるということですね。
アンサー氏
例えば耐食性について考えてみると、大気中では何もしなくてもアルミはほとんど腐食せずに十分もちます。ただ、製品は切り板状態のままで置いとくわけではありませんから、リベットで止めるとかコンクリートと接触するなどの部分は防食しなければならないのです。陽極酸化法、ベーマイト処理のように大気中で自然に生成した薄い酸化皮膜が、腐食環境からアルミを遮断する効果があるわけです。
モンちゃん
では、表面処理におけるこれからの課題にはどういったことがありますか。
アンサー氏
従来は表面処理に求められる特性は、装飾性と耐食性くらいでした。それが最近は一つの特性だけに満足する時代ではなく、いろいろな機能特性が要求されるようになっています。薬剤や塗り方など多くのファクターがからんでいますし、それに対応していくことは難しいのですが、それだけに重要な課題となるでしょう。アルミという素材そのものに関しては、すでに研究開発が進められて十分な成果を収めてきました。今後は成形加工技術と表面処理技術の水準が伸びていくのだろうと思います。
モンちゃん
なるほど。ありがとうございました。
アンサー氏
今日はモンちゃん、最後まで真面目でしたね。なんだか違う人みたいで調子が狂ってしまいましたよ。
モンちゃん
そうですか。アルミと同じで、私はもともと優秀でしょう。そこへ完璧な表面処理をするようにすばらしいお話を聞いたものだから、私もますます優秀になっちゃうな。
アンサー氏
(余計なことを言ってしまった)では、皆さん次回をお楽しみに。