第1節
「KOBELCO VISION“G+”」の始動と信頼回復に向けて
2016~2020年度の世界と日本 緩やかな拡大からコロナ禍へ
世界経済は、日米欧やASEANが比較的堅調に推移する一方、BRICSの成長が徐々に減速した。過剰生産・過剰債務の調整と対米貿易摩擦が生じた中国、クリミア併合に対する経済制裁が続いたロシア、経済危機に見舞われたブラジル、不良債権問題が生じたインドと、要因は様々であった。日本経済は、大胆な金融緩和を中心としたアベノミクスにより実質経済成長率0~2%台の緩やかな回復が続いたが、実質賃金はほとんど増加せず、2019年10月の消費税引き上げ等もあって景気は盛り上がりを欠いた。2000年に世界第2位だった1人当たりGDPは2020年に第24位となり、「失われた30年」のフレーズが定着した。
一方、2015年9月の国連総会での「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」の採択や、2016年5月の日本政府による地球温暖化対策計画の策定等、企業経営にも環境・人権等への配慮がより強く求められることとなった。2020年10月には、菅義偉首相が所信表明演説で2050年のカーボンニュートラル(CN)を宣言した。
このような中、2020年には新型コロナウイルス感染症によるパンデミックが発生したため、全世界が同時不況に見舞われ、多くの国がマイナス成長となった。企業活動への影響に加え、在宅勤務やリモート会議が一般化するなどの大きな社会変化が生じた。
中長期経営ビジョン「KOBELCO VISION“G+”」の実現に向けて
2016年4月、「『素材』『機械』『電力』の3本柱の盤石な事業体確立」を目指した中長期経営ビジョン「KOBELCO VISION“G+”」の実現に向けて、「グループ中期経営計画(2016~2020年度)」をスタートさせた。この中期経営計画は、①世界的な環境規制、②新興国の産業基盤発展、③電源構成の多様化を、当社グループが応えるべき社会ニーズと認識したうえで、成長分野を「輸送機軽量化」「エネルギー・インフラ」と定め、素材系事業・機械系事業・電力事業の3本柱でこれにアプローチすることを大枠とした。
3本柱の事業成長戦略
素材系事業① 輸送機軽量化への取組み
- 自動車分野:超ハイテン・アルミ素材の競争力強化に加え、マルチマテリアル化を実現する独自のソリューション技術を武器にグローバル市場におけるシェアを拡大
- 航空機分野:チタン・アルミ・マグネシウム等の素材において、上工程の強化に加え、下工程(機械加工、表面処理、塗装)参入・拡大に向けた研究開発を推進
素材系事業② 鉄鋼事業の収益力強化
加古川製鉄所への上工程集約に加えて、設備投資や生産現場でのコスト削減等の追加収益改善策を実行し、収益を底上げ
機械系事業① エネルギー・インフラ分野への取組み
- 圧縮機事業の拡大:非汎用圧縮機事業で大型ターボ圧縮機市場への参入を図るとともに、汎用圧縮機事業を拡大し、アジアにおけるトップグループの地位を確立
- 水素関連ビジネス:差別化技術の確立により、国内外市場での競争力を強化し、水素ステーション向けユニット等を拡販
機械系事業② 建設機械事業の収益力強化
中国事業について、生産能力の見直しや他地域向けの供給拠点としての活用等の収益力強化に向けた構造改革を断行し、事業の再構築を実施
電力事業
既設の神戸発電所1・2号機の安定操業を継続するとともに、真岡・神戸の2つの新規発電プロジェクトを着実に推進し、安定収益基盤の確立を図る
経営基盤の強化
- コーポレートガバナンスの強化
監査等委員会設置会社への移行等により、コーポレートガバナンス体制の強化を図る - 人材確保・育成
安全で働きやすい職場づくりに注力し、成長を牽引する人材の確保・育成を図る - 技術開発力・ものづくり力の向上
成長戦略を支える技術開発力の向上及び生産基盤強化とものづくり力の底上げを図る
財務戦略では、定常投資は、原則として事業キャッシュ・フローで賄うことを基本方針とする一方で、事業環境悪化時でも財務規律を維持しながら着実に成長投資を実施できるよう、最大1,000億円をターゲットにキャッシュ対策を検討するとした。
数値目標は、最終2020年度にROA5%以上(2015年度1.3%)、D/Eレシオ1倍以下を堅持(2015年度1.1倍)とした。配当方針は、当面の間は将来の成長のために必要な投資等を優先し、連結配当性向を15~25%とした。
中期経営計画ローリング
2016~2018年度は、計画した施策を着実に進展させた一方で、生産性の課題や戦略投資の収益化遅れ等、素材系事業で課題が顕在化していた。加えて品質事案(本節の囲み記事参照)により、補償費用や専門家・調査コスト等で200億円以上の影響(2017~2018年度累計)が出ていた。
このため2019年5月、当社は中期経営計画ローリングを発表した。2019~2020年度の2年間は、当社グループが信頼を回復することを目指し、「素材系を中心とした収益力強化」に加え、「経営資源の効率化と経営基盤の強化」に注力することとした。
素材系を中心とした収益力強化
- ものづくり力の強化と販売価格の改善
- 戦略投資案件の収益化
- 「鉄鋼」と「アルミ・銅」の組織改編による「お客様への更なる貢献」
経営資源の効率化と経営基盤の強化
- 事業の評価方法の見直し(ROICの活用等)、グループ会社再編を含むグループガバナンスの強化、資金・資産の効率化
加えて、次期中期経営計画へ向けて継続的に「自動車軽量化戦略」「コーポレートガバナンスの継続的強化(品質事案の再発防止策を含む)」等に取り組むこととした。
- 「KOBELCOの約束 Next100プロジェクト」とグループ企業理念
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2017年度、当社グループは、全社員が一つになって「誇り」「自信」「愛着」「希望」溢れる企業集団をつくり、持続的に発展していくことを目指した活動として、「KOBELCOの約束 Next100プロジェクト(次の100年に向けた活動)」を開始した。変化の激しい時代、かつ多様な価値観が存在する中で、グループ全員の想いを一つにする拠り所が必要と考えた。企業理念をすべての企業活動に落とし込み、グループ内外に浸透させることで、持続的発展と企業価値向上を目指した。
従前の企業理念を「KOBELCOの3つの約束」として、当社グループの社会に対する約束事であり、グループ全体で共有する価値観であることを示し、これを果たすために全社員が守るべき行動指針として「KOBELCOの6つの誓い」を新たに策定した。そして、プロジェクトに込めた想いを経営層から社員に直接伝える対話活動を開始した。
しかし、活動を進める中で品質事案が発覚。これを契機に、2019年には閉鎖的な企業風土を変えるため、「我々は何者なのか」「何を目指していくのか」についてあらためて見つめ直し、明文化するプロジェクトを実施した。品質事案の再発防止策の一環で当社グループの各職場で行うこととなった「語り合う場」等での議論を通じ、社員一人ひとりが考える機会を設けるボトムアップ形式で検討を進めた。こうして約1年かけて2020年に制定したグループ企業理念は、ビジョンにあたる「KOBELCOが実現したい未来」、ミッションにあたる「KOBELCOの使命・存在意義」、そして「KOBELCOの3つの約束」「KOBELCOの6つの誓い」で構成されている。
「KOBELCOが実現したい未来」には、「末永く安全・安心に使える製品を提供していくことに加え、社会に新しい価値を提供し、今を、そして未来をより良いものにしよう」という創業当時から受け継がれる精神を込めた。「KOBELCOの使命・存在意義」は、社会のニーズに向き合う中で培ってきた多様な人材・事業・技術のかけ算によって、社会課題の解決に挑みつづけるというKOBELCOならではの「あるべき姿」を表現した。
グループ企業理念の浸透・実践、そして品質事案の再発防止に向け、KOBELCOの約束 Next100プロジェクトでは様々な施策を継続して展開している。
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グループ企業理念
KOBELCOの約束 Next100プロジェクトの主な取組み(2025年時点)
| 「認知→共感」への取組み | 経営幹部と社員との対話活動 | 社長をはじめとする経営幹部が社員に直接語りかけ、変革に対する本気度を積極的に示す活動。事業所訪問による対話とオンラインでの大規模対話の2つの形で実施 |
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| KOBELCO 約束の場 | 世代を超えて品質事案を風化させないための施設として、摩耶研修所に開設。オンラインやサテライト施設も活用し、グループ全社員の訪問を促進 | |
| KOBELCOの約束の日 | 最終報告書を公表した3月6日を、品質事案再発防止を約束した日として制定。毎年各種イベントを開催 | |
| 「関与→実践」への取組み | 経営層・社員一人ひとりの「約束」の宣言 | 一人ひとりが「約束」を宣言する取組み。毎年全役員の約束宣言をグループ全体に公開 |
| 語り合う場 | ①グループ企業理念の浸透、②品質事案の風化防止、③組織内の双方向コミュニケーションを目的に、当社グループの業務に従事するすべての者を対象として毎年実施。語り合う場のファシリテーターを務めるライン部長を対象に集合研修を毎年実施 | |
| KOBELCOの約束賞 | グループ企業理念を実践し、風土づくりに貢献した活動をたたえ合うための表彰制度を制定し、毎年運用 |
- 品質事案
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2016年6月、神鋼鋼線ステンレス(株)でJIS法違反が発生したことを契機として、全事業部門を対象に本社主導による品質監査を進めていたところ、2017年8月末にアルミ・銅事業部門において、公的規格又はお客様の仕様を満たさない製品等につき、検査結果の改ざん又はねつ造等を行うことにより、これらを満たすものとして出荷・提供する不適切行為が行われていたことが発覚した。当社は、対象製品の出荷を即時停止するとともに、外部法律事務所を起用した社内調査を実施したうえ、9月よりお客様への説明を開始し、10月8日以降、対外公表を行った。
その後、品質自主点検の過程で複数の事業所で不適切行為が行われていたことが確認されるとともに、自主点検に対する妨害行為が一部で確認されたことから、10月26日に当社と利害関係のない社外有識者で構成された外部調査委員会を設立し、以後の調査は外部調査委員会に引き継がれた。
外部調査委員会の調査結果を受け、当社のコンプライアンス委員会、品質ガバナンス再構築検討委員会、品質問題調査委員会の検討結果と合わせ、2018年3月6日に品質事案の事実関係、原因分析及び再発防止策を取りまとめた報告書を公表した。
本調査により、不適切行為が確認された拠点は、アルミ・銅事業部門の真岡製造所、長府製造所、大安工場(現大安製造所)の3事業所に加え、鉄鋼事業部門の鉄粉工場、機械事業部門の汎用圧縮機工場、高機能商品部、さらにグループ会社16社※1にのぼり、不適合製品の納入先は延べ688社にもなった。原因分析、及び原因分析を踏まえて取りまとめた再発防止策は以下の内容になる。
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原因分析
- 収益偏重の経営と不十分な組織体制
- バランスを欠いた工場運営と社員の品質コンプライアンス意識の低下
- 不適切行為を容易にする不十分な品質管理手続き
再発防止策
- ガバナンス面:グループ企業理念の浸透、取締役会の在り方、リスク管理体制の見直し、組織の閉鎖性の改善、品質保証体制の見直し
- マネジメント面:品質マネジメントの対策、品質保証人材の教育・育成
- プロセス面:品質管理プロセスの見直し、新規受注時の承認プロセスの見直し、製造プロセス変更時の承認プロセスの見直し
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2018年4月1日付で川崎博也会長兼社長が辞任し、山口貢副社長が第21代社長に就任した。そして、山口社長をリーダーとする「信頼回復プロジェクト」を立ち上げ、再発防止策で挙げた各施策を実行していった。また、取締役会の諮問機関として「外部品質監督委員会」※2を設置し、これら再発防止策の実行状況を外部の客観的視点からモニタリングを行う体制とした。再発防止策の進捗については再発防止策の完了に至る2021年5月まで、都度対外公表を行った。
2020年度からは品質事案の風化防止とともに、持続的成長とグループ企業理念の具現化を目指し、「KOBELCO TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)活動」を開始し、お客様からの更なる信頼の回復、向上に向けた取組みを推進している。
- (株)コベルコ マテリアル鋼管(現(株)KMCT)、神鋼メタルプロダクツ(株)(現(株)KMCT)、神鋼アルミ線材(株)、Kobelco & Materials Copper Tube(M)Sdn.Bhd.(現KMCT(M)SDN.BHD)、Kobelco & Materials Copper Tube(Thailand) Co., Ltd.(現KMCT(THAILAND)CO.,LTD.)、蘇州神鋼電子材料有限公司、神鋼真岡総合サービス(株)、(株)コベルコ科研、日本高周波鋼業(株)、神鋼鋼線ステンレス(株)、江陰法爾勝杉田弾簧製線有限公司、神鋼新确弾簧鋼線(佛山)有限公司、神鋼鋼板加工(株)、(株)カムス、神鋼造機(株)、(株)神鋼環境ソリューション。なお、公表基準を見直したことによる過去事案4件(公表時点でお客様とは解決済)を含む。
- 2019年4月からは「品質マネジメント委員会」として、客観的視点でのモニタリングと提言を継続。


2018年3月6日の記者会見で川崎社長の辞任を公表(左) 、同月9日に山口社長の就任を公表し、同月16日に記者会見を行った
第5章
2016-2020年度
再起 ― 品質事案とガバナンス再構築 ―